自己照会
「この人知りませんか?」
僕は無事医学部へ入学出来て、優秀な方では無かったので進学と授業について行くための勉強に必死だった。
4年生の終わりには、臨床実習に参加するための全国共通試験を無事終えて何とか合格出来た。
少し落ち着いて来たので二丁目のバー『Exit-エグジ-』で聞き込みを開始していた。
そこで幸次郎と言う男と出会った。
「多分…マサヨシさんかな?」
「そうです。」
スマホで撮影した父の画像を見せていた。
幸次郎は僕の2つ下の20歳で、最近彼氏が出来たらしい。
こう言う場慣れしていない僕に色々自分の事など話してくれた。
「何、探してるの?」
「はい…知り合いがもう一度会いたいって…」
「成る程ね。マサヨシさんは特定の人作らないからなあ。」
そうなんだ。
なら、行きずりの人を相手にしてるんだろう。
「俺とネコ被りだから、相手になった事は無いなあ。」
「へえ。」
成る程、父は抱かれる方らしい。
「僕もそうなんで…」
咄嗟に合わせた。
「そうか、お仲間ね。」
「ですね。マサヨシさんは此処には来ますか?」
「たまーに来るかな?」
そうなんだ…一応色付きのメガネやウィッグをつけて変装はしているが…
次はキャップを被ったり服装も普段着ない物にしないと…
もう少し注意しておこう。
「君、名前は?」
「正直」
「ショージね。今度外で会わない?」
「…いいですよ。」
何だろう…
身体の相手にしたいって訳でも無さそうだが
少し気になったのと、興味本位で後日、別の場所で幸次郎と会う約束をした。
○○○○○○○○○○
「ショージってさ、マサヨシさんの息子?」
後日、カフェで会って幸次郎に問われた。
「どうして?」
「顔、似てるから。」
「やっぱりバレましたか?」
「そうだね。てか、名前の通り正直だね。言い訳とかしないんだ。」
「まあ、諦めるのは得意なんで。」
「へえ。何で?」
「父に散々躾けられて来たんで」
「ふうん。どんな風に?」
そう聞かれて、今まで父にされて来た事を洗いざらい話した。
他人に話したのは初めてだった。
幸次郎の上辺の同情や憐れみと言う事では無い、ただ淡々とした質問態度の安心感か…
幸次郎の持つ不思議な人柄に引き出された感じがした。
「凄いね。普通なら逃げ出すか精神壊すかしそうだけど…」
「まあ、僕は鈍感なんでしょう。すっかり歪んだ自覚はあるけど。」
「ふうん。マサヨシさんの事調べてたけど、やっぱり憎いの?復讐したいとか?」
「うーん、憎いとかではないかな…」
「へえ。じゃあどうなりたいの?」
「僕は…誰にも干渉されずに…自由になりたい…」
「そっか。ならさ、良い人紹介するよ。」
「?」
何だろう…
ヤクザとか暗殺者とかそんな類いだろうか?
「その人が直接どうこうする訳じゃないんだけどね、多分ショージのこの先の指針になる考え方を導いてくれると思う。」
「ふむ。」
何だか怪しかったが、何故か会ってみようと思った。
○○○○○○○○○○
「この人は佐伯口咲さん。」
幸次郎に女性を紹介された。
勝手に男が来ると思っていたので驚いた
のだが、驚く理由はそれだけでは無かった。
「口咲さんは…前衛的な格好ですね…」
そう。
髪はどミドリ
服装は所謂黒のテラテラした身体にピッタリフィットしたラバーの膝上位のミニのワンピース
アミタイツに15センチはあろうかと言うピンヒールだ。
「この人はね、俺の叔父さんの知り合いで俺もお世話になった人。祈祷師みたいな事をしていて依頼を受けてお祓いなんかもしているんだ」
「へえ…」
何だか話が斜め上に向かって行ってるなと思った。
僕はその手の詐欺に遭おうとしてるんだろうか…
高い開運グッズやら買わされるんだろうか…
「大体話は聞いたよ。」
「はあ…」
「私は今回はお祓いでお前に会いに来た訳じゃない。」
「そうですか。」
「私の教えはね、ドミネーション&サブミッション。DS。支配と従属ね。」
「支配と従属…」
「一方通行じゃダメなの。支配する側も支配されるし、逆もまた然りよ。お互い信頼関係が無いと成り立たないの。」
「支配する側も支配される…」
「お前は父から支配され続けたね」
「はい。」
「なら、お前も父を支配しなくてはならない。」
「そうなんだ…」
「支配すると言う事は支配される…従属もしているんだよ。逆も然り。」
「そうなんだ…」
「信頼関係…愛がそこから生まれるんだよ」
「そうなんだ…」
今までの僕とこれからの僕…
道が照らされた気がしていた
僕は興奮していた
口咲さんはこの頃は髪がミドリだったようです。
口咲については「芳一郎奇談-四谷怪談」を参照下さい。




