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冷血探偵  作者: 曲瀬 湧泥
~ 子らを悼む歌 ~
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 竜列車に何時間か独りで揺られた後、私はようやく懐かしのわが家へ帰ってきた。


 戸を開けると、長く閉め切っていた家特有のこもったような臭いがむっと鼻を衝いた。「自分の家」の臭いだ。懐かしさを感じ、心安らぐとともに、そうして心の中で何かがほぐれていくのを良しとしない自分もいた。部屋の中に入ると、余りにも変わり映えしないいつもの光景が広がっていた。窓、ソファ、テーブル――手を置くと、テーブルの上にざらざらした手触りを感じる。よく見るとそれはパン屑だった。パルが初めて来た日に、サンドイッチを作った名残だ。掃除もそこそこに出てきてしまったからな――私は屑籠の上で手をはたいてから、箒を持ってきてパン屑を全て屑籠に入れた。


 ジャケットを脱ぐ時、硬いものが腕に当たった。私はようやく思い出し、それを取り出した――古びた雷管式拳銃。結局、一度も発射されることはなかった。私は書棚をどかして金庫を開け、あの日しまった三発の銃弾と共に、拳銃をしまった。


 シャツだけになって一息つき、ふと窓の外を見ると、コガネカニバチの巣がなくなっていた。出がけには、確かにあったと思ったのだが。

 歩み寄って外を見回してみると、窓の真下に砕けた巣が落ちていた。ところどころに白っぽい綿毛が咲いている。カビだ。長雨で湿気を含んだ巣にカビが生え、それが巣を侵食し砕いたのだ。

 しばらく周りを見ていたが、ハチたちの姿はどこにもなかった。砕けた巣の破片の中にも見えない。女王バチと共に、どこか他の場所へ巣を作りに行ったのか、それとも、巣もろともにカビにやられて腐り溶けてしまったのか――私は鎧戸を閉め、窓から離れた。


 さて――私は部屋の中を見回した。あと、何をやればいい? 何もない。何も。


 私はいつも通り書棚から適当な本を手に取ると、いつも通り安楽椅子に座り、背もたれに体を横たえた。本は拡げたが、字は一文字も追っていなかった。ただ黙って、窓の外を見ていた。泣きたいような気がした。だが、泣くことは出来なかった――そもそも、泣くというのがどういうことかさえ、私にはよく分からないのだ。トカゲの体は、涙を流せるようにできていない。

 せめて雨でも降ってくれればいいと思った。だが、長雨が過ぎ去った大竪穴は、腹が立つほどに上天気だった。


 まったくもって、いい日よりだった。

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