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 スレートの初めての恋人は優しく月のような笑顔が印象的な少女だった。スレートはその笑顔を慈しむように見つめていた。



「二人の笑顔を守るためにはこの家にいてはダメだと思いました。結局二人は別れを選んだけれど、私は15歳になったスレートを修行に出しました。そのまま何かきっかけがあれば縁を切るつもりで」



 アイオライトは静かに微笑んだ。



「10年前、スレートから手紙が届きました。子どもができたと。お相手の話は一切なく、ただ帰ることはできなくなるかもしれないとの内容でした。私はターコイズに相談して、帰って来るなと返信をしました。これがスレートが失踪したと言われている一件と自治から手を引いた話の真相です」



 アイオライトは憑き物が取れたような笑みを浮かべてターコイズと視線を交わした。そしてジェマに柔らかく微笑んだ。



「もしもジェマが我が家に籍を置きたいのであればそれは歓迎するわ。家を継がせることはできなくても、あなたは私の孫ですもの」



 アイオライトの言葉にジェマの表情はパッと明るくなった。それを見たターコイズは照れ臭そうに微笑んだ。



「もし良ければ今夜の会食に参加しないか? 孫としてメイソン家の連中にも顔を見せてやりたい。メイソン家はこの街の鉱石の輸出の管理をしているからな、街の外で鉱石の入手をしたいときにはメイソン家に顔を売っておいた方が有利にことを進められる」


「それは助かります」



 ジェマが目を輝かせると、ターコイズは笑みを深めた。そしてアイオライトに視線を送るとアイオライトは満面の笑みを浮かべて立ち上がった。



「さあ、ジェマ、行きましょう」


「え、どこへ?」


「私のお部屋へ。衣装を貸してあげるわ。殿方はターコイズとお話していらして。ジェットちゃんは男の子?」


「はい」


「それなら、ジェットちゃんもそこで待っていらして」



 ジェマの肩に乗って付いて行こうとしたジェットはアイオライトだけでなくジェマにも微笑まれて渋々肩から降りてジャスパーの傍に丸まった。



「ハナナ、護衛を頼む」


「はっ」



 シヴァリーの指示でハナナがジェマとアイオライトに付いていく。残されたターコイズはジャスパーに視線を向けた。



「キミはジェマと契約しているのか?」



 ターコイズの険しい目つきにジャスパーは精霊契約の真実を知っているのだと悟った。



「正確にはスレートとジェマと、だな。ジェマが傷だらけになった我を拾い誤って契約者となった。それから手当てのために契約者の元へ連れて行ったのだが、ジェマは契約のことを知らなくてな。契約者は我を助けるために我の血を飲み治療をしてくれたのだ」


「なるほどな」



 ジャスパーがジェマを契約者と呼ばないのは単に娘のように可愛がっているから。正式に初めての契約をしたのはジェマだった。



「ジェマが倒れたことはないのか?」


「ああ。それはない」


「そうか。ジャスパーは最近生まれたばかりの精霊なのか?」


「いや。そういうわけでもない。むしろその逆だろうな。現に出会ったとき、スレートは倒れかけた」


「そうか……」



 ジャスパーの返答にターコイズは黙って考え込んだ。精霊契約の真実。それは精霊が緊急時には契約者の魔力を吸い取ることで母体となる物質や自身を庇護しているということだった。つまりジャスパーが怪我をしたとき、ジャスパーの母体である物質が酷く損傷し、その回復にジェマとスレートの魔力を使用した。


 スレートは倒れかけたがジェマは無事であった。そのことから考えられる答えはジェマの魔力量がスレートよりも多いこと。そしてジャスパーはポッと出の精霊ではなく、この世界を長年見守り続けてきた精霊であるということ。



「ジェマの母親は、王家の人間か?」



 ターコイズの次の質問にジャスパーは肩を竦めた。シヴァリーもどう答えるべきかと視線を彷徨わせる。



「分からない、が正解だな。契約者は何も言わなかったからな。ただ、出生紋やジェマの髪、瞳を見る限り、王家の血を引いていることは間違いないと踏んでいる。その点に関してはあのシヴァリーに調査を進めてもらっている」


「王家の図書館で調べているのですが、これといった手掛かりは掴めていません」


「そうか」



 ジャスパーとシヴァリーの話にターコイズはさらに思案顔になる。そしてしばらくすると深くため息を吐いた。



「やはりジェマに家を継がせるのは危険だ。孫としては認めるが、それ以上はこの家どころか街を巻き込む騒動になってしまうだろう」



 ターコイズの苦し気な表情にシヴァリーは手のひらを握り締めた。ターコイズは息子を亡くし、その娘を何も気にせず愛したかった。けれど立場が、そしてジェマの持つ出生紋がそれを許さない。



「まあ、今日くらいは楽しませてもらうけどね」



 ターコイズが悪戯っぽく笑ったとき、応接間の扉がゆっくりと重たく開いた。そこにはサファイア色のドレスを纏ったジェマが立っていた。



「どうかしら?」



 自慢げに孫娘の肩を抱くアイオライト。そしてそれを見つめるターコイズの目尻は柔らかく垂れていた。



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