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辺境伯家当主フェナカイト



 ジェマが2人の騎士と共に自陣の本拠地に突如として現れると、シヴァリーは目が飛び出すほど驚いた。



「ジェマ!? なんでここに!」


「現状はどうなっていますか?」



 ジェマはシヴァリーの疑問を無視して問いかける。シヴァリーが狼狽えていると、大量の書類を手に傍に控えていたハナナが口を開いた。



「敵方に新型の火薬武器があります」


「火薬武器?」


「はい。抱えるほどの大きさの球が爆発するんです。それを投げ込まれるので、遠距離から攻撃される上に、近づくこともできません」



 ハナナが眼鏡をクイッと持ち上げると、シヴァリーも渋い顔をした。



「あれのせいで地面も抉られるから、進軍も難しくてな」



 そのとき本陣の幕がバサッと音を立てて開いた。ジェマがビクッと肩を跳ねさせると、漆黒の甲冑姿の男が複数人の兵士たちを連れて現れた。そしてジェマをギロリと睨みつけるとシヴァリーへ鋭い視線を向けた。



「おい、この子どもはなんだ?」


「彼女はジェマ、道具師です」


「道具師だと?」



 漆黒の甲冑姿の男の眉がつり上がる。そして再び視線はジェマに向けられた。男の白濁した瞳と銀色の髪。ジェマは深呼吸をして男を見つめ返した。



「道具師は後方支援をするのが仕事だろ? ここは嬢ちゃんが来るようなところじゃねぇぞ」



 ジェマは男の圧に一瞬怯んだ。シヴァリーは男とジェマを交互に見る。そしてそっとジェマに囁いた。



「この方はこのマグネサイト領の領主、フェナカイト・マグネサイト辺境伯様だ。粗相のないよう気を付けた方が良い」



 シヴァリーの忠告を聞くと、ジェマは慌てて凛と背筋を伸ばした。そしてフェナカイトを見据えて、なるべく冷静でいられるように深呼吸をした。



「私は」



 ジェマが話そうとしたそのとき、腹の底に響くような轟音と共に地面が揺らいだ。あまりの揺れにジェマがふらつくと、咄嗟に後ろにいたカポックが支えた。



「大丈夫か?」


「は、はい。これが、敵方の火薬武器ですか……」



 ジェマは眉間に皺を寄せた。そして幕の外をちらりと覗く。そこには倒れた味方をどうにか自陣へ引き上げる兵士たちがいた。現場の凄惨さにジェマはゴクリと唾を飲んだ。震える足にグッと力を入れて、深呼吸をする。



「防御の錬金魔石で魔力障壁を作りましょう」



 ジェマの言葉にその場はざわついた。シヴァリーとハナナも眉を顰めている。



「ジェマ、悪いが、それは無理だ。ここ自陣を守れるだけの魔力障壁を作るなんて、どれだけの魔力を消費しなければならないと思う?」



 シヴァリーの言葉に誰もが頷く。そのとき、戦場の方から雄叫びが響いた。再び幕から外を覗き見れば、どこからか攻め込んできた敵兵と味方の兵士が混戦状態になっていた。



「伏せろ!」



 その中に聞こえた凛々しいが、少し高い声。ジェマは瞬間的に声の主の笑顔が脳裏に浮かんだ。



「ユウさん!」



 ジェマが慌ててその姿を探すと、混戦地帯から少し離れた地点でユウが敵兵に切りかかっていた。その敵兵が狙っていたのは味方の兵士。ユウが敵兵を切り伏せると、血飛沫が飛ぶ。ユウは他の敵兵の手が届く前に救出した味方の兵士を支えながら自陣へ引き返そうとする。



「よ、良かった……」



 フェナカイトがそう呟いた瞬間、どこからともなく黄土色の火薬武器が飛んできた。その標的になったはユウと負傷した兵士。ユウは火薬武器の落下音に気が付いて空を見上げる。そして咄嗟に負傷した兵士を庇うように伏せた。



「アイトォ!」



 フェナカイトが叫ぶ。シヴァリーたちも目に悲壮な色を浮かべた。けれどジェマだけは走り出した。本陣の幕を飛び出して、ジェットが【次元袋】から取り出した魔法障壁の錬金魔石を握りしめた。錬金魔石に緑色の魔力が流れ込むと、ユウと負傷した兵士の頭上に緑色の魔法障壁が現れた。


 火薬武器が魔法障壁に激突して破裂すると、周囲に轟音が響き渡る。暴風が吹き、砂塵が舞う。敵も味方も関係なく誰もが目を覆い、風を避けた。


 砂塵が収まると状況が見えた。火薬武器の落下地点にはユウと負傷した兵士。その周辺は地面が抉れることもなく綺麗なままだった。


 魔法障壁は物理攻撃を無効化する。火薬武器の攻撃を抑えるにはそれなりの魔力を消費する。けれどジェマはまだ魔力欠乏の症状を感じることはなかった。


 敵兵に動揺が走る中、即座に本陣を出たフェナカイトが指示を飛ばす。それによって味方が体勢を立て直して敵を敵陣へ押しやった。



「ユウさん!」


「ジェマさん? いや、とにかくこの方の手当てを!」



 動揺の隙をついて本陣の方へ戻ってきたユウ。ジェマがいることに驚いたけれど、すぐに担いできた兵士を救護兵へ受け渡した。


 負傷した兵士が救護テントに連れていかれると、本陣の幕内へ戻ってきたフェナカイトが不安げに救護テントを見た。そしてすぐに表情を切り替える。



「キミ、よくやった。お嬢ちゃんも、お手柄だ」


「いえ、自分は当然のことをしたまでです。前線へ戻ります」



 ユウは一礼すると前線へ走り出そうとする。ジェマはその手を掴んで1つの道具を手渡した。手榴弾のようなピンが刺さった黒い小さなボールをユウは不思議そうに見た。



「気を付けて」


「これは?」


「【煙幕玉】です。必要になったらピンを引いて投げてください。1秒で爆発するので、くれぐれも手に持ったまま使用しないように」


「ありがとう。ジェマさんも身の安全を第一に」



 ユウはそう言って微笑むと、青いマントを翻して前線へと駆け出した。



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