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 顔を引き攣らせて静かになっていたゼオライトが、突然バンッと机を叩いた。



「ふざけるな」



 低く唸るような声。ガネッシュとヒマールが泣きだすと、マイニングとオパールは息子たちを抱き締めた。



「うるせぇなぁ……おい、お前」



 ゼオライトの視線がジェマを鋭く射貫く。ジェットは産毛を逆立てて威嚇するけれど、ジェマはにっこりと微笑んだ。



「なんですか?」


「チッ、依頼だ。俺様のために首飾りを作れ」


「首飾りですか? どのような」


「ああ、魔石の付与ができる首飾りだ」


「【マジックペンダント】でしょうか」


「ああ」



 ゼオライトはニヤリと笑う。ジェマは嫌な予感がしたけれど、ニコリと笑って頷いた。



「分かりました。ところで、なんの魔石を付与しますか?」



 ジェマが聞くと、ゼオライトは緑色に輝く1つの錬金魔石を取り出した。何の魔法かは鑑定してみないことには分からないけれど、まあペンダントにするにはふさわしい大きさだ。精霊が見えていないゼオライトがどうやって手に入れたのやら。



「これで作ってくれ」


「分かりました。他に注文はありますか?」


「ああ、魔法の発動さえしてくれれば問題ない」


「分かりました。2日ほどお時間をいただきますね」



 にっこりと笑ったジェマにゼオライトは嫌な笑みを浮かべた。ジェマは無警戒を装って錬金魔石を【次元袋】に収納した。



「じゃあ、俺はこれで」



 ゼオライトはさっさと席を立つと出て行ってしまった。ため息を吐いたマインは眉を下げてジェマを見た。



「すまない」


「いえ。ひと稼ぎさせてもらいますよ」



 ジェマがにっこり笑うと、ターコイズは不安げな表情を浮かべるアイオライトに微笑んだ。



「ジェマ、私たちの店の工房を使うと良い。鑑定もうちに鑑定機が……って、そうか、ジャスパーか」


「はい。ジャスパー、鑑定をお願い」



 魔石の鑑定は鑑定機という専門の機械を使うか、精霊に聞くことが多い。あまり知られてはいないけれど、精霊契約を行うと契約者は鑑定が使えるようになる。ジェマも使えるけれど、鑑定魔法が使えるという認識をしていないため、なんとなくこれな気がする、程度の認識ができるくらいだった。


 ジャスパーはジッと考え込むとジェマの肩に乗った。



「ジェマ。そろそろやってみるか」


「え?」


「スレートには、一人前になるまで使わせるなと言われていたが。もう十分一人前だろうしな」



 ジャスパーはそう言うと蹄でジェマの頭を撫でた。ジェマがなんのことだろうと思っていると、ジャスパーは錬金魔石の隣にふよふよと飛んだ。



「ジェマ、この錬金魔石に手を翳してくれ」


「う、うん」



 ジェマは言われた通りに手を翳す。ジェマは不思議そうにジャスパーを見ると、ジャスパーはふんっと鼻を鳴らした。



「鑑定と唱えてみろ」


「鑑定?」



 ジェマが詠唱をした途端、ジェマの視界には数値や名前が見えるようになった。



「それが鑑定魔法だ。ジェマは我と契約したことで使えるようになっている。見たことがないか? スレートが魔法を行使しているところ」


「うーんと……ある、かも?」


「まあ、スレートはあまり魔石付与魔道具は作らなかったからな」


「うん。魔石付与より魔術付与のほうが得意だったから」



 ジェマの言葉にターコイズは豪快に笑い飛ばした。



「アイツはこの街出身の者にしては珍しく精巧な作業や魔石、鉱石の扱いが下手だったからな」


「ええ、それだけはからっきしでしたね」



 アイオライトまでクスクスと笑う。ジェマも確かにな、と納得してしまったから、ジャスパーはもう苦笑いするしかなかった。



「それで? その錬金魔石はなんの魔石だったんだい?」



 マインが不安げに聞くと、ジェマは誤魔化そうかと悩んで、伝えるべきだと考え直した。



「無属性魔法、隷属魔法の錬金魔石でした」


「隷属、だと?」



 マインの眉がつり上がる。マイニングはガバッと立ち上がって頭を下げた。隷属魔法の魔石は主人の紋章を魔石に書き込み、対象にその魔石を身に着けさせることで隷属を成立させる。



「兄が申し訳ありません!」



 マイニングの手は怒りに震えている。オパールはその手を握って優しく撫でた。マイニングも兄の非行には手を焼いていた。



「彼の非行の原因は、やっぱりご両親の件か?」


「ええ。両親が亡くなってすぐに僕はこの家に婿入りし、兄は両親の遺言通りに両親の店を継ぎました。けれど兄の腕は両親には遠く及ばず、業績は悪化する一方でした。その状況が長く続くと、兄は精神を病み技術を磨くことを辞め、他人をやっかむようになりました」



 マイニングが苦し気に話すと、ターコイズは腕を組んで考え込んだ。マインも頭を抱えると大きなため息を漏らした。



「それにしても、隷属か。いったい誰を……」


「可能性があるのは、兄が求婚を続けている宿屋の店主でしょうか」


「セラフィナさん、ですか」



 ジェマは眉間に皺を寄せた。セラフィナなら普通の求婚なら断り続けることもできるだろう。しかし隷属魔法をかけられてしまえばそれも不可能になる。



「作らないでくれ、と言いたいが、そうすればジェマさんの信頼を下げることになる」



 依頼の未達成を溜めることでギルドから信頼度を下げられる。一人前への道を遠ざける行為だ。マインが眉間に皺を寄せた。ジェマはジッと考え込むと、ふと1つの可能性を見つけてニヤリと笑った。



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