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輝魂(6)


 屯所に帰る道の途中、鉄之介が足を止める。


「今日はすみませんでした!」


 勢いよく頭を下げる鉄之介。


「え? どうして謝るの?」

「僕があの場所に連れて行ったばかりに、お芳ちゃんを危険な目に合わせてしまった。僕はあなたを守りきれなかったっ」


 鉄之介は口惜しそうに唇をかみ締める。


「そんなことはない。鉄ちゃんはちゃんと私を庇ってくれたじゃない。謝るのは私の方。私はあの時、あの人にとどめをさすべきだったのに……」


 それが出来なかった。

 仮にでも、新撰組の隊士であるのにも関わらず。


「いいえ。僕があなたを守るべきだった。あの場所に行くのは危険だということも分かっていたはずなのに、それでもあなたを連れていったのだから」

「どうしてあの場所に?」


 芳乃は鉄之介を見る。


「お芳ちゃんは、御陵衛士の方々が亡くなられたことを納得していなかったでしょう? ひどく気に病んでいた。だから連れてきたのです。せめて、彼らが最期を遂げた場所を見ておいてほしくて。……僕はあの夜、彼らが戦う姿をみたのです」


 そこで鉄之介は息を付く。


「これだけは言えます。彼らは、決して同情されるものでも、惨めなものでもなかった。戦いの中で、自分の信念をぶつけ命を散らせたのです。だから、僕はその場所をあなたに知っておいてほしかった」


 真っ直ぐなその瞳にうそは無い。


「ありがとう……鉄ちゃん」


 もしかしたら鉄之介はもう気が付いていたのかもしれない。

 芳乃の心の中にある思いを。

 芳乃さえ気が付いていなかったこの思いを。


「私……」

「お芳ちゃん?」


 鉄之介の姿が滲む。

 芳乃は泣いていた。

 涙が溢れ出す。


(どうして今頃になって気づいてしまったのだろう? どうして今のままじゃだめなんだろう……)


 人が死ぬのは嫌だ。

 それは、力で人々を守る新撰組とは違う考え。

 芳乃はもう気が付いてしまった。

 自分は人を斬る事は出来ないのだと。

 刀で人を守る強さはないのだと。

 命を燃やし輝き続ける彼らの傍にいて気が付いてしまった。

 鉄之介の傍にいながら、行き着いたのは逆の考え。


(私が生きるべき場所は『新撰組(ここ)』じゃない)


 それは、鉄之介と道を違える。

 そういうことなのだ。


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