変革の兆し(4)
静かに降り始めた雨は、やがて町全体を包み込むように雨音を強める。
「本降りになってきたようだ。危ないところだったね」
軒先から身を乗り出し空を見上げ、藤堂は言い放つ。
「ええ。濡れずに済んだことはとても嬉しいんですけど……」
「おいでやす」
飛び込んだ先は茶店。
当然、店に入った途端に店員がやって来た。
これでは、注文をしないわけにはいかない。
芳乃はチラリと藤堂を見る。
(うーん。困ったな)
すっかり忘れていたのだが、『藤堂とは二度と会うな』 そう土方に言われていたのだ。
それが、成り行き上とはいえ、いきなり二人きりで店に入る羽目になるとは。
外は本降りの雨。
中では、店員が席に案内するため笑顔で立っている。
これはもう観念するしかない。
(どうか誰にも見つかりませんように)
芳乃は心の中でそう祈りつつ藤堂と共に席に着く。
「なんにしましょ」
「ああ、代金は俺が出すよ。好きなものを注文するといい」
席に着くと、藤堂はあっさりと言う。
けれど芳乃は慌てて反論する。
「そうはいきません。藤堂さんには、迷惑ばかりかけているのです。このくらいは私が払います」
「いいよ。無理やり引っ張ってきたのは俺なんだし、女子に金を出させる訳にはいかないから」
それを藤堂はやんわりと否定する。
「絶対にだめです! 少しくらい、私に恩返しをさせて下さい!」
思わず立ち上がり、木台に手を付いて、芳乃は藤堂に身を寄せて言い放つ。
「わかったよ。そんなに必死に言われては、断る訳にもいかない。お言葉に甘えさせてもらおうかな」
藤堂は必死に笑いをかみ殺している。
「そうしてください……」
芳乃は我に返り、赤くなり慌てて座りなおす。
ほどなくして、温かな茶とみたらし団子が運ばれてくる。
「さあ、たくさん食べてくれよ。……といっても、お代は君が払うのだけどね」
そういって朗らかに笑う。
親しみ深いその笑顔につられて、芳乃も笑みを浮かべる。
「ああ、よかった。やっと笑ってくれたね。最初目にした時、ひどく憂鬱そうにしていたから、また具合を悪くしたかと心配していたんだ」
そう言いながら団子に手をのばす。
「いえ。そんなことはないです。あの時が特殊で、普段は健康そのものなんですから。私、そんなに憂鬱そうでしたか?」
自分では自覚はまったくなかったのだが、鬱々と考え込んでるうちに顔に出していたらしい。
「ああ。今にも川に身投げするんじゃないかというくらいにね」
「そ、そんなに……」
「ま、それはおおげさだけど、何か思い悩んでるのはすぐにわかったさ。俺でよければ話を聞くよ」
身のない団子の串を芳乃に向けて、藤堂は少しばかり真面目ぶっていう。