異界の使者
学園には不穏な空気が立ち込めていた。仲夏の軍が静岡の県境を超えたからだ。教師連合を結成し、覚悟を固めた教員達も不安の色を見せるようになってきた。その色は生徒達にも伝わり、やがて学園の空気全てを彩った。日に追うごとに芳しくない情報が耳に入り、恐怖で震え、絶望に打ちひしがれる生徒が目につくようになった。それを見た者にも伝播していき、ぶつけようのない怒りが苛立ちとなり、生徒達の関係は険悪となっていった。
シャミリア寝室~
シャミール「大丈夫か?どこか苦しいとこはないか?」
シャミリア「だ、大丈夫。」
シャミール「そうか、何か欲しいものがあったらお兄ちゃんに何でも言えよ。」
そう言うと、彼はシャミリアのおでこに熱さましシートを貼りかえる。その顔は慈愛で満ち溢れている。
シャミール「じゃちょっとお兄ちゃんはやることがあるから少し離れるけど、何かあったら電話しろよ。すぐに来るから。」
シャミリア「うん。ありがとう。お休み。」
目を怠そうにあけながらシャミリアはか細いこえでそう返事をする。
シャミール「お休み、シャミリア。良い夢を。」
シャミール自室~
シャミール「くっ、こんなに早いとは。そろそろ潮時だな。持てるだけの荷物はまとめといた。シャミリアの病状がよくなり次第出発だな。フロルは反対かもしれんが、何とか説得をするか。」
そう言うと、彼はフロルに電話をかける
シャミール「もしもし、あ、俺だ。」
フロル「シャミール、なんの用~。」
シャミール「話したいことがあるんだ。今大丈夫か。」
フロル「あー、オッケ~。今丁度国語の宿題終わったところなんだ^^」
シャミール「じゃ、旧校舎に来てくれ。」
フロル「あいよ~」
旧校舎~
フロル「普段立ち入りの禁止されてるこんな所に呼び出して一体なんの用だ?」
シャミール「時間がない。率直に言う。」
シャミール「逃げるぞ。」
フロル「・・・・・・・・・・・・・」
フロル「何?」
シャミール「だから逃げよう」
フロル「ふざけるな!!」
シャミール「ふざけるなだと?仲夏はすぐそこまで来ているんだぞ!?
お前、死にたいのか?」
フロル「共に守りたいんだ?」
シャミール「守る?何を?」
フロル「行く当てのなかった俺達を受け入れてくれたこの学園と学園の人達だ。」
シャミール「そんなことしたら死ぬぞ。ここで死ねば逃げてきた意味がなくなる。生きようとした努力を無駄にすることになるんだぞ!!?」
フロル「それでも構わない。ただ僕は、もう逃げたくないんだよ。」
シャミール「お前は馬鹿か!!??生きてさえいれば、人はなんだってできるんだぞ!!!??」
フロル「意味もなく生き続けるのは嫌なんだよ。」
シャミール「なら勝手にしろ!!俺達に時間はない。ただ考え直せ。
学園など世界には星の数ほど存在するんだ。そんなもののために、お前は命をくれてやるのか?生きたいと願う過去の自分に背を向けていいのか?駄々をこねるのはいい加減にしろ。お前はもう子供じゃないはずだ。」
フロル「駄々?それをこねているのは君じゃないか。自分をよく見せたいがあまりに生徒会長に立候補した。皆の前で演説をし希望を持たせた。顕示欲や虚栄心を満たす道具としてそれを使った。そして今危機が迫る状況の中、君は投げ出そうとしている。皆の期待や信頼を裏切り自分だけが生き残ろうとしている。」
シャミール「それの何が悪い。生き物の定めだ。」
フロル「違う!!。それは動物の定めだ。理性をもった人間の定めなんかじゃない。君には失望したよ。ここまで責任感のない奴だったなんて。鷹津先輩が聞いたら呆れるよ。逃げるんだったら最初からなるなよ!!!!鷹津先輩の方がよっぽど頼れるよ。」
シャミール「・・・・・・・。だったら、なぜあの時脱出の協力をしたんだ!!?生きたかったんじゃないのか?」
フロル「あの時は自分の人生に意味と成果を見いだせなかった
だから死にたくなかった。でも今は違う。僕は自分の生きる意味を、目標を見つけた。自分の故郷を、温かく迎え入れてくれた人達を守るという重要な使命だ。」
シャミール「馬鹿め」
フロル「君達が居なくなるのを無理には引き止めない。今までありがとう。」
そう言うと彼は背を向け教室へと歩き出した。
シャミリア寝室~
シャミリア「ZZZZZZZZ」
シャミールが部屋の中に入ってくる。なんだか落ち込んでいるようだ。
シャミリア「お兄ちゃん、どうしたの?なにかあった?」
シャミール「あ、シャミリアか。おこしちゃったようだな。ゴメン。何でもないんだ。なんでも。」
シャミリア「嘘。お兄ちゃんがそんなに落ち込んでいるんだもん。なにかあったんでしょ?アホフロルと喧嘩とか?」
シャミール「言葉づかいが汚いぞ。でも、そうだ。お前には隠し事はできないな。フロルとちょっと言い争いになってしまって。」
シャミリア「大丈夫よ~。いつも喧嘩したって仲直り
してきたじゃない。今度もまたすぐ元に戻れるよ」
シャミール「そうだといいんだが」
シャミリア「で何で喧嘩した訳?」
シャミール「そのなんと言うか、今は少し待ってくれないか」
シャミリア「言えないわけ~?」
シャミール「その、ゴメン。必ず言うから。かならず。」
シャミリア「必ずよ。」
シャミール|(あぁ、必ず。どんなことがあっても、必ずお前だけは守る。)|
シャミール「体調はもう大丈夫なのか?」
シャミリア「おかげさまで。ありがとう、お兄ちゃん。」
シャミール「いや~当然のことだ^^。それにお前が苦しむ姿は見たくないんだよ^^」
そう微笑むと彼は部屋の扉をゆっくりと閉めた。
シャミール自室
そこには自問自答する彼の姿があった
シャミール「くっそ、どうすればいい!!!あの分からず屋め。
何が守りたいだ。たかが学生一人に何ができる。死体の山が高くなるのが関の山だ。フロルを見捨てることはできなし、どうすれば良い?」
そう言うと彼は机にうなだれた。うなだれる際の衝撃で机の棚から一冊の古いノートが落ちてきた。これは彼が幼少のころに母がくれたプレゼントである。彼はこれに他愛のないことを書き殴っては母に見せ、褒められるのがたまらなく嬉しかった。両親の襲撃事件の際、彼はまだ幼いシャミリアの手を引き、命からがら家を飛び出した。その時持ってこれたものがこれだけである。後は全部燃えてしっまた。両親との思い出が詰まった家も、服も、写真でさえも。
だからシャミールは何かある度にこのノートを開いては、記憶に残るかすかな思いでに浸っていた。父のタバコ臭くも大きく頼りがいのある手や母の小さくも暖かい手がそこに感じられるような気がして、人生で最も幸せだった時間に戻る。
ふといつものようにページをめくっていると、一つの言葉が目に付いた。その言葉の意味することは分からない。だがこれは、父の書斎で見た古い本の中にあったと彼は思う。よく小さいころ、書斎に入ってはよく叱られていた。叱られても何度もはいっていた。遊び場だったのだ、かれにとっての。
「נפל הישן- ובבית שמש מערבי שמיים שמשyurann דלק 」
この言葉の意味を彼は知らない。知らないはずなのに、どこかで知っているようなそんな気がしてきた彼は、パソコンを起動した。その言葉をネットで検索する。
やはりそれらしいものは出てこなかった。
シャミール「何やってんだ、俺は。こんなことしている場合じゃないのに」
そう呟くと彼はパソコンをシャットダウンした。明るかった画面は次第に明るさを失っていく。
ガタン
彼が椅子から転げ落ちた音だ。
シャミリア「どうしたの、そんなに騒いで?」
シャミール「ちょっと、・・・・
ちょっとゴキブリが出て驚いたんだ。」
シャミリア「ふ~ん」
彼は恐怖のあまり立てなかった。視線さえも上に挙げるのをためらった。
だって後ろには、先ほどパソコンに映った少女がたっているのだから。




