表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/55

穏やかな時間(2)


 土方の部屋を出た芳乃は、沖田の部屋へと向かう。


「沖田先生、失礼します」


 静かに障子を開けると、床に就き静かに寝息を立てている沖田の姿が見えた。


「あ……」


 沖田が昼間から寝ていることは珍しかった。

 布団に入ってはいるのだが、寝入っているということはなく、芳乃が来ればいつもじゃれかかってくるのが常だったのだが。

 こんな風に、声をかけたにもかかわらず目を覚まさないということは珍しい。


(起こすわけにもいかない……か……)


 芳乃は小さく嘆息し沖田の部屋を出る。


 休みを貰ったところで行きたいと思うところもない。

 そんな気分になれるわけもない。

 廊下に出てフラフラと当てもなく歩いていた芳乃は、ふっと庭先の隅に木刀が立てかけてあるのが目に入った。

 芳乃はそれに手を伸ばす。


「えいっ……」


 木刀を振り上げる。


「えいえいえいっ……」


 それを何度も繰り返す。

 徐々に額に汗が滲む。

 幾度となく振り上げた腕が軋む。

 昔、嫌なことがあるとこうしてよく木刀を振っていた。

 無心に振り続けていれば、いつか心が晴れる。

 そんな気がしていたから。


「お芳ちゃんっ。止めてください!」


 どのくらいの時が立ったのだろう。

 唐突に腕を掴まれ、芳乃は木刀を取り落とす。


「鉄ちゃん?」


 あまりにも険しい顔の鉄之介の姿に、芳乃は驚いて目を丸くする。


「いや、その。ずっと見ていたのですが、どうもあなたが自棄になって木刀を振っているように見えて……」

「ただ稽古をしていただけ。どうしても吹っ切れないことがあって、だから稽古をしていれば迷いが消せるような気がして」


 芳乃は取り落とした木刀を拾い上げる。

 と、それを鉄之介は取り上げる。


「……出かけましょう」

「え?」

「僕、今日は非番なんです。土方先生に、お芳ちゃんも休みをいただていると聞いて……。だからその、こんな機会は滅多にないことだろうと思いますし」

「いいの?」

「あ、えっと。もちろん迷惑じゃなければの話で……」


 鉄之介のしどろもどろの言葉に、芳乃は大きく首を振る。


「迷惑なはずないよ」


 芳乃は笑みを零し答えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ