序章
注意!<必読>:歴史上の人物が登場していますが、完全フィクションです。
歴史的事実・年代については、一部差異があることをご了承ください。
また、ぬるめですが残虐な描写があります。
作者のかなり偏ったイメージと知識のもと作られた作品です。
それでも構わないという心の広い方のみ、ご観覧いただければと思います。
少年は『風』で少女は『花』だった。
ふと過ぎった二人の姿に男は笑う。
胸は赤く染まり、周りの騒音も聞こえはしない。
ただ静かだった。
新しい時代が始まっている。
けれどそこに自分の場所は……ない。
そう思うからここで死ぬ。
けれど悔いはない。
託した者たちがいる。
別れ際の少女の挑むような不敵な微笑と、少年の痛いほどに真っ直ぐな瞳を思い出す。
『そろそろ行きませんか?』
自分を覗き込む青年を見て男は笑う。
その青年の後ろには、見知った者たちの顔がある。
安堵感が広がる。
「来るのが遅せぇんだよ」
掠れた声で悪態を付く。
それが最後だった。
新撰組副長。土方歳三。
明治二年 函館にて闘死。
幕末。
嵐の時代。
人々は翻弄された。
生きることと死ぬことは隣り合わせだった。
何が『善』で何が『悪』なのか。
それさえも定かではない時代。
ひたすら戦ったのは、己が信じる正義のため。
ある者は流れに身を任せ、ある者は流れに抗った。
それぞれの想いがぶつかり砕け、交じり合う。
やがて、新たな時代を覗かせても、強い『想い』は消えることはない。
たとえ、”容”がなくとも、想いは確かにここにある……。