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 ジェマは設計図と照らし合わせながら【シワ伸ばし機】を制作していく。アイオライトが昼食にサンドイッチを持ってきたが、それに気が付くこともなく黙々と作業を続けていた。


 その傍でジャスパーがふらりと身体を起こした。グイッと身体を伸ばすと黄金色の瞳がパチリと開く。ジャスパーの動きに気が付いたジェットも脚を伸ばしてピョンピョン飛び跳ねた。



「傍にいてくれたのか。ありがとうな」


「ピピッ!」



 ジェットは1本の脚を持ち上げて胸を張る。ジャスパーはその動きだけでジェットが誇らしげにしていることを読み取った。そしてジェットから視線を外すと作業台に向き合っているジェマの姿を見た。



「ジェット、ジェマはずっと作業をしているのか?」


「ピピッ!」



 ジェットが1本の脚を上げて答える。



「休憩は取っていたか?」


「ピーピッ!」



 今度は2本の脚を上げて答える。それを見たジャスパーはジェットの頭を撫でる。そして机の上に放置されたサンドイッチを見てため息を吐いた。



「ジェット、サンドイッチを【次元袋】で包んでおいてやってくれ。劣化が防げるだろう?」


「ピッ!」



 【次元袋】が操作する次元についておさらいしておこう。【次元袋】は第1に空間、そして第2に時間をコントロールする。闇を作り出すだけではない闇属性魔法の有用な使い道である。


 ちなみに闇を作り出すことが最初で、時空コントロールが追概念のように捉えられることが多い。しかし本当は時空コントロールの一環に闇があるのだ。時空コントロールによって光が吸収された状態が闇の創出である。


 イメージで発現させる魔法とは違い、素材に付与されている魔法については素材ごとに差が生じる。道具師はその差異すら見抜いて、作りたい道具に対して適正のある素材を選ばなければならない。


 とはいえ、ダークアラクネの糸のような魔法が付与された素材はメジャーではない。多くはホールアラクネの糸のように微妙なサイズ差があるものくらいだ。それであればルーペで鑑定しながら仕入れるだけだから目を鍛えるだけで良い。魔道具師へのランクアップを考えていないなら、そこそこの修行で生きていける。


 ジェットがお皿の上のサンドイッチを【次元袋】で包み込む。ジェマはその大きな動きにすら気が付かないほど目の前の道具に熱中している。ジャスパーはその横顔をジッと見つめる。



「まったく。似た者親子なんだからなぁ」



 そう言って蹄で後頭部を掻く。そしてさっきからずっと目を背けていた素材の山の頂上にふわふわと飛び上る。



「ジェット、【次元袋】を広げて持っていてくれないか?」


「ピピッ!」



 ジェットは1本の脚を上げて答えると、山の傍に放られた【次元袋】を3本の脚で器用に広げた。ジャスパーは浮遊魔法で山が崩れないように支えながら素材を袋に詰め込んでいく。



「片付けが下手なところは全く似ていないのになぁ」



 ジェットはぼんやりと昔のことを思い出す。いつでも整理整頓されていた作業部屋。それがジェマが訓練を開始するとその日の夜には整然と並んでいたものがぐちゃっと乱される。それをスレートが笑いながら直して、眠る前には再び整然と並んでいた。



「部屋の乱れは心の乱れ、そう教わったんじゃなかったのか?」



 ジャスパーは小さくぼやく。ジェットはクリンと首を傾げたけれど、すぐに自分も糸を吐いて散らばった素材をかき集め始めた。


 2匹の活躍によってどうにか机の上にスペースが生まれる。そしてすっかり【次元袋】の中に素材を収納し終わったころ。ジェマがガチャリと手に持っていた半田鏝を置いた。



「終わったぁ!」



 吠えるようなジェマの声。ジャスパーとジェット、護衛に残った騎士たちはビクッと飛び上った。バタバタと足音がすると、なんだなんだとターコイズとアイオライト、ゼオライトも駆け込んできた。



「え、えへへ」



 全員の注目を集めてしまったジェマが照れ臭そうに頭を掻く。何事もなかったことにホッとした全員の視線が、今度は完成したばかりの【シワ伸ばし機】に注がれた。



「これが完成型かい?」


「はい。これから試運転をして、商品ノートに記録を取ったらギルドに新商品登録に行ってきます。そのついでに〈エメラルド商会〉宛ての商品の転送もお願いしてきます」



 ジェマが【次元袋】に荷物を詰め始める。その姿を見ながらふとゼオライトが首を傾げた。



「そういえば、ジェマは転移魔法の錬金魔石を持っているんだよな? どうしてそれで転送してしまわないんだ?」



 ゼオライトの疑問にジェマは苦笑いを浮かべた。



「確かにそれで運ぶのが1番簡単なんですけど、転移魔法を発動するためにはどれだけの魔力が必要だと思いますか?」


「……あ」



 ゼオライトは恥ずかしそうに顔を赤くした。重すぎる重量の転移には精霊であり魔力量の多いジャスパーが倒れるほどの魔力が必要になる。荷運びとは言ってもそこそこの重さになると相当量の魔力が必要になる。だから誰もそうホイホイと使えるものではなかった。


 当然ジェマの魔力量であれば往復も余裕だ。ジェマ自身も試してみたことがあった。けれどそのときにスレートに鬼のような剣幕で叱られてからは無暗に転移魔法を使うことはなくなった。転移魔法を簡単に使えてしまうほどの魔力を持っていると大ぴらに公言しているようなものだからだ。



「じゃあ、いってきます!」



 ジェマはジャスパーとジェットを肩に乗せて【次元袋】を手に持つと、騎士を引き連れて〈タンジェリン〉を出発した。



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