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深海  作者: 水嶋


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19/26

どうしようもない世界

ここからは田所の過去の話になります。

「まだか」


「ごめんなさい」


「こんな問題に何分かけるんだ。そんな事で今度の試験でA判定を出せると思っているのか?」


「ごめんなさい」




父、正義は厳しい人間だった。


精神科の開業医をやっていた。


表向きは外面が良く、温厚で清廉潔白、人から慕われていた。


その分、家庭内では本来の姿…

暴君の様に振る舞っていた。

これは愛情だ、こんなに手を掛けてやってるのに出来損ないで…

が口癖だった。



精神科医なんてやっていたので人の心を読むのも上手く操るのもお手の物だったのだろう。


父は自分以外の人間は無知で愚かな人間だと蔑んでいた。

恐らく温厚に接していた人や、親身になっていた患者に対しても内心そう思っていたのだろう。



それは母に対しても同じだった。


その母もやはりおかしな人間だった。


「正直、家に入る前にはまず着替えなさい」


学校や、外出先から帰ると先ず玄関横の部屋で着替えさせられた。


その後手を30秒以上、肘から洗って爪ブラシで爪まで洗う。

これを2回やってアルコール消毒を済ませたら漸く部屋に入れて貰えた。


これはトイレに行った時も同じだった。


夏場だとシャワーを浴びて着替えないとダメだった。



俗に言う潔癖症で、外から持ち込んだ物はゴム手袋をして、アルコールスプレーをしてから触っていた。


学校からのプリント等は大変だった。


結局僕が内容をパソコンで打ち直して母に提出していた。


その内世間の流れで僕の学校でもペーパーレスでお知らせがくる様になって安堵したのを覚えている。



恐らくだが、母のこの性格になったのは父の影響ではないかと思っている。


父に否定され続けて、歪んでしまったのだろう。


そして僕も父に否定され続けて歪んでいったのだろう。




「そんな事で医者になれると思っているのか?」


「ごめんなさい」



僕の進路は既に自分の意思とは関係なく、父に決められていた。


「医者になれば…外科医なら何時間も立ちっぱなしで集中力を途切れさせず手術もしなければならないんだぞ。」


「…」


「今日はその練習だ。この水をこぼさないで6時間立っていろ。千香子や黒田に監視させるからな。食事も与えるなよ。分かったな、千香子」


「はい。」




そう言って水が縁まで入ったコップを渡されて父は仕事に行った。


僕の日曜日は食事も与えられず、ただ立っているだけに過ぎていった。


母千香子とこの看護師の黒田という男は唯一僕のこの躾と言う虐待を知っていた。


母は気弱な性格だったので、黙って従っていた。

黒田は優男で、尚且つ雇われていると言う立場もあって何も父に言わないでいたが、僕を心配はしていた。


黒田も父にとっては無駄口を言わない、歯向かっても来ない都合の良い人間

良心が痛む様な仕事を恐らくわざと命じていた。


僕も同じような、僕の場合は父の機嫌の悪い時に当たれる都合の良い道具であり玩具だったのだろう。



丁度昨日患者が騒いで家族と揉めていた。





○○○○○○○○○○





僕は高校生になり、医学部受験の為に塾に夜遅くまで通っていた。



ある日、塾の帰りに父を見かけた。


スーツを来た父より若い男と歩いていた。


仕事関係の人かな?と思い、声をかけてもまた勉強の事などで煩く色々言われるだろうと無視をしていた。


何となく目で追っていて、裏通りに入った所で、男が父の腰に手を回していた。



どう言う事だろうと後をつけてみた。



そうしたら、ホテル…所謂ラブホに入って行った。




暫く頭が混乱していた。



やがて冷静になって来て、ああ、そう言う事かと納得していた。



親に決められた愛の無い結婚。


愛の無い相手との愛の無い子供との愛の無い家庭。


本来の姿で居られない苛立ちと鬱憤。



その中で僕と母は都合の良い吐口で有り、道具で有り、玩具だったのだろう。



しかし、その事実を知っても不思議と特に憎しみとか怒りは湧いてこなかった。



強いて言えば諦め…



僕は年月を掛けて父に歪められたのだろうか?


それとも元々の僕の本質だったんだろうか?


どうにもならない事に対して改善して正常にしようと言う考えにはならなかった。




ただ、自分の置かれている状況がこれ以上悪くならない様にしようと考えていた。


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