愛国無罪
仲夏帝国軍~北富士駐屯地
劉大佐「兵士諸君、誠に感謝する。君達の働きがここ、北富士駐屯地の陥落を可能にしたと言っても過言ではあるまい。我々38集団軍が練馬駐屯地の47集団軍との合流の日も近い。だが、それまでに大きな障害がある。横須賀に巣食うゴキブリ共だ。奴等は人を欺く狡猾さに優れ、冷酷で非道な振る舞いをし、醜くも図太く生き残ってきた。自国の民でさえ供出と銘売ち略奪を繰り返す。こんな非道が許されてもいいのだろうか?思えば奴等は何も変わってはいない。反省しておらぬのだ。彼ら先祖が我々同胞に何をした?土地を平気で踏み荒らし、奪えるものは奪い、壊し焼き尽くして行った。母は犯され、父は殺される。その時、力なき我々には耐えるしか方法はなかった。悲しみの涙さえ流れるのを許されなかった。憎しみを血で塗りたくり、死体の山に隠れることしかできなかった。我々は無力な自分を、自らの不幸を呪った。だからこそ、身を裂かれる思いが心に誓わせたはずだ。この恨みを忘れてはならぬと。必ずや雪辱を晴らそうと。そしてその思いこそが戦後の国家の隆盛の礎となり、今日の繁栄をなしえたのだ。我々は過去の犠牲の恵を享受している。だがそれに対し誰も気にも留めない。果たしてそれでいいのだろうか?答えは否である。人に物を貰えば感謝するのが当然だ。では彼らが望む最高の感謝とは何だ?考えずとも分かるはずだ。そう、弐本ゴキブリの死体の山を築くことにある!!
さぁ、剣を取れ。銃を構えろ。今こそあの時の雪辱を晴らすべきではないか。同胞達の怒りをぶつけようではないか。そして今こそ英霊達に感謝の意を示そうではないか。進め、兵士達よ!!。もたらすのだ。虫けら共に死を。そして願うのだ仲夏帝国の繁栄を。扶夏滅倭 愛国無罪。」
兵士達「うぉーーーーーーーー」
歓声が木霊する。格納倉庫の熱気が一つとなる。
その場から少し離れたところで二人の男がそれを見下ろす。
呉少佐「失礼ですが、兵士達を惹きつけるほどの魅力が大佐のどこにあるのでしょうか?」
郭中佐「さぁ?私にも断定出来かねるよ。だが彼は根っからの軍人なんだ。兵士達と同じように考え、同じように行動する。それが彼らに流れる戦士の血に共鳴し魅力ある人物へと映しかえるのだろう。戦場では将軍と兵士達の一体感も欠かせぬ物なのは事実だ。士官としては粗暴でも、軍には必要な男なんだよ。」
呉少佐「はぁーそうですか。して今後の予定ですが、やはり大佐の言う通り横須賀残党の討滅ですか?」
郭中佐「そのようだね。今や我々38軍の支配領域は北陸、長野、山梨までに及んでいる。このまま南に兵を進め、47軍と挟撃が最善の方法だろう。」
呉少佐「南ですか?」
郭中佐「そう南だ。行政区画でいうところの静岡だ。温泉が有名らしい。以前より、私はその静岡に根回しをしていた。降伏、開城を促す通告書だ。そして案の定軍基地を初めとした、全ての公共施設、機関が波打つように降ってきた、ある一つを除いてね。」
呉少佐「ある一つ?」
郭中佐「そうある一つだ。そこでは制服に身を包み、軍歌を斉唱するらしい。所属する構成員らは皆剣で武装し、盾で身を守る。」
呉少佐「なんですかそれ?」
郭中佐「学園だよ。我々が力で線引きを変えるなら、彼らはチョークで線引きを変える。指しあたっての脅威にはなり得ないだろう。でも、面白くてね。彼らの無謀さが。青春はこうも人の目を曇らせるものなのか、とね。」
呉少佐「あまり良い趣味とは言えませんね。ただ大国にどう抵抗するのか私も楽しみになりました。」
ブザーが突然なり始める
将校の招集命令がかけれられたようだ。
その場は静寂へと変貌する。
後に残るは不気味なブザー音。
その音は運命を嘲笑っているようだった。




