惨夜(1)
注意!<必読>:歴史上の人物が登場していますが、完全フィクションです。
歴史的事実・年代については、一部差異があることをご了承ください。
また、ぬるめですが残虐な描写があります。
作者のかなり偏ったイメージと知識のもと作られた作品です。
それでも構わないという心の広い方のみ、ご観覧いただければと思います。
慶応四年。十一月十八日。
悪夢は起こった。
静かな静かな夜だった。
大政奉還の騒ぎも徐々に収まり、皆が平静を取り戻しつつあった。
少なからず脱走する者や、町でいざこざを起こす者たちもいるにはいた。
だが、表面上はそれほどの騒ぎもなく、ただいつもの日常が過ぎていく。
少なくとも、芳乃はそうだった。
……そう。その夜までは。
ガタッ。
戸が乱暴に開かれる音で、芳乃は目を覚ました。
「まったく……。また脱走者? それとも誰かが酔っ払って、外に落ちたのかしら……」
夢うつつの中、目を開ければまだ外は暗い。
朝までまだ相当の時間がある。
「…………っ」
「……!」
ドタドタドタッ。
もう一度寝なおそうかと思案していたその時、幾人かの怒鳴り声や興奮したような声。
慌しく廊下を走り抜ける音が聞こえ、芳乃は完全に目が覚めた。
いつもとは違う。
どこか緊迫した尋常でない雰囲気。
こういう時は決まって斬りあいがあった時だ。
芳乃は慌てて寝床から出る。
傷の手当てをする者が必要だ。
町医者であった父の手伝いをしていたこともあり、怪我の手当てなどはしなれている。
芳乃は屯所の誰よりも手際よく処置をし、一度などは瀕死でもう駄目だといわれた隊士を、適切な処置で助けたこともある。
それ以来、怪我人が出たときなどは、真っ先に芳乃が呼ばれる。
今日はまだ誰も呼びに来ていないが、どうにも気になってしまって眠れそうにない。
芳乃は急いで身支度を整える。
「何事ですか?」
廊下に出た芳乃はその光景に唖然とする。
幾人かの者たちが、庭先や縁側に座り込んでいる。
皆、武具を身につけていたが埃と血に塗れていた。
そこには原田や永倉といった幹部たちの姿もあった。
今まで、何度かいざこざを起こして帰って来た者はいたが、今日は明らかにそれと違う。
まるで戦から返ってきたかのような出で立ちだ。
たまたま斬り合いになったのではない。
斬り合いを目的に出かけて、そして帰ってきたのだ。
体がヒヤリとする。
外気の寒さにではなく、心が冷たくなっていくのを感じる。
いつもこうなのだ。
返り血を浴び、傷だらけで帰ってくる男たちを見ると、ひどく心が冷えていく。
これが新撰組の役割なのだと理解していても、いつも心にどうしようもない、わだかまりが広がっていく。
「おいっ。そんなところに突っ立っているな。邪魔だ」
後ろから唐突に声をかけられ、芳乃はビクリと体を震わせる。
振り返るとそこには、混沌としたその場で、一人涼しい顔をしている土方の姿があった。