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道具師ゼオライト


 素晴らしいものを作るのは優秀なベテランの男。ジェマはその言葉に納得がいかなかった。けれどそれ以上に、クリエータスのセラフィナに対する態度がどこか表面的であることが気になってしょうがなかった。



「いえ、これはあの子が作ってくれたんです」



 セラフィナはジェマを指差した。ジェマはピンッと背筋を伸ばして一礼した。



「初めまして」


「まさか、こんなガキが」



 クリエータスは鼻で笑う。ジェマはニコリと営業スマイルを貼り付けていたけれど、気を抜けばそれが剥がれてしまいそうだった。



「道具師は技術が全て。年齢は関係ないのでは?」


「表面上はな。だが、若手で、しかも女だと? 信頼に欠ける」



 クリエータスの言葉にジェマは言い返すことができなかった。実際、ジェマの店には客が来ないのに〈エメラルド商会〉では商品が飛ぶように売れている理由には立地以外にジェマへの信頼が関わっていた。信頼さえあれば、スレートのときと同じように客は足を運んでくれるはずだった。


 その点、〈エメラルド商会〉にはエメドが築いた圧倒的な信頼がある。ジェマは虎の威を借りる狐のようにその皮を借りている状態だった。



「お前、その技術を俺様に渡せ。俺の方が人々のためになるものをこの世に広めてやることができるからな」


「それは横暴ではありませんか?」


「ミス・セラフィナ。これは道具師同士の問題だ。それに女のキミが首を挟むようなことでもないよ」



 ジェマはこの言葉でクリエータスの言動の根幹を理解することができた。年功序列、男尊女卑思考。その組み合わせがジェマとセラフィナへの態度に現れていた。馬鹿にして、自分こそ正しい、自分が振られるわけがないと思い込んでいる大きな自信。それさえ分かってしまえばジェマはどうでもよくなった。



「お断りします。私の腕を買ってくれている方もいますから、私は私を必要以上に低く見積もるつもりはありません」



 ジェマはエメドとラルド、これまで商売をしてきた相手。その出会いがなければこんなに大きなことを堂々ということはできなかった。クリエータスの考え方はまだまだ街に広く根付いた考え方だ。それに女や子どもが反論することは無駄だと思われていた。


 けれどジェマは知っている。年齢も性別も関係なく、仕事ができれば評価される環境があることを。ジェマは出会いに恵まれた。



「はっ、そんな虚勢を張って。これからもし何かあってもこの街は頼れないと思え。俺様はこの街の長の親戚だからな」



 クリエータスはニヤリと笑う。親戚だから何なんだ。ジェマは内心そう思ったけれど、笑顔で誤魔化してやり過ごした。



「まあ、良い。ミス・セラフィナ。結婚の件は考えておいてくれ。シャツ、ありがとう」



 紳士っぽい振る舞いをしていったクリエータス。ジェマは嫌な気分でクリエータスの背中に向かってアッカンベーをした。



「ジェマさん、巻き込んでごめんなさい」



 クリエータスが出て行ったことでセラフィナがジェマに声を掛けると、ジェマは不安げに眉を下げた。



「セラフィナさんこそ、大丈夫ですか? あんな態度、許されるものではありません」


「そうですよ! 今時女だから、男だから、年がどうのこうのなんて!」



 女、若い。そう言われて騎士団内で燻っていた経験があるユウも加勢する。働く女には行きにくい社会だ。けれど逆に思えば、男も辛い。女にできて、どうして男のお前にはできないのかと言われれば。若手はできるのに年寄りは使えないと言われたら。自尊心が傷つけられて、憎しみを生んでしまう。



「私は大丈夫。あの人と結婚なんて嫌だもの。嫌われにいっているわ。それよりジェマちゃんが心配よ。あの男、5年前にメイソン家に婿入りしたマイニング・マイソンさんのお兄さんのゼオライト・クリエータスって道具師なの。それ以来自分は関係ないのに、メイソン家の名前を使って何かと横暴を働いているんですよ」



 セラフィナが不安げに言うけれど、ジェマはパッと目を輝かせた。



「じゃあ、もしかしてあの人の今日の用事って、メイソン家とファーニスト家の話ですか?」


「ええ。今日は年に一度の会食の日なんです。だから一応親戚になる彼も参加するからピシッとしたシャツが必要だったんですよ」



 ジェマはニヤリと笑う。そこに参加すれば、クリエータスを驚かせることもファーニスト家の人、スレートの両親に会うこともできる。ジェマにとっては一石二鳥な環境だった。



「ありがとうございます」


「いやいや。それよりこの後どうするんですか?」


「とりあえずこれからファーニスト家に向かって、父の死を伝えようと思います。それからのことは考えていませんけど、必ずこの宿に帰ってきます」



 ジェマの言葉にセラフィナはニヤリと笑った。



「帰ってきてくれるんですね」


「もちろんです」



 意地悪を言おうかと思ったセラフィナだったけれど、ジェマがあまりにも純粋な顔をしているから、意地悪な言葉は引っ込んでいった。



「ジェマさん、頑張ってくださいね」



 セラフィナにそう言われて、ジェマは真剣な表情で頷いた。ジェマの肩に乗ったジャスパー、背中にくっついていたジェット、背後に待機するユウ。それぞれの難しい顔で覚悟に燃えるジェマを見つめていた。



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