約束(1)
注意!<必読>:歴史上の人物が登場していますが、完全フィクションです。
歴史的事実・年代については、一部差異があることをご了承ください。
また、ぬるめですが残虐な描写があります。
作者のかなり偏ったイメージと知識のもと作られた作品です。
それでも構わないという心の広い方のみ、ご観覧いただければと思います。
そこに鉄之介はいた。
静かな微笑と澄んだ真っ直ぐな瞳。
優しく包み込むような、鉄之介の温かな雰囲気が何よりも好きだった。
この人とならば、どんなことがあっても幸せでいられる。
そう思っていた。
いや、本当は迷っているのだ。
今ここで離れてしまったら、今度こそ会えない。
もう、約束は何一つないのだから。
「ここを出て行かれるのですね」
「はい」
揺らぐ気持ちを押しとどめ芳乃は頷く。
「この後はどうされるのですか?」
「江戸に戻ります。医者を志そうと思っているのです。江戸に父の知り合いの町医者がいるので。暫くの間、修行をしたいと手紙を書きました」
それが行き着いた答えだ。
芳乃は『死』よりも『生』をみつめてみたいと思った。
命を賭して守ろうとする者たちがいるように、その命を守ろうとする者もいる。
町医者だった父のように、刀を握るのではなく人を守りたいと、今は心底思っていた。
「そうですね。あなたの父君もお医者様でしたし。女子で医者という道は厳しいと思いますが……」
「きっとなってみせます。鉄ちゃんとは違うやり方で、国を人を守ります」
今度はただ追いかけるのではなく、自分自身の足で未来を目指すのだ。
それは、鉄之介と共に新撰組にいたからこそ決心できたこと。
「お芳ちゃんは強くなりました。もう、僕がいなくても大丈夫ですね」
鉄之介はほんの少し寂しそうに笑う。
「いつも私は鉄ちゃんの後を追いかけてばかりだったね。その優しさに、いつも甘えてばかりだった」
「いいえ。甘えていたのは僕の方ですよ。お芳ちゃんが新撰組に来て、僕はいつもあなたの素直な心に勇気付けられていた。傍で笑ってかけてくれた言葉が、いつも僕の背中を押してくれたから。本当は幾度となく挫けそうな時だってあったんですよ。あなたがいたからこそ、僕は迷わずここまでこれたんです」
そう言う鉄之介の瞳は強く輝いている。
「……それだけで十分です」
『約束』は果たされなかった。
けれど、それ以上のものがここにはあった。
見つけられた。
傍に居るということが重要ではない。
離れていても、同じ想いを持っているということ。
それが大切なのだ。
寄りかかって生きていくのではない。
自分の足で立ち道を見つけて歩む。
同じ方向に進めば道はやがて混じり出会うのだから。
「また出会えるはずだから、さよならはいいません」
「はい。またきっと会いましょう」
笑顔で別れる。
そう決めていたはずなのに、涙で視界が歪む。
声が震えそうになるのを、済んでのところで押さえ込む。
「あなたに一つだけ謝らなければ……」
「え?」
鉄之助は、涙を堪え空を見上げていた芳乃を、後ろからふわりと包み込んだ。