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サファイア色のドレスを身に纏ったジェマはファーニスト邸の隣、メイソン邸の前に立っていた。ターコイズはグレーのスーツ、アイオライトは夜の海のような深みのある青いドレス。ジャスパーとジェットも赤いリボンを付けられていた。
「我々も同席して良いのですか?」
「大丈夫だ。向こうも使用人を連れているでな」
シヴァリーとハナナも騎士団の正装でジェマの背後に控える。騎士団の正装はいつものグレーの甲冑に王家の紋章入りの青いマント。いつもの兜を脱いで青い羽の付いたバイコーンを被る。
ターコイズとアイオライトはメイソン邸のドアベルを鳴らす。サッと出てきたクラッシックなメイドさんは2人を見ると恭しく一礼して門を開いた。
「やあ、ターコイズ。アイオライト婦人は本日もお綺麗ですね」
奥にある邸宅から出てきた黒髪にベージュのスーツを着た男。ジェマはその男のオーラに驚いたけれど、微かに香る石の匂いにホッとした。
「よお、マイン。相変わらずスーツが似合わんな」
「お互い様だろう?」
ターコイズとマインと呼ばれた男は豪快に笑い合う。そしてマインの濁った黒い瞳がジェマたちに向けられた。
「それで? 今日は随分と賑やかだな。それに少し物騒な連中もいるが?」
マインの鋭い視線にジャスパーとシヴァリー、ハナナは恭しく一礼した。ジェマとジェットも慌ててペコリと頭を下げる。
「まあ良い。とにかく上がれ。自己紹介はそれからだ」
マインが屋敷に入ると、ターコイズとアイオライトも付いていく。ジェマたちはその後を追った。石造りの屋敷、そのところどころに置かれた魔道具にジェマの意識は奪われる。ついキョロキョロするジェマをターコイズとアイオライトは微笑ましそうに見ていた。
「ここだ」
マインが案内したのは食堂。そこには既に7人の男女がいた。その中にはゼオライトもいる。マインが指示した席にジェマたちが座ると、マインとターコイズは長方形のテーブルの端で向かい合うように腰かけた。
「さて、見知らぬ客人もいることだ。自己紹介といこうか。まず俺はメイソン家の当主、マイン・メイソンだ。オレゴスの街の鉱石輸出を一手に担う〈エルツ商会〉の会長もしている」
マインは自己紹介を終えると、同じく濁った黒っぽい瞳をしたこげ茶髪の男に視線を送った。
「私はマイナー・メイソン。マインの息子です。こちらは私の妻のカルサイトです」
マイナーに紹介されると薄桃色の髪に水晶のような瞳をしたカルサイトも一礼した。続いて微笑んだのは淡い黄色の髪に淡い緑の瞳の女性だった。
「私はオパールです。彼は夫のマイニング、この子たちは息子のガネッシュとヒマールです」
灰色の髪に濁った白い瞳のマイニング、同じく濁った白い瞳を持つ双子の少年は灰色に黄色のメッシュが入った方がガネッシュ、黄色に灰色のメッシュが入った方がヒマール。顔は瓜二つ。違うのは髪の色くらいだ。
「んで、俺様がゼオライト・クリエータスだ。マイニングの兄だ。そこの嬢ちゃんにはさっき会ったな」
我が物顔のゼオライトにメイソン家の人々は顔色を変えることはないが、あまり良く思っていないことが表情から見て取れる。
ゼオライトの自己紹介を軽く流すと、ターコイズがニコリと笑って話の主導権を握る。ターコイズとアイオライトもゼオライトの存在を良くは思っていないことが滲み出ている。
「こちらも紹介しよう。俺とアイオライトは良いか。まず、この子は俺たちの孫のジェマだ」
「ジェマ・ファーニストです」
「孫ってことはスレートの娘っ子か?」
マインは首をニョキッと伸ばしてジェマの顔を覗き込む。ジェマは内心オロオロしつつも真っ直ぐ見つめ直した。
「あんま似てねぇな。髪と目だけか」
「おい。俺の可愛い孫をいじめるでないぞ」
「はいはい。って、うおっ! こいつは魔獣じゃねえか!」
ジェマに近づいたことでマインはジェットの存在に気が付いた。ジェットは元気に2本の脚を上げて挨拶をした。
「この子はジェットです。ダークアラクネの子どもで、魔獣契約をしています。あと精霊契約している精霊のジャスパーも一緒です」
ジェマが紹介するが、メイソン家の人々にはジャスパーの姿は見えなかった。ひとまずジェットが安全ということだけ認識して、マインは咳払いをした。
「それで? そっちの2人は?」
マインの視線が向けられると、シヴァリーとハナナは立ち上がって一礼した。
「王国騎士団第8小隊隊長のシヴァリーです。こちらは同じく副隊長のハナナ。我々は任務でジェマの旅の護衛をしています」
「やっぱり王国騎士団か。直接は見たことなかったが、噂に聞いていた鎧だもんな」
マインはそう言いながらマジマジとシヴァリーとハナナを見る。マインの様子にマイナーが慌てた。
「父さん、王国騎士団といえば貴族様だぞ!」
「おっと。これ、不敬罪になる感じ?」
マインが挑発するように聞くと、シヴァリーはニカッと笑った。
「私は平民ですから、お気になさらず」
「私も貴族と言っても男爵位ですから下級貴族です。それに民を易々と不敬罪で処罰するのは愚の骨頂と認識していますので」
シヴァリーの笑みにホッとしたメイソン家の面々だったが、ハナナの圧のある笑みにはヒュッと息を飲んだ。