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○○○○○○○○○

作者: 青麻

 タイトルを当ててみてください。と、かっこよく言いたいところですが、多分すぐ分かってしまいます。気付いても最後まで読んでね

 ラブストーリーが始まった。…一人芝居の。

 予想はしていたことだ。彼女のことは俺が一番分かっていると思えるほど一緒にいるのだから。

 進学、授業、グループ決め、あらゆる選択に彼女を織り混ぜてきたけれど、どれもこれも気付かれず、結局彼女の観客どまり。

 一日に何度も近くで惚れて、感情が消えたようにぼーっと君を見つめる。

 「なにみてんの」

 はちまきを巻いた君が少しも頬を赤らめずに真ん丸の目を向けてくる。その涙袋も少しも動かない。

 「ゴメン、なんでもない」

 こんなやり取りをもう何十回も繰り返している。答えるとすぐ素っ気なく話を変えたり、違う誰かに話しかける君。

 でもまあ話してくれるだけいいかと、慣れてしまった僕は思う。

 それで済んでしまう以上、それより先にいけない以上、僕の君へのロマンスは続かない。

 というか、そんなことはずっと前から決まっていて、痛いほど知っている。

 もっと違う設定を、もっと違う関係を、君との出逢い方を選べたら良かった。

 こんな僕でももっと軽く、それでも伝わるような価値観の言葉で、せめてもの恋心(こころ)を伝えられたらいいな。

 「あっ!」

 君がブンブン手を振る。

 君と違う色のはちまきを巻いた人が駆けてきてふわりと君を抱く。

 白Tと白Tの間、かいまみえた頬が赤く染まっていた。

 その二人の幸せな雰囲気といい、誰も入れないような関係性といい、恋心全部、無駄じゃんと思ってしまう。

 もちろんこの二人は運命の二人だと信じているわけではない。別れと出逢いを繰り返すのが人生だからこの関係に特別な保証はない。

 でも確実に君の運命の人は僕じゃない。

 否もうとしたって否めない。それを分かって辛くなってるのに離れられない。

 「そろそろ行こう」

 君が恋人と手を繋いで跳ねながら遠くへいく。その振り向きざま当たった長髪が少し痛くて、すごく甘かった。

 そうやって、そういう度に想って、でも認められなくて、僕にとっての君は一体と考え直したくなる。

 もちろん答えは分からないし分かりたくもない。分かった途端に崩れる何かがある。

 だからとりあえずの段落点として、いつもこの言葉で留める。

      君は綺麗だ。



 恋人と手を繋いでグランドを突っ切る。

 私たちはどう見られているのだろう。たぶん恋人同士に見えているのは幼なじみの彼だけだ。

 「おーい!こっちこっち」

 友達がスマホを片手に手を振ってくる。

 近づいたら「みてみてこの人かっこよくない?」とスマホの画面を見せられた。黒っぽい服をラフに着たモデルかアイドルが映っていた。

 「…うん、かっこいいね!」

 「だよね!いや~こういう人と付き合えたら最高だわ」  

 だねぇーと相槌を打つ私に恋人が頭をくっつけてきた。

 恋人は分かっている。

 かっこいいとかタイプとかあれはないこれはありとか、友達の恋ばなはどれもピンときたことがない。いつか乗った飛行機から見えた知らない街の夜景みたいに、掴めそうで掴めない。

 もっと違う設定で、もっと違う関係で、生きることができたらもっと楽だったのかな。

 純粋な心であなたを想って、叶った恋に無邪気に喜んで、無責任に皆の前で「好き」とか言えたら……いいな。

 願っても虚しいだけだけど。

 結局何も言えずに隣に立っているだけ。



 「借り物競走始まりまーす!参加者はスタートラインについてくださーい」

 アナウンスを受けてぞろぞろと移動する。こんなときでも君がどこにいるのか探してしまう。いた。

 参加者全員がスタートラインについたところで髪を染めて盛り上がってる先輩がピストルを持ってやってきた。

 「位置についてー、ヨーイ」

 パンッ

 一斉に走り出す。大衆に押し倒されまいと踏ん張りながら、幾つかの障害をクリアしていく。

 結構いい順位。

 やるならいいとこを目指したい性分が刺激される。

 しかしその刺激は最終ミッションの始まりで止まった。

 [好きな人]

 シンプルすぎる。シンプルすぎる難題が、僕を束の間悩ませた。

 示す?示さない?連れる?連れない?伝う?伝わない?…紙戻そうかな。だが派手髪の先輩と目が合ってしまう。もう一度思考する。

 …知ってるのにな、君のこと。

 ふとそう思ったら、もう負けているのに負けたくないと、強い闘争心が芽生えた。違うな。これだけは許してください、猶予をくださいという懇願か。

 _とにかく僕の人生もこれで終われないって話。

 ふぅー。

 さあ、

 僕は走り出した。

 もう場所は知っている。ずっとずっと目で追ってきたのだから。

 迷わず君のもとへ駆ける。

 「おっどした?お題は?」

 君の問いには答えず、ぶっきらぼうに手を取る。

 「来て」

 「えっ?」

 駆け出したらもう振り向けない。目が合うのは君の恋人だから。

 考えないように無心で走る。でも、柔らかい手が、包んでいる手が何より刺激してくる。

 速い。繋いだ手の先のエンドラインが早い。

 近づくゴールテープが憎い。今から謎にグランド一周しようかな、なんて思っても無駄なんだよな。

 そうやって引き延ばしたところで、君の人生も僕の人生も可哀想になるだけなんだ。

 どれだけ頑張ったって君の好きな人が僕にはならないし、僕の一人称が私にもならない。

 だから、こういう未来はない。

 一層強く手を握る。そしてスピードをあげる。

 早くてもいい。続かなくてもいい。今だけ[僕ら]でいさせてくれないか。

 ラインが迫る。

 あと数十歩、あと数歩。

 手は繋いだまま。

 僕らはゴールテープを切る。

 僕はゴールテープを切った。

 離した手を膝につく。

 「ハァッハッはッ」

 荒い呼吸が君と重なる。

 苦しいな、いろいろと。

 いや、そりゃ苦しいよな。

 目の前で息を揃えている君は今、僕が君を追うみたいに、別の誰かを無意識に探しているんだ。

 「ねぇっ」

 呼気の中で君が発する。

 「お題、なんだったの?」

 僕はもう迷わなかった。

 幸せだったよ、いま。

 だから次は君がなりなよ。

 想うところはあるけど、嫌いにもなれないけど、すべてロマンスの定めだと切ることにする。それはそれで一つのストーリーとして悪くない。ロマンスのあるお話は美しいから。

 だから最後に許される精一杯で、君に心を伝う。

 「かわいい子」



 それを聞いた途端、君は走って行ってしまった。   

 いわないとな、さすがに。

 これ以上はない。そろそろ終わらせなくては。

 でもはっきりいうのはまだちょっと痛い。

 だからもう少し軽やかに



 嘘つきがいる。

 分かってる。彼は握りが弱いから、指の隙間から見えてしまった。

 それでも彼はその言葉に留めたのだ。

 その配慮をごめんねと思う自分はいなかった。いつもは思うのに今日は。

 ただ、私は留めてはいけないと思った。

 彼の勇気を繋がないと、それこそごめんねになってしまう。

 ありがとう、かわいいって言ってくれて、きれいだって思ってくれて。自信になったよ。

 行こう。恋人のもとへ。

 私は駆け出した。もう場所は知っている。いつも目で追っているから。

 関係に永遠も約束もないけれど、とにかく、ロングの黒髪が似合って、甘えん坊で、たまに着るフリルの服が可愛くて、最高にきれいな恋人のもとへ。

 ハァッ



 柄じゃないけどチャラっぽく、自分が傷つき過ぎないように。

 君との恋を終わらせる。

 グッバイ

 


 「ハァッハァッ」

 走に次ぐ走で息切れがひどい。

 でも、その隙間でも、汗で濡れた顔でも言おう。きっと恋人はほころんで私を抱き締めてくれる。

 「好きだよ」

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