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 シヴァリーの目にジェマは狼狽えた。自分の何がいけないのかが分からない。ジェマは後退る。その肩をシヴァリーがガシッと掴んだ。



「手遅れになったらどうする! こんな、魔獣の再生のような効果が強いポーションがあるなら不安も少ないかもしれない。けれど手元が狂ってポーションが割れてしまったら? こういう現場では何が起こるか分からないんだ。危機感を持ってくれ」



 シヴァリーの力強い目にジェマは頷くしかなかった。ジェマは自分が怒られた内容をゆっくり咀嚼して考える。けれどそんなことで怒られたことがなかったから分からない。


 ジェマは圧倒的な魔力量と最強クラスの【回復ポーション】があることが当たり前の世界で生きてきた。【マジックペンダント】や【マジックリング】、【マジックステッキ】があれば向かうところに敵はない。負けることはないし、多少の怪我ならすぐに治ることが当たり前。


 けれどそれは普通ではない。冒険者や騎士は普通、腕力で戦うことが多い、少数派の力のない冒険者は魔石に頼ってワンドマスターとして経験を積んでいく。そして冒険者や騎士は常に死と隣り合わせの生活をしている。だから死に対する恐怖も常々感じながら生きている。



「ジェマ、シヴァリーはジェマを心配しているんだ。我もいつも不安になるが、ジェマは契約者より強いからな。そう思って安心しようとしていた」



 ジャスパーの告白で、ジェマはようやく自分が心配されていることを知った。



「ありがとうございます?」



 ジェマが不思議そうにお礼を言うとシヴァリーはやれやれとため息を吐いた。そしてふと雨が止んでいることに気が付いた。



「止んだな」


「そうですね。あ、そうだ、アイロブラウノ(パンダモドキ)はどうなったんでしょうか」


「……見に行こう」



 ジェマの意識が完全にアイロブラウノに向かうとシヴァリーはジェマへの注意を諦めた。そして騎士たちに片手で警戒態勢を取る指示を出す。ヘトヘトではないのはシヴァリーとハナナだけだが、皆一様に剣を取って構える。


 ジェマは騎士たちには目もくれず、アイロブラウノに向かって行く。雨が止んだことでジェットが飛び出してくるとジェマに向かってピョンッと飛んだ。ジェマはそれを抱き留めると、土壁の中でしくしく泣いているアイロブラウノに声を掛けた。



「あのー」



 アイロブラウノの方がビクリと跳ねる。そしてアイロブラウノは唸り声を上げながらも頭を抱えてプルプルと震えた。



「ピピッ!」



 ジェットが悲しさをジェマに伝える。ジェマはそれに気が付くと近づくことを止めた。そして両手を挙げて後退する。



「手出しはしません。何が望みですか?」



 ジェマの問い掛けをジェットがアイロブラウノに伝える。アイロブラウノはのっそりとジェマたちに身体を向ける。顔や身体から塗料が雨で流れ落ちて、すっかりただのアイロブラウノになっている。ジェットは次元袋を漁るとジェマに黒の塗料を手渡した。



「黒の塗料……あなたは、アイロブラホワ(パンダ)になりたいんですか?」



 ジェマの質問をジェットが通訳すると、アイロブラウノは何度も頷いた。ジェマはそれを見るとコクリと頷く。



「任せて。ちょっと待っててね」



 ジェマはジェットが取り出した塗料とは別に、次元袋から油を取り出した。



「油? 何に使うの?」


「荒業ですけど、やってみる価値はあります」



 ジェマの説明になっていない返答にシヴァリーは首を傾げた。ジェマはシヴァリーのことは一切気にせず容器に塗料と油を流し込んで混ぜ始める。油と塗料は中々馴染まない。油と水なのだから仕方がない。ジェマは【マジックステッキ】を構えた。



「火よ、我が呼びかけに応え、具現化せよ」



 ジェマの最小出力の魔力が【マジックステッキ】の中を駆け巡るとその場に小さな火が起こる。ジェマはその上に容器を置くとまたぐるぐるとかき混ぜる。ほんの少し混ざりやすくなった油と塗料をジェマは必死にかき混ぜる。その時、ジェマからほんの少し緑色の魔力が漏れた。



「ジェマ?」



 ジャスパーが声を掛けるけれど集中しきっているジェマは気が付かない。そのままぐるぐるとかき混ぜる。塗料と油と魔力。それが溶けあった瞬間、容器が緑色に発光した。



「キャッ!」



 ジェマが悲鳴を上げるとシヴァリーがジェマを咄嗟に庇った。ジェマはギュッと目を閉じていたけれど何の衝撃も来ないことで慌てて目を開けた。その目の前にはシヴァリーの青いマント。



「シヴァリーさん!」


「あ、あれ、何もない……」



 ジェマは自分の身体に何の以上もないことに驚いているシヴァリー。ジェマはホッとして容器を覗き込んだ。そこにはごくごく普通の塗料が入っていた。



「これは、一体……」



 シヴァリーが首を傾げると、ジェマは匂いを嗅ぐ。



「異常はない」


「ジェマ、大丈夫なの、これ」


「分かりません。だから実験をします」



 ジェマはそう言うと次元袋からサファイア色のエプロンを取り出して掛けた。そして腕まくりをすると木の板を取り出してそこに完成した塗料らしきものを筆で塗ったくり始めた。



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