変革の兆し(6)
「今日はありがとう。とても楽しかった」
茶店を出た藤堂は芳乃に言う。
「私こそ、ありがとうございました」
芳乃はふかぶかと頭を下げる。
藤堂は、京の美しい紅葉が見られる寺の話や、町中で起こった面白い話。
行きつけのおいしい豆腐屋など、日常の他愛もない話をしてくれた。
それのどれもがおかしくて、楽しいものばかりだった。
藤堂が何かを察し、話題を気楽なものにしてくれたのだ。
その心遣いが、今の芳乃にはとても嬉しかった。
「ところでお芳さん」
「はい」
「もしよかったら……」
別れ際、藤堂は芳乃に何かをいいかけてから言葉を止める。
「?」
言いかけ口を噤んだ藤堂はクスリと笑う。
「また今度会うときに言うよ。三度目の偶然。それはきっと運命だと思うんだ」
藤堂は茶目っ気を含んだ瞳を向け言う。
「あ、あの……」
藤堂の突拍子もない言葉に芳乃はうろたえる。
「大丈夫。またきっと会える。そんな気がするんだ。じゃあ、さようなら。お芳さん」
困惑気味の芳乃に手を振りつつ、藤堂は人ごみにかき消されていく。
「……おかしな人」
芳乃は小さく笑う。
明るく太陽のような人だ。
(本当にまた会えたらいいな)
京に来て、屯所以外で始めて出来た友人。
確かに、新撰組の考えとは相反する思想を持った人だ。
けれどそれだけの話。
この京には色々な考え方の人間がいる。
それはそれでいいのではないか。
芳乃はそう思う。
例え考えは違っても、仲間にはなれなくとも、友人にはなれるのだ。
「よーしっ。私も屯所に帰って仕事仕事っ」
そう元気よく言い放つと、芳乃は消えかけた虹をもう一度見上げた。