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 ジェマはジャスパーとジェット、護衛にシヴァリーとハナナを連れてファーニスト邸を訪れた。



「ヤバい、緊張してきた」


「どうしてシヴァリーが緊張するんですか」



 シヴァリーがあまりにも緊張しているのを見て、ジェマは逆に落ち着くことができた。ジェマはジャスパーとジェットと視線を合わせるとファーニスト邸のドアベルを鳴らした。



「いらっしゃいませ」



 現れたのはターコイズ色の作業着姿の男性。ジェマはその大地から生まれたような水色の瞳にドキッとした。スレートとは違う色だが同じ光を持つ瞳。男性もジェマのサファイア色の瞳をジッと見つめたが、【スプーフィングサファイア】に鋭い視線を向けた。



「どなたかな?」


「ジェマ・ファーニストと申します。スレート・ファーニストの娘です」


「ほう? ではもう1つ聞こう。その瞳。色を偽っているのは何故だ?」



 男性の威圧感を感じる質問にシヴァリーとハナナは眉間に皺を寄せた。けれどジェマは顔色1つ変えずに男性を見つめ返した。



「お父さんとの、スレートとの約束だからです」


「そうか……」



 男性はジッとジェマを見つめると、フッと表情を和らげて門を開いた。



「入りなさい。後ろの御2方と精霊さん、魔獣さんもどうぞ」



 ジャスパーは恭しく頭を下げて付いて行く。ジェマたちはそれに続くようにファーニスト邸に足を踏み入れた。


 案内された応接間には道具、魔石付与魔道具、魔道具がずらりと並ぶ。ジェマは座ることも忘れてそれらに見入っていた。シヴァリーとハナナは座りはしたが、ジェマのその姿を目で追っていた。



「お待たせしました」



 現れたのは夜の海のような色をした余所行きのドレス姿の女性。その瞳は深みのある青。ジェマはその瞳にも不思議な懐かしさを感じた。女性がお茶を7つ用意するとさすがにジェマも腰を下ろした。



「改めて、いらっしゃい」



 再び現れた男性はスーツを身に纏っていた。2人の装いは夜会へ出席するときのそれだ。ジェマは恭しく頭を下げた。



「ジェマ・ファーニストと申します。こちらは契約精霊のジャスパーと契約魔獣のジェットです」


「王国騎士団第8小隊長シヴァリー・ケリーと申します」


「同じく副隊長ハナナ・バイオレットと申します。この度、ジェマ様の旅の警護を王家の者より仰せつかっております」


「王家の方が? まあ良い。ジェマと言ったな。スレートの娘であるというのは本当か」



 男性はハナナの言葉に眉を顰めた。けれどすぐにジェマに向き直った。



「はい、そう言われて育ちました」


「母親は」


「父は何も話してはくれませんでした」


「そうか……」



 男性は眉間に皺を寄せた。けれどすぐに肩の力を抜いてソファに身を預けた。



「まあ、ジェマがスレートと関わりがあることには疑う余地もない。そのヘアピンはスレートが作ったものだな。宝石の加工が苦手だったスレートらしい歪な彫だ」



 男性は目尻を下げるとジェマの【スプーフィングサファイア】を見つめた。ジェマはそれにそっと触れた。



「自己紹介をしよう。俺はスレートの父、ターコイズ・ファーニストだ」


「私は母のアイオライト・ファーニストよ。よろしくね、私たちの孫、ジェマ」



 アイオライトは歓迎するように両腕を広げた。ジェマは目を見開くと嬉しそうに無邪気な笑みを浮かべた。



「はい! よろしくお願いします!」



 ジェマはにっこりと笑う。その笑顔を見たターコイズは懐かしそうに笑った。ジェマが首を傾げると、ターコイズは目頭を押さえた。



「いや、幼い頃のスレートとよく似た笑顔だと思ってね。ジェマ、1つ良いかい? スレートとの約束だと言ったそのヘアピン、見せてくれないか? 認識阻害の魔術が付与されていると思うから、無理にとは言わないが」


「……分かりました」



 ジェマはシヴァリーとハナナを一瞬だけ気にしたが、2人への信頼が不安に勝った。ジャスパーと視線を合わせると、初めて人前で【スプーフィングサファイア】を外した。サファイア色だった2つの瞳は右の瞳が翡翠色に、左の瞳がルビー色に、真っ黒だった髪の毛は絹のような白髪へ色を変えた。



「ほう……」


「その色は……」



 ターコイズとアイオライトはハッとしたけれど言葉を飲み込んだ。まるでパンドラの箱から視線を逸らすような2人にジェマは首を傾げたけれど、ジャスパーとシヴァリーも同じようにしたことで聞かないことを選んだ。



「これがお父さんが私が生まれたときに作ってくれたものです」


「拝見するよ」



 ジェマが【スプーフィングサファイア】を手渡すと、ターコイズはそれをマジマジと観察し始めた。



「……なるほど。魔術の付与は緻密だな」



 ジェマの紋を見たターコイズは一瞬瞳が揺れた。けれどすぐに淡々とした手つきで観察を再開した。商売人らしいそのポーカーフェイス。ジェマは見抜いたけれど、その真意を聞き出すようなことはしない。



「相変わらずカットが下手ね。宝石が泣いているわ」



 アイオライトは【スプーフィングサファイア】を見てクスクスと微笑ましそうに笑う。ターコイズも同じように懐かしそうに微笑んだ。ジェマは2人のその表情に胸が痛んだ。



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