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 ジャスパーとジェットが警戒するようにジェマの後ろに構えると、シヴァリーが前に出た。



「何かありました?」


「いえ、慌てていらしたのでお客様情報の記入を後回しにしていたんです。ご宿泊の2名と魔獣さん、精霊さんの基本情報の記入をお願いします。それから、私はこの宿の店主、セラフィナ・ハウシーと申します」



 セラフィナは一礼するとにこりと微笑んだ。そしてジェマとユウに紙を手渡した。



「ご記入が終わりましたら、受付にお持ちください。では、失礼しますね」



 セラフィナは静かに、足音を立てずに廊下を歩く。ジャスパーはホッと胸を撫で下ろした。


 ジェマは渡された紙を見る。名前、年齢、職業を書くものと、名前だけを書く契約魔獣、契約精霊専用のもの。


 ジェマとユウはそれにさらさらと記入をしていく。宿屋といえどもこれ以上は聞かないことがマナー。これらは身分証代わりに提示するギルド証に記されていることと変わらない。


 ジェマは3枚、ユウは1枚記入すると受付に戻ってチェックインした。ジェマはギルド証を、ユウは騎士団の身分証を提示した。翡翠色の騎士団の身分証。翡翠色は国王の瞳の色だ。



「ジェマさんとユウさん、ジェットさんとジャスパーさん。ですね? かしこまりました。1週間宿をお貸しします。延長を希望する場合や短縮する場合はご連絡を」


「ありがとうございます」



 ジェマがペコッと頭を下げるとセラフィナはニコリと笑った。



「いえいえ。光栄なのよ。あのファーニスト家の方が宿泊してくれるのだから」


「ファーニスト家?」


「あら? 違うの? 所有者固定魔道具師のスレートさんを輩出した、この街で最も由緒正しい道具師の一族よ。ジェマさんもファーニスト家の方でしょう?」



 ジェマがセラフィナの話にポカンとした。スレートが偉大な人だとは分かっていた。けれどスレートの実家まで凄いとは思っていなかった。



「私はスレートの娘です。でも、この街に来るのは初めてで、父の実家の話も聞いたことがなくて」


「あら、そうなの? そうねぇ、ファーニスト家について知りたいなら図書館に行くか直接聞きに行くのが良いわね。図書館は騎士団詰め所のお隣、ファーニスト家のお店【タンジェリン】はこの街の中心にあるオレンジ色の屋根の大きな建物よ。行ってみると良いわ」


「ありがとうございます」



 ジェマはセラフィナに勢いよくお辞儀をした。全く知らなかったスレートの実家。それについて知ることができる機会がやってきた。


 シヴァリーと共に宿を出ると、シヴァリーの肩の上にジャスパーが座った。ジェットはジェマの肩の上にぴょんっと飛び乗るとジェマに甘えるようにすり寄る。ジェマはジェットの顎の下を撫でた。



「ジェマ、私たちと一緒に騎士団詰め所に向かって、そこからカポックと共に図書館へ行ってはどうだ?」


「はい。少し調べてからお店に行こうと思います。お父さんが実家のことを話さなかったのには理由があると思うので」


「分かった。よし、行くぞ」



 ジェマたちは騎士団詰め所に向かう。そこでシヴァリーとユウと別れたジェマは、カポックと、そして街について調べたいと言ったハナナと共に図書館に向かった。


 石造りの図書館は鉱石の街らしく至る所に原石が使用されていた。どれも風雨に強い鉱石が選ばれていて、ジェマは感心しながらまずはぐるっと外観を見て回った。



「ジェマさん、面白いですか?」


「はい! 陽射しの当たり方によっても使用する鉱石を変えているようなんです。鉱石を長く、美しく感じられる配置で、鉱石への愛を感じます」



 ハナナからの質問にジェマは目をキラキラと輝かせる。ジェマは道具師として鉱石を扱う。素材1つ1つと向き合う大切さはスレートが教えてくれた。スレートは特に鉱石を用いた魔道具作りが好きだった。



「入りましょうか」



 ハナナに促されてジェマは図書館に入る。そこには街の歴史や鉱石についての本がびっしりと置かれていた。ハナナとカポックは二手に分かれる。ハナナが街についての本を手に取る間に、カポックはジェマの護衛についた。


 ジェマは街の人について書かれた本たちの中から2冊に分けられた分厚い本を見つけた。背表紙にはファーニスト家の文字。



「分厚い……」


「取るぞ」



 ジャスパーが浮遊魔法で本を取る。ジェマはそれを受け取ったけれど、あまりの重さによろめいた。



「おっと」



 カポックはジェマを支えると、ジェマの手から本を取り上げた。



「運びます」


「ありがとうございます!」


「いえ」



 カポックはそれ以上話すことなく席に向かう。ジェマはファーニスト家の成り立ちから順に追って読み進める。その間に本を手に戻ってきたハナナ。街の人口、経済、人流、インフラ、環境、犯罪など、データが記された本だけでなく新聞の束まで持ってきた。



「手伝います」



 カポックが思わず動くほどの量。両手にそれぞれ1m近く積み上げた本を持っていた。本から視線を離したジェマも、これには思わずポカンと口を開けた。



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