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無理があると思います!

作者: くるみ

お決まりな、いちばんうしろの窓際の席。頬杖ついて、ぼーっと窓の外を見ていた篠原柚葉は、先生の掛け声でゆるりと前を向いた。


「転校生を紹介するぞー」


えー!うそー!と教室から声が上がる。今は五月だ。この時期に転校生は珍しい。新学期に合わせればいいのに、と柚葉は窓の外に視線をやった。教室内がそわそわしている。三年は二年からのクラスが持ち上がりのため、転校生というのはちょっとした刺激なのだ。女子の高い声が、せんせー男子?男子?と期待を込めて聞く。先生はにやりと笑って、喜べ、イケメンだぞ、なんて答える。きゃー!と女子のテンションが上がったのは言うまでもない。男子は肩を落としつつ、どんなやつなのか興味津津だ。


「はいれー」

「失礼します」


扉を開けて、姿勢の良い黒髪の男が入ってくる。彼が顔をこちらに向けた瞬間、きゃー!と女子のテンションは最高潮に。それはそうだ。見たことないくらい端正な顔が、目の前に現れたのだから。女子の悲鳴に引っ張られるように、柚葉も前を見た。そして、絶句する。

高い身長。均整のとれた身体であることは制服の上からでも分かる。さらさらとした短めの黒髪。そして、その顔―――。


「ち、あき…?」


ほんの小さなつぶやきであったにも関わらず、件の男は聞き漏らさなかったようだ。ふと一番後ろの席に目をやり、そして、


「ただいま、柚葉」


低い艶のある声で、しかも破壊力満点の笑顔で、そう、のたまった。



―――――なんで?







***


彼の一言によって、一斉にクラスの視線がばっと柚葉に集まる。女子のみんなの、どういうこと後で説明しなさいよ柚葉ー?!という目線に柚葉はがっくりと肩を落とす。向こうの席からは親友と呼ぶべき美波がばちっとウィンクをよこした。…めんどくさいことに、なった。ていうかなんでこんなところにいるの。おかしい。絶対おかしい。

担任は、なんだ知り合いかー?と呑気な声を上げて、彼に自己紹介を促した。


「麻宮千秋と言います。この冬まで心臓の手術を受けるためにアメリカにいました。入学がこの時期になってしまったのもそのせいです。病気で長く休学していたので、みなさんより二つほど年上になります。久しぶりの学校がとても楽しみなので、年齢は気にせず、ぜひ仲良くしてください。」



女子は、低くよく通る声にうっとりしているが、柚葉はそれどころではない。


――――はい?


病気で休学?誰それ。いやいやこいつの心臓が悪いとか聞いたことないですけど。


「席は知り合いのようだし篠原の隣だな。ちょうどよく空いてることだし」


周りの羨望の眼差しを受けながら、柚葉は近づいてきたシルエットを見上げる。柚葉は思わず口を開いた。


「ちょっとどういうこと?あんたたしかにじゅ…ぐむっ」

「よろしくね、柚葉」


人差し指を立てて人の口を押さえつけた千明は、有無を言わさぬ声色で柚葉の反論を許さなかった。






***


「もう!一体どういうことか説明して!」


ここは屋上だ。すぐにでも開きたい口を押さえつけて昼休みまで待ち、女子に囲まれかけた千明を速攻で引っ張ってきた。


「そんな目くじら立てなくてもいいだろう?かわいー顔が台無し。」

「いいから早く説明してっ」


柚葉は千明をがっつり睨む。この男は本来こんなところにいるわけがないのだ。だってこの男は柚葉の4つ上。つまり、


「千明22歳でしょ!?こんなところでなにしてるの!高校生とか無理ありすぎだよ!?」

「まあそう騒ぐなよ。なに、話は簡単だ。」


そもそも麻宮千明というのは、柚葉の幼なじみと言える存在だ。隣の家に住んでいた、優しいおにいちゃん。しかしこの千明の家というのがどこぞの金持ちの所謂分家で、本家に後継がいないことから千明は14の時に後継に指名された。それからというもの後継の教育ということで千明は家にいたりいなかったりし、しかも大学は海外の大学だったため、日本を離れていたのだ。


「ちょいちょいスキップしながら、こないだケンブリッジの院出たんだよ。で、急に指名されたのに今までよく頑張ったとかいって、じーさんが一年間の休暇をくれたんだ。」

「ケンブリッジ…そんなとこにいたんだ」

「で、14歳からずっと忙しくて俺は青春時代を勉強に費やしたわけだろ?当然、遊び足りないわけ。そこでだ。」

「年齢詐称して高校生をやり直しに来た…とか言わないよね?」

「正解!」


がくっと柚葉は肩を落とした。


「正解!じゃないでしょ!もう、ばか!しかも中途半端に年齢ごまかして!」

「しょうがないだろ?18にしてはさすがに老けてるし…かと言って4つ上ですとか言ったらすごく距離置かれそうだしな。20歳くらいが妥当かと思ってさ」

「そういうことじゃないの!道徳的にっていうか、だいぶおかしいでしょ!病気なんて嘘までついて!」


ふいっと顔を背ける柚葉を、千明はそっと後ろから抱きしめた。怒った柚葉に千明が後ろから謝るのは、昔からのスタイルだ。


「なあ…、ゆずといっしょがいいと思ったからここにきたんだ。ずっと一緒にいたのに急に引き離されてさ…寂しかったの俺だけ?ゆずとの時間を取り戻したいと思うのは、間違ってるか?」


急に真面目な声で話す千明に、はっとなる。これまで、ずっと大変な思いをしてきたのは千明だ。後継者になれと一方的に言われ、それでも責務を全うしようと親元から離れて自分を磨いた。そんな千明の、ささいなわがまま。


「…ごめん。急に現れたからびっくりしただけなの」

「もう怒ってない?」

「怒ってない。いーよ、一緒に高校生しようか。」


柚葉が顔を緩めて千明を振り向くと、目を細めて柔らかく笑う彼がいた。


「ね、俺だいじな言葉まだ聞いてない。」

「…?」

「ただいまって、言ったと思ったんだけど?」


試すような千明の瞳に、はっとした柚葉は千明の顔を覗き込んだ。


「おかえり、ちーにいちゃん」

「ただいま、ゆず」






~side Y~ おまけ


(っていうかぎゅーとかしてたの私が小学生の頃なんですけど!うっかり昔のノリでくっついちゃってるけど無理無理無理無理!心臓壊れる!こんな肩幅広い千明とか!完全男じゃん!14の千明とはわけが違うよーーー!)



~side T~ おまけ


(つーかホントはじーさんにこの一年で花嫁見つけてこいって言われたんだけどな。そのための仮休暇っつーか。で、ゆずは相変わらずかわいー、と。柔らかいし。うん、決定。てことで)




「逃がさねーから」

「…?」

















柚葉、逃げてー!(違)

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