輝魂(1)
注意!<必読>:歴史上の人物が登場していますが、完全フィクションです。
歴史的事実・年代については、一部差異があることをご了承ください。
また、ぬるめですが残虐な描写があります。
作者のかなり偏ったイメージと知識のもと作られた作品です。
それでも構わないという心の広い方のみ、ご観覧いただければと思います。
鉄之介の考えていることが分からなかった。
鉄之介も、御陵衛士たちを斬ったのは新撰組なのだという真相は知っている。
芳乃が、その中の一人である藤堂平助と顔見知りであったことも知っているはずだろうし、そのことでひどく気に病んでいるのだって分かっているはずだ。
それなのに、鉄之介はその現場に行きたいという。
興味本位や野次馬根性などではないのだということは、幼い頃の鉄之介を知っている芳乃には分かっている。
だが芳乃にはその真意が分からない。
「ここですね」
そこは何の変哲もない小さな通りだった。
凄まじい乱闘があったはずだというのに、その欠片も見えはしない。
ただ、誰が供えたのか、小さな桃色の花びらを揺らす名も知らない花が置かれている。
ここでこの場所で、藤堂やその他の幾人かの者たちの命は露と消えたのだ。
芳乃はギュッと唇をかみ締める。
「おい、貴様らっ」
その場に立ち尽くしていたその時、芳乃たちの前に男が姿を見せる。
「お前たち、新撰組のものだなっ」
不躾に男は芳乃たちをジロジロと見ながら言葉を放つ。
「なんなのですか? あなたは」
男の眼差しには、はっきりとした敵意が見て取れる。
殺気立った気配は、芳乃にもヒシヒシと伝わる。
鉄之介が緊張した面持ちで、けれど臆することなく言い放つ。
「お前に用はないっ。そっちの女! 俺を見忘れたとは言わせぬぞっ」
その言葉に男の顔を見て思い出す。
夏の頃、菓子屋に行く途中にぶつかり、云いがかりをつけてきた男だった。
「あなたも御陵衛士ですか?」
あの時、どことなく藤堂が庇うかのような態度をしていたのを思い出す。
「ああ、そうだとも。貴様、よくもこんなところにのこのこと来れたものだな。まんまと罠にはまった藤堂を笑い者にしに来たか?」
「!?」
藤堂の名に芳乃はビクリと体を震わせる。
「何のことですか?」
御陵衛士の蔑んだ目を見返し芳乃は震える声で言葉を紡ぐ。
「何の。だと? 白々しい! 貴様ら新撰組が伊東先生を罠にはめ、藤堂らを殺害したことだっ。それだけではなく、貴様は新撰組と通じていながらそれを隠し、藤堂に近づいたっ。無邪気な顔をして、藤堂から我々のことを聞き出していたのだろう!! なんと、卑しい女だっ」
「私はそんなことしていませんっ。藤堂さんが新撰組と対立していたことも知らなかったのですから」
身に覚えのない言いがかりに、怒りで体が震える。
「知らなかった? はんっ! 知らないといって白を切り通せると思っているのか? どのみち貴様が新撰組と関わっていることは、調べが付いている。お前も藤堂殺しに加担したことには変わりないっ」
「そんな……こと……」
”ない”ときっぱりと言えない。
何も知らなかった。
けれどその無知さえ罪だ。
藤堂がこんなにも、新撰組と関わりのある人物だということを知っていれば、もっと何かが変わったかもしれない。
少なくともこんな結末ではなくすることは可能だったのではないか。
「変な言いがかりはよして下さい! 彼女は何も知りませんよ。ただ、顔なじみの方が無くなったので、手を合わせに来ただけのことですっ」
「邪魔だ小僧! 女、お前知っていたのだろう? 藤堂はお前を気に入り、我らの仲間に加えようとまでしていたのだということを。……本当に馬鹿な奴だ」
そう言った男の目は幾ばくか潤んでいた。