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 ジェマは会合が終わってすぐに〈タンジェリン〉の作業場を借りると、早速【マジックペンダント】の設計図を書き始めた。いつものものなら迷いなく、旅の途中の片手間でも精巧なものを作り出せてしまう。けれど今回はいつもと魔力回路が少し違う。


 ターコイズとアイオライトが商品の制作を行っている傍ら、ジェマは黙々と作業を進める。ジェットもその傍で応援するように次元袋を量産している。



「なるほどな」



 ジェマの設計図を覗き込んだターコイズはふむふむと声を漏らした。気になったアイオライトも覗き込むと、クスクスと笑い出した。



「ジェマはおかしなことを考えるのね」


「そうですか?」



 アイオライトは楽しそうに設計図を見ていたけれど、すぐに作業に戻る。ジェマはひたすら線を引き続けて、最後に設計に誤りがないか確認した。



「よし、これならいける」



 ジェマは設計図をしげしげと眺めると次元袋から手に馴染んだ道具たちを取り出した。ジェマが道具師になる前から使っている代物だ。



「そういえば、ジェマは魔術の勉強はしているのか?」


「はい。お父さんが遺してくれた本で勉強しています」


「長旅に出ているくらいだしまさかとは思っていたが……学園には通っていないのか?」



 ターコイズは目を見開いた。学園。シヴァリーが卒業し、ラルドが今も通っているところ。



「はい、お父さんが行かない方が良いと言っていて」


「なるほどな……まあ良い。ジェマにはその方が良かったかもしれん」



 ターコイズの言葉にジェマは首を傾げた。ターコイズはニヤリと笑うと本棚から魔術の教本を取り出した。



「ジェマはどれくらい魔術を書けるんだ?」


「えっと、その本と同じものを持っていますけど、その本に書いてあるものなら一通り書くことができます。お父さんと10歳になるまではダメと言われていたので魔力を流したことはないですけど」


「なるほどな。魔道具師が傍にいなければ訓練でも付与は禁じられているから」


「はい」



 魔道具師になるための訓練において魔法陣に魔力を流す場合、必ず2年以上の経験を積んだ魔道具師の監督の下でなければならない。それは道具師ギルドが制定している規則の1つだ。10歳になる前にジェマが亡くなって、ジェマはそれを試す機会がなかった。



「その【マジックペンダント】が完成したら、魔道具の訓練をするか?」


「良いんですか?」


「ああ。ジェマはもうすぐ、魔道具師認定試験の受験資格が得られそうだからな」



 道具師ギルドにおいて、道具師になることは簡単だ。個人情報を登録すれば完了。そこから魔道具師になろうと考えると、魔道具師認定試験の受験が必須になる。受験資格は自作の道具の総売り上げと道具に対する評価が基準を超えること。もしくは学園で12歳まで魔道具師認定試験講座の授業を全て履修すること。


 一般的には学園の魔道具師認定試験講座を履修することが最短ルートとされている。しかしジェマは自作の道具に対する評価は基準をクリア、売り上げももうすぐ基準に達しそうだった。



「もうじきギルドから受験資格を得たことを通知する封書が届くだろう。それまでに訓練をしておいた方がいいさ」


「はい!」



 ジェマは目を輝かせた。ジェマが目指す所有者固定魔道具師になるためには、魔道具師になってさらに魔術を極める必要がある。魔力回路と魔術を柔らかく緻密に作り上げ、初めてそこを流れた魔力以外の魔力には反応しないようにする。その作業に必要な労力と技術は普通の道具の何十倍とも言われる。


 所有者固定魔道具師を目指す魔道具師たちは、ギルドに指定された所有者固定魔道具をギルド内の試験室で制作し鑑定してもらう。所有者固定魔道具として成立しているものを連続で100個制作し提出できたものだけが所有者固定魔道具師として認められる。


 そこまでの苦労をしたい魔道具師は少なく、そんな緻密な作業をそれだけの長期間続けられる魔道具師も少ない。また指定される所有者固定魔道具の種類はバラバラ。それだけの幅広いものを制作できる者もそういない。それだけにその称号を手にした者は信頼を得ることができる。


 スレートもアクセサリーや装飾品などの精巧なデザインが売りになるようなものを作ることは苦手だった。どうにも苦手だったスレートは必死に練習を重ねてどうにか単純なデザインでクリアした。その苦労の日々を思い出すからと試験合格後は作ろうとしなくなった。


 魔力には意志が宿る。その意志が暴走しないようにコントロールすることが所有者固定魔道具に求められる技術。ちなみに所有者固定魔道具は長年使い込まれた道具に精霊が宿り、所有者以外の使用を拒む現象から考えられたものだ。



「ジェマ、これからは必要なときはいつでも頼りなさい。力になるからね」


「ええ。家族ですもの。遠慮はしないでね?」



 ターコイズとアイオライトの言葉にジェマは目を潤ませた。ジェマがコクコクと頷くと、ターコイズとアイオライトは嬉しそうに目を細めて微笑んだ。



2024.10.03の更新はパソコンの不調によりお休みします。


P.S.

矢印キーでスクロールできないときはF7を押してしまったとき。何度やっても覚えられません。

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