輝魂(3)
(だめっ)
あまりの恐ろしさに、芳乃は硬く目を瞑る。
キンッ。
刀と刀が交わる音で、芳乃は目を開ける。
「貴様っ」
御陵衛士の低く唸るような声が、芳乃の耳に届く。
「……」
受けた相手は無言のまま刀を押し返し、そのまま相手に突きを浴びせる。
「ぐわっ」
聞こえてきたのは苦しげなうめき声。
鉄之介の背越しにいた芳乃に、その様子は見えなかったが、男が引き抜いた刃が赤く染まっていたのが見えた。
「あ……」
その血の色に芳乃は恐れを抱く。
また人の命が消えるかもしれない。
敵も味方もなく、ただそのことが恐ろしかった。
「やめてっ」
思わず尚も刃を収めようとはせず、相手に向ける男の腕を掴む。
そのことに驚き、相手が静かに芳乃に眼を向ける。
目が合う。
「え? 斉藤……さん?」
思っても見なかった相手の正体に、芳乃は暫し言葉を失う。
「くそっ。斉藤一か!」
芳乃に注意が要ったのを見て、御陵衛士は慌ててその場から退散していく。
その時、思わぬことが起こった。
刀を鞘に収めることも惜しんで走り出した男の前を、運悪く子供が飛び出してきた。
「邪魔だ退けっ」
焦っていた男は、むき出しの刃を子供に突き出していた。
前を見ず駆け出してきた子供は、避ける間もなく、男の刀に突っ込む形となってしまった。
それはカマイタチのように子供を襲う。
構わず男は逃げ出し子供はその場に倒れこむ。
「いけないっ」
ここに来て、芳乃はやっと我に返り、倒れこんでいる子供に駆け寄る。
「しっかりしてっ」
「痛い……痛いぉ」
抱き起こした芳乃の着物の裾に、赤い血が付く。
子供の肩がべったりと赤く染まっている。
芳乃は素早く胸元から手ぬぐいを引っ張り出すと、赤く染まっている肩をきつく結ぶ。
「早くこの子を医者に見せなければっ」
「……僕がこの子を運びますっ」
駆けつけた鉄之介がそう申し出る。
「七条通りを抜けて小路を入ったところに、診療所があったはずだ。案内する」
京に一番長くいる斉藤はそう言うと、先頭に立って走り出す。
その後を、芳乃と鉄之介は付いていった。