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2024.06.16.15:00に加筆修正を行いました。


 ドーラが森に帰って行くと、ジェマはカウンターに突っ伏した。ジャスパーはその姿を心配そうに見つめたが、すぐにエイッとジェマの頭の上に飛び乗った。



「珍しく悩んでるな」


「そう、だね」



 ジェマはそう呟くと深々とため息を吐いた。ジェマは机の木目をなぞりながら、くぐもった声を漏らした。



「ドリュアスのベッドの形がどんな感じか聞いたけど、それぞれ違うって言われちゃったでしょ? その赤ちゃんがどんな形なら落ち着くんだろうと思って」


「人間とのハーフのドリュアスなんて前代未聞だもんな。分からんでもない」



 ジャスパーはジェマの頭に座ったまま、前足の蹄でゆっくりとその頭を撫でた。ジェマは擽ったそうに笑うと、ジャスパーはぴょんっとその頭から飛び降りた。



「なんでも協力する。して欲しいことがあれば言えよ?」



 ジャスパーがジェマの目をジッと見つめて伝えると、ジェマは緩んだ表情でコクリと頷いた。


 そして突然カッと目を見開いて立ち上がった。そのまま勢いよくパシッとジャスパーの前足を取ると、その前足をジッと見つめる。



「な、なんだ?」



 戸惑うジャスパーをよそに動きを止めたジェマ。ジャスパーがそっと顔を覗き込もうと屈んだ瞬間、ジェマはジャスパーの前足をパッと離して作業場に向かって走り出した。



「ジャスパー、店番お願い!」


「お、おう! 任しとけ」



 ジャスパーはその場で呆然としていたが、すぐにハッとして店内を見回した。そして自室に繋がるドアを隠すカーテンが開きっぱなしになっていることに気が付いて、シャッとカーテン引いた。


 作業場に向かったジェマは、集めておいた素材を仕舞った棚や箱をガサゴソと漁った。あれでもない、これでもないと漁って1つの麻袋を取り上げた。



「あった!」



 目を輝かせてその麻袋の中を覗き込んだけれど、中身を取り出した瞬間にムッと口を真一文字に結んだ。



「違うじゃん!」



 ガクッと項垂れると、頭を左右にブンブンと振る。そしてバタバタと籠を背負うと、鎌を放り込んで作業場を飛び出した。



「ジャスパー!」


「あいよ」



 ジェマが店に飛び込むと、すっかり外出の準備を整えたジャスパーがジェマの日除け帽子とジェマ作の【クレンズキャンティーン】を手にして玄関前に立っていた。【クレンズキャンティーン】は浄水機能付きの災害時にも強い水の携帯容器だ。



「採取に行くから付いて来い、だろ?」


「なんで分かったの?」



 ジェマが目をぱちくりさせながら聞くと、ジャスパーはジェマに麦わら帽子をひょいっと被せた。



「勘だな。あ、魔獣避けは?」


「ん? 持ってないよ?」


「まったく」



 ジェマはきょとんとした顔で首を傾げる。ジャスパーは頭を抱えながらカウンターの中に飛んでいくと、そこから魔獣避けの鈴を取り出した。



「いくら俺も一緒に行くとはいえ、これがないと危ないんだからな?」


「はあい」



 素直な返事を返したジェマに、ジャスパーは肩を竦めた。けれどすぐにキリッとした顔になると、ジェマの周りをくるくると飛び回った。



「よし、行くぞ。獲物は?」


「【コット草】の1種で、【ヒールコット】が欲しいの。今作業場には【スリープコット】とか、他の種類の在庫しかないから」


「布団の材料といえば、その2つの掛け合わせが妥当か」



 【ヒールコット】は体力の回復効果がある薬草で、【スリープコット】は安眠効果がある薬草だ。【コット草】には多様な効果を持つものがあるが、その中でもこの2種類は布団の発注を受けた大抵の道具師が必ず使うものでもある。



「今回は【ヒールコット】だけで作るつもり」


「へえ、それはまたどうして?」


「うーん、歩きながら話そうか」



 そう言ったジェマは、正面玄関から表に出ると看板を裏返した。いつもより早い閉店時間の文句をいうような客どころか客がいない。


 ジェマはジャスパーに導かれるように森を歩く。そして不意に口を開いた。



「【スリープコット】は副作用として3時間の継続睡眠が必要でしょ? だけどドリュアスは30分ごとに目を覚まして身の回りの安全を確認する習性があるの」


「なるほど。そりゃ不都合だな」


「でしょ?」



 ジェマは少し得意げに胸を張る。ジャスパーは首を振って呆れた素振りをみせたけれど、ズンズンと前に行ってしまうジェマ。ジャスパーは目を見開いてその背中を見つめた。


 圧倒的な気遣いと知識量。成人したばかりのジェマが一流の道具師、そして所有者固定魔道具師になるために。同じ穴の狢たちから頭1つ分抜け出すために必要なものだった。



「契約者よ。ジェマなら心配いらないよ」



 ジャスパーは小さく呟くと、無鉄砲にも1人で森を進んでいくジェマの背中を追いかけた。


 家からほどなくして。【コット草】の群生地に辿り着いた。まだ【コット草】の収穫時期には早いけれど、涼しいこの場所では既に所々で白いふわふわした毛が草から発毛している。



「この中から【ヒールコット】だけを探さないといけないんだよな?」


「そうだね。採りすぎ厳禁。だけど間違えちゃっても、もったいないし持ち帰るから渡してね」


「了解」



 ジェマとジャスパーは近過ぎず遠過ぎず。お互いの元にすぐに駆けつけられる距離で採取を始めた。



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