回顧(1)
注意!<必読>:歴史上の人物が登場していますが、完全フィクションです。
歴史的事実・年代については、一部差異があることをご了承ください。
また、ぬるめですが残虐な描写があります。
作者のかなり偏ったイメージと知識のもと作られた作品です。
それでも構わないという心の広い方のみ、ご観覧いただければと思います。
「また迷ってしまったのですか?」
沖田の部屋の障子に手をかけたその時、中から笑いを含んだ声が聞こえてくる。
「どうして私だと?」
一応、足音を忍ばせてきたのだがあっさりばれてしまった芳乃は、ばつが悪そうに眉を顰めて障子を開ける。
身を起こしていた沖田は開きかけの本を閉じて、にっこり笑って芳乃を見る。
「気配で分かりますよ。これぐらい分からないようじゃ、新撰組などやっていられませんからね」
飄々としているが、やはり沖田は只者ではないのだ。
こんな風に床につく前、沖田もやはり人を斬っていたのだろうかとぼんやりと思う。
原田や永倉についていた返り血がまざまざと脳裏に蘇える。
「いやだな。そんなに深刻にならなくてもいいですよ。別に僕は怒ったりしませんから」
黙り込んで気落ちしている様子の芳乃を見て、遅くなってしまったことを気に病んでいると思ったのか、沖田は慰めるように言う。
「すみません。遅くなってしまって……」
芳乃は買ってきた饅頭の包みを沖田に差し出す。
「どうしたのですか? 本当に顔色が悪い。僕も色々と我侭ばかり言っているし、何かとお芳ちゃんに負担をかけているんですよねぇ。きっと」
わざとらしく着物の裾で涙を拭う仕草などしてみる沖田。
「そうじゃありません。そうではなくて、何だか色々なことがあって少し疲れているのかもしれません」
そんな沖田を意に介さず、芳乃はボソリと言葉を吐く。
(うーん。これは)
沖田はポリポリと頬を掻く。
「では、私はまだ仕事が残っていますので」
「あ、お芳ちゃん」
部屋を出ようとした芳乃を沖田は引き止める。
「はい」
「今日の夜、東の対の庭に出てみてください。星がとても綺麗ですから」
にこにこと微笑み沖田はそう告げた。