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See you again  作者: 田村ケンタッキー
瞬間移動能力者 永谷瞬の虚勢

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臆病者達

「さあどうするよ、瑠璃。もう1ラウンドか? それとも逃げるか?」


 そう言いながら胡桃は倒れているマルコの足首を踏んだ。


「ああっ!」

「止めろっす! それ以上やったら許さないっす!」

「なぁにが許すだよ、てめーにそんな偉そうなこと言えるのか」


 瑠璃は狼狽える。そうだ、まさにその通りだ。また勝手に突っ走り事態を悪化させた。

 助けようにも身体が言うことを聞かない。原因は脳震盪のせいか、はたまた違う外傷か。


「てめぇはこれまでに何をしてきた。友達ごっこしかしてねぇだろ。ボスの尻を追いかけて、たまに友達連行してきて、適当な理由付けで勝手に加入させて」

「……適当じゃないっす、みんな困っているから助けたまでっす」

「それで助けた気になっているから調子が良すぎるんだよ! 言っただろう! 弱者は虐げられる! 脅威がすぐそこまで迫ってきてるっていうのに、てめぇは善人面で裏切りやがってよぉ!」

「ちがうっす……ウチは……みんなを、守りたかったんす……」

「てめぇじゃあこいつらは守れない。さっさと出てけ。キャンプの邪魔だ」


 悲しみに打ちひしぐ瑠璃は動こうとしない。見かねた胡桃はもう一度叫んだ。


「出てけっつてんだろ! キャンプの邪魔だ!」


 返事が来た。思わぬところから飛んでくる。


合宿地(キャンプ)? ここが? 難民キャンプじゃなくて?』


 カレンだった。今まで沈黙を守っていたが、いよいよ我慢の限界だった。


「魔女か!? 隠れてねぇで出てきやがれ! てめぇら、よく探せ!」


 探しても見つけられるはずがない。千里眼からも彼女は姿を隠せる。

 

『気分を害したのなら訂正するわ、ここはゴミ屋敷ね。揃いも揃ってゴミ人間ばかりの吹き溜まりね、ここは。自分を無力だと理解しながら他力本願頼りっぱなしのゴミに、他力本願頼りっぱなしのゴミに依存してるゴミに、コンプレックスをこじらせて他人に迷惑を振りまくゴミに……あぁダメよ、我慢我慢、吐いてしまいそう。オエッオエーッ』


 常日頃から守り続けている品格を今は捨てて嫌悪感をむき出しにするカレン。


「おい、糞ガキ! てめぇだろ! 早く黙らせろ!」


 仕事をしていた犬見を飛ばしてマルコの胸ぐらを掴む胡桃。

 マルコは寡黙を貫き、いよいよ堪忍袋の緒が切れた姉の思いの丈に耳を傾けていた。彼は唯一の家族の性格を熟知している。姉はある程度のストレスには耐えられるが我慢の限界を超えると誰にも止められなくなる。だけども決して感情任せの怒り方はしない。

 上から目線で耳の痛い説教ではあるが嫌いではなかった。才能も結果も兼ね揃え女王と称される彼女だから上から目線でも何ら不思議はないし、てにをはの合う正論だったからだ。


『でもこんなゴミがまだまともだから世界は広いわ。見なさい、あそこにさっきから突っ立ているだけのモブたちを。見ているだけ聞いてるだけのくせに自分を悲劇のヒロインと思い込んでる顔をしてるでしょう? マルコ、ああいうのは関わっちゃいけないし助けようとしなくてもいいのよ。時間の無駄。女だから助けられて当然、能力の低い超能力者だから助けられて当然。そうやって来もしない天の配剤を待っている愚か者よ。何もしない待っているだけの無為を善だと思い込んでるからほんっとうに救いようがないわ』


 胡桃はようやく声の元が腕時計だと気づき、外しにかかる。瞬間移動で持ち主ごと飛ばすが腕時計だけ残すような綺麗な飛ばし方は出来なかった。頭に血が上りコントロールを失っている上、腕時計という標的があまりにも小さいために失敗してしまう。


『知人の透視能力者の話をしましょうか。その子はね、家庭の事情で生まれ育った土地を離れて孤独に静かに暮らしていた。だけど超能力者である以上、理不尽な仕打ちは当然のように降りかかってくる。助けを呼ぼうにも呼べない限りなく非力で無力だったけど愚痴をこぼしながら負けそうになりながらも懸命に努力と工夫をし必死に抗うその勇姿は尊敬に値するわ。たった一人の透視能力者だってね、やりようはあるのよ』

 

 それならば腕時計に直に触れて飛ばせばいい。そんな簡単な動作も行うのも急峻な道のりだ。

 束縛から解放されたマルコは即座に亀の体勢に入った。脇を締め、右手で腕時計を覆う。飛ばされようと暴力を振るわれようと腕時計だけは死守した。彼の意志は甲羅よりも強固。


『女だから何よ、超能力が弱いから何よ、無為でいてもいい免罪符にならないのよ。あなた達にも考える頭脳(あたま)はあるでしょう? 想像力のない馬鹿でも両手両足があるでしょう? 両手両足が折れても生え変わって鋭くなった歯があるでしょう? 無念に倒れたとしても後を継いでくれる同志がいるでしょう? これだけの武器を揃っていながら何もしないなんてカブトムシやクワガタ以下の虫けらよ! 違う、虫けらなんかじゃないと証明したいなら言葉は要らない、勇姿で見返してみなさい! あなた達のご先祖様はどんな強敵に対しても意地と誇りを守ってきたのよ! 半人前のあなた達はその半分、意地くらいは見せなさい! 臆病者達(チキンども)!!』


 野分の如き剣幕は忽然と消えてしまった。台風一過の静寂で場はやや薄ら寒い。

 台風の目であった腕時計は持ち主の手を離れ、ただの時間を知らせる道具と成り下がっている。

 取りに行こうにも激痛が身体の至る部位に離れずくっついてるために亀のように這いつくばり、亀の歩く早さでしか近づけない

 代わりに拾おうとする親切な人が現れる。


「無理すんなよ、糞ガキ。拾ってきてやるよ」


 胡桃は二本足で人間の歩く早さで無情にも追い越していく。

 

「触るな……それは……姉さんの……」


 必死に食い下がる姿に心を打たれたのか、歩きからスキップへと変わる。

 絶望的な状況下でもマルコは諦めない。激痛を追いながら歯を食いしばって前に進んだ。

 その勇姿に心を打たれたのは胡桃だけではなかった。


「ああ……あああ!!」


 青くなった顔を今度は真っ赤にして小見山は気力を振り絞って立ち上がった。乗っかっていた雉沢は転がり落ちる。


「なっ!?」


 突然の反乱に胡桃はスキップを止めてしまうまでに驚異した。

 従順と舐めていた小見山が暴れたことにそこまで驚異するのか。

 否、彼女が目撃した光景はさらに脅威的だった。

 千鳥足の小見山の後ろを蝟集、いや蟻集、いや群衆、いや一団がコンクリートの地面を鳴り響かせながら駆けていた。


「小見山に続けええええ!!!」


 想像力の欠片も微塵と感じさせない反乱だった。敵とみなした人物に群れで飛びかかっていくだけの肉食動物の狩りのようだった。

 ただ難攻不落の牙城を崩すにはそれで充分だった。牙城の要因は強力な超能力よりも微かな空気感が圧倒的に占めていた。アドバンテージは常に胡桃達ではなく彼女達が持っていたのに何故虐げられていたのか振り返ってみれば謎だった。

 犬見と雉沢はあっという間に取り押さえられる。猿若も足を縛られながらも逃げようとしたがあっさり押さえつけられた。抵抗はほとんどなかった。彼女らは均衡が崩れた瞬間に負けを認めていた。

 そんな中、胡桃だけは孤軍奮闘しながら叫ぶ。四方八方を包囲されても勝利を諦めずに抗う。


「てめぇら! 敵を間違えてんじゃねぇ! 敵は魔女の方だろ! 何故わかんねぇんだ!」


 声を裏返しながらの制止も獣達は耳を貸さなかった。

 包囲していた一人が後ろからのタックルで転倒に成功する。すかさず仲間たちが後に続いて覆いかぶさっていくも一人ずつ丁寧に瞬間移動によって剥がされていく。


「人が親身に世話してやってたというのによ……恩を仇で返す奴らなら仲間だと思わねぇ、手加減はしねぇ……!」


 宣言通りに胡桃は容赦なく飛ばした相手を天地を逆にして頭から落としていた。

 限界数がある以上は人海戦術は有効だ。しかし皆が瑠璃のように軽やかに着地はできない。辛うじて受け身を取り軽傷で済めば再び飛びかかる。このループを続けていけば重傷者は必至だ。

 その危険なループを止めるためにも一人が一役買う。


「みんな下がってくださいっす……そいつはウチがやるっす……」


 側頭部を腫らした瑠璃がショルダーバッグを引きずりながら怨敵の打倒に名乗り出た。


「フラフラのくせして倒せると思ってるのか、舐められたもんだな」

「それはお互い様っすよ」


 二人は似ていた。残された体力も背格好も追随する理想も。

 二人は緊張の場面でも恐ろしいほど落ち着いていた。恐らくは蟠りをぶつけ合い、言いたいことを全部吐き出したからようやく二人は睨み合えた。双方の間に理解や和解はない。


「一打っす。次の一打で終わらせるっす」


 ショルダーバッグを掴む手に力を込める。


「つまんねぇハッタリかましてんじゃねぇよ!」


 先に動いたのは胡桃だった。闘争心と敵愾心が燃え上がったために目障りな存在を今すぐにでもぶちのめしたかった。

 対して瑠璃は居合術のように待ち構えた。来るか来ないか分からない好機を信じてじっと堪えて待つ。彼女には武器があった。ライバルの両手にも負けない武器がある。

 片手が突き出てきた。この手に数えきれないほど肉体面でも精神面でも苦しまされてきた。

 それもこれも全部、ここで断ち切る。


「うおおおおおおおおお!」

 

 左足元にあったショルダーバッグを全身を捻らせて投げつけた。大きな見た目から重量があるように見せかけて中は空のためによく飛んだ。


「それがてめぇの言った一打かよ、笑わせるな!!」


 瞬間移動でバッグを飛ばす。

 あえなく()()は無力化された。


「なっ!」


 胡桃は驚きの声を漏らす。

 バッグの影から瑠璃が忽然と現れた。すぐそこまで迫っていた。

 肌身離さず大事にされていた宝物、インスタントカメラは本来の役割と離れた最期の一打を担い、右から左に遠心力を最大限に受けて側頭部に襲いかかる。

 胡桃はいかなる時でも諦めない。頭を逸らしながらカメラとの間に手を滑り込ませた。恐らくただのガードでは防ぎ切れない。だが瞬間移動能力なら防御だけでなく同時に攻撃にも転換できる。飛翔限界数まで余裕もある。有効だと信じ、骨を鳴らしながら筋肉を攣りそうにながら寿命を縮めそうな回避行動が功を奏し彼女の中指の先がカメラに辛うじて触れた。

 指は間に合った、しかし間に合わなかった。

 指を何事も無くスルーしてカメラは側頭部を強打した。


「な……んで……」


 胡桃は白目をむいて気絶した。地面に敗者とバラバラになった貴重なカメラの部品が散らばる。

 瞬間移動が発動できなかった理由、それは瞬間移動能力の特有の弱点のせいだ。瞬間移動能力の弱点は飛躍限界数という最大の弱点に隠れてしまっているがもう一つ存在する。インターバルだ。この弱点は世界中の学者を集めての研究開発の時点から軽視されがちだった。テレポート装置を設置するなら回数を減らし大量の物資を一挙に運ぶという想定が消費エネルギーの節約が可能であり最も合理的だと考えられ、連続性は特に重要視されていなかった。

 その弱点を鍛錬を重ねてきた胡桃が知らないはずがない。気を失う直前の途切れた問いは何だったのか、瑠璃は理解し、届かぬけども答えてやった。


「ウチのほうが……何倍も憧れてたからっすよ」

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