穏やかな時間(2)
土方の部屋を出た芳乃は、沖田の部屋へと向かう。
「沖田先生、失礼します」
静かに障子を開けると、床に就き静かに寝息を立てている沖田の姿が見えた。
「あ……」
沖田が昼間から寝ていることは珍しかった。
布団に入ってはいるのだが、寝入っているということはなく、芳乃が来ればいつもじゃれかかってくるのが常だったのだが。
こんな風に、声をかけたにもかかわらず目を覚まさないということは珍しい。
(起こすわけにもいかない……か……)
芳乃は小さく嘆息し沖田の部屋を出る。
休みを貰ったところで行きたいと思うところもない。
そんな気分になれるわけもない。
廊下に出てフラフラと当てもなく歩いていた芳乃は、ふっと庭先の隅に木刀が立てかけてあるのが目に入った。
芳乃はそれに手を伸ばす。
「えいっ……」
木刀を振り上げる。
「えいえいえいっ……」
それを何度も繰り返す。
徐々に額に汗が滲む。
幾度となく振り上げた腕が軋む。
昔、嫌なことがあるとこうしてよく木刀を振っていた。
無心に振り続けていれば、いつか心が晴れる。
そんな気がしていたから。
「お芳ちゃんっ。止めてください!」
どのくらいの時が立ったのだろう。
唐突に腕を掴まれ、芳乃は木刀を取り落とす。
「鉄ちゃん?」
あまりにも険しい顔の鉄之介の姿に、芳乃は驚いて目を丸くする。
「いや、その。ずっと見ていたのですが、どうもあなたが自棄になって木刀を振っているように見えて……」
「ただ稽古をしていただけ。どうしても吹っ切れないことがあって、だから稽古をしていれば迷いが消せるような気がして」
芳乃は取り落とした木刀を拾い上げる。
と、それを鉄之介は取り上げる。
「……出かけましょう」
「え?」
「僕、今日は非番なんです。土方先生に、お芳ちゃんも休みをいただていると聞いて……。だからその、こんな機会は滅多にないことだろうと思いますし」
「いいの?」
「あ、えっと。もちろん迷惑じゃなければの話で……」
鉄之介のしどろもどろの言葉に、芳乃は大きく首を振る。
「迷惑なはずないよ」
芳乃は笑みを零し答えた。




