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 翌日、ジェマが〈タンジェリン〉の工房ですっかり頭を悩ませている間、ジャスパーはジェマの警護をジェットとカポックに任せて騎士団詰め所へ向かった。



「シヴァリー、いるか?」



 ジャスパーがシヴァリーを訪ねたとき、シヴァリーたちはオレゴスの騎士たちと共に訓練場で訓練に勤しんでいた。心なしか、とも言えないほど距離を空けられているけれど、シヴァリーたちは気にせず剣を振る。ここにいないのは今ジェマの警護をしているカポックと、昨晩の警護担当だったユウだけだ。



「ジャスパーさん」



 シヴァリーはハナナに訓練を任せてジャスパーの方に来た。シヴァリーはチラリとオレゴスの騎士たちを見ると、訓練場の外を指差した。



「ここだとマズいから、外でも良いですか?」


「ああ。構わない」



 ジャスパーとシヴァリーは訓練場を出るとシヴァリーの自室に向かった。



「ファスフォリアの騎士とオレゴスの騎士の間には確執でもあるのか?」



 ジャスパーの疑問に、シヴァリーは苦笑いを浮かべた。



「俺たち第8小隊は平民の俺を隊長に据えて、メンバーも平民と下級貴族ばかりですから。どこの街の騎士団でも、上級貴族の集まりには嫌われるんです。しかも今回俺たちは第2王子の勅命で動いてますから。勅命を受けたのが自分より格下の人間だと思うと苛立ちもするでしょう?」



 シヴァリーが声を潜めて苦笑いを浮かべながら説明する。それを聞いたジャスパーは、ふんっと鼻を鳴らした。



「なるほどな。まったくもって器の小さな輩だな」


「それ、ジャスパーさんくらい長生きしている精霊じゃなかったら不敬罪で切られますよ」


「ふん。我に勝てる者などそういない。まあ、ジェマには勝てないが」


「ジェマの強さは、格が違います。魔力量がむちゃくちゃですよ」



 シヴァリーの言葉にジャスパーは頷いた。2人でシヴァリーの部屋に入ると、ジャスパーは記憶をなぞるように遠い目をした。



「ジェマが塗料を制作したときのことを覚えているか?」


「ええ。緑色の魔力が道具に取り込まれていったあれ、ですよね?」


「ああ。あれについてだが、あれは魔力回路の構築が行われたと考えて良さそうだ」


「それって、魔道具師のスキルじゃないですか」



 シヴァリーが目を見開いて驚いた声を出すと、ジャスパーはゆっくりと首を振った。その瞳には薄っすらと恐怖が滲んでいた。



「あれは、そんな生易しいものじゃない。道具に魔法陣を描くことで魔法の行使をするのが魔道具師や所有者固定魔道具師だ。ジェマの場合、魔力だけで思うがままに魔法を創出しているんだ」


「それって……」


「ああ。真の魔法使い、聖女と呼ばれる存在に近しい」



 聖女。それは数百年に1度王家に産まれる。普通、魔法は魔法陣や魔力回路に魔力を通すことで魔法として発動させる。魔獣や精霊の魔法も詠唱に魔法陣と同様の効力がある。これらの魔法や魔法陣、魔力回路に落とし込む前の段階、魔法そのものの創出を行えるのは、思うがままに魔力を魔法に変換できる聖女だけだった。


 聖女は作り出した魔法を魔法陣や魔力回路、詠唱に落とし込む。魔法の解析すらも得意とする聖女は、魔法の天才とも言えた。聖女の誕生は魔法や魔術の発展に繋がる。だから聖女は重宝され、民の希望の象徴として扱われる。



「ジェマは自分の魔力量の認識も曖昧だ。魔力の扱いも、普通の【マジックペンダント】なんかの魔道具ではあり得ない魔法の行使をしているというのに、それを道具のおかげだと思い込んでいるくらいだ」


「確かに、【マジックペンダント】や【マジックリング】では特定の魔法しか使えないはずなのに、ジェマは自在に魔法使っていましたね。気が付きませんでした。だけど魔力量は教会でも道具師ギルドでも、お金を払えば誰でも調べてもらえますよね? それに、魔力の扱い方ならジャスパーさんが教えてあげれば……」



 シヴァリーの言葉にジャスパーは首を振った。



「ジェマの魔力量のことを王家に知られないために、スレートが魔力量測定をジェマに禁じている。ジェマは素直な子だから、スレートとの約束を死ぬまで守るだろうな」


「死んだらもう測れないですしね」


「ああ。スレートのジェマを守るための策の徹底っぷり。やはりジェマは王家の子で間違いないだろうな」


「はい。それに聖女だとなれば、王妃様は必ずジェマを手に入れようとしますね」



 シヴァリーの言葉にジャスパーは頷いた。そして蹄で頭を掻いた。



「だが、ジェマが王家の子だとしたら、どうしてジェマはスレートが育てていたんだ? 王家の子を産むことができるのは王妃か分家の2人の姫さんだけだろ?」


「もしくは元王家の高級貴族でしょうか」


「ああ。だがそんな連中の娘が森の中で育てられるなんて異常だろう? 王家には何か変な決まり事でもあるのか?」


「決まり事……あ!」



 ジャスパーの言葉にシヴァリーはハッとした。そして黙り込むと思考を巡らせ始めた。



「それとだな、もう1つ話がある」



 ジャスパーはシヴァリーがしばらく話さなくなると察知すると、ふよふよとシヴァリーの正面に置かれたテーブルに着地した。



「ユウのことだ。彼女が騎士を続けるためには何が必要だ?」



 シヴァリーはジャスパーの言葉に目を見開いた。そして言葉を紡ぐことなく、ただ悲し気に目を伏せた。



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