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 ジェマはジェットが自分の元に戻ってくる前にシヴァリーに向けて叫んだ。



「シヴァリーさん、あのアイロブラウノ(パンダモドキ)に敵意はありません!」


「だが!」


「攻撃をしないでください!」



 ジェマの言葉にシヴァリーは考え込んだ。けれどすぐに決断すると剣を構えたまま叫んだ。



「現状維持! 攻撃されるまで攻撃はするな!」


「了解!」



 隊員たちが返事をしたころ、ジェマの元にジェットが戻ってきた。そしてジェマの前で身振り脚振りでアイロブラウノの言葉を伝えようとした。



「なんだって?」



 ジャスパーにはさっぱり分からなかった。けれどジェマはアイロブラウノが悲しんでいること、困っていること、そしてジェットが助けてあげたいと思っていることは伝わった。



「そっか。ジェットは助けてあげたいんだ」


「ピッ!」


「うーん。あの子は何に困っているんだろ」



 ジェマが考え始めた瞬間、カポックが兜のシールドを跳ね上げて耳を澄ませた。



「雨が降ります!」


「構うな! 警戒態勢を取れ!」


「了解!」



 カポックの言葉にシヴァリーが冷静な判断を下す。対してアイロブラウノはオロオロとし始める。ジェマはそれを感じ取って首を傾げる。その瞬間、ジェットが激しく鳴いて洞窟を脚で示した。



「洞窟がどうしたの?」



 ジェットはアイロブラウノと洞窟を交互に指し示す。ジェットの焦りばかりがジェマに伝わって、ジェマはどうしたら良いのか分からなかった。



「……あいつ、濡れたくないんじゃないか?」


「濡れたくない?」


「分からないが、雨が降りそうになった途端にオロオロするなんて、そうとしか考えられないだろ」



 ジャスパーの言葉でジェマはハッとした。アイロブラウノは目や耳、腕、足をアイロブラホワ(パンダ)のように黒く塗っている。あれが雨に濡れることが嫌なのだとしたら。



「でもあの洞窟には……そうだ! ジャスパー! 土属性魔法で屋根を作ってあげられない?」


「雨に濡れたら崩れるかもしれないぞ。それに屋根が作れない」


「大丈夫。私が風で覆うから!」


「ピッ!」


「ジェットも糸で手伝ってくれるの? ありがとう」



 ジェマがジェットを肩に乗せるころ、アイロブラウノが地面を蹴って洞窟に突進しようとした。騎士たちは剣を握り直す。その姿を見たジャスパーはため息を吐いて近くの地面に蹄を翳した。



「アースウォール!」



 ジャスパーの詠唱と同時にアイロブラウノが屈めば入れるほどの大きさの土の壁がせり上がる。



「避けろ!」



 洞窟の方へ行きたがっているアイロブラウノが水属性魔法、ウォーターキャノンを発動させると騎士たちは左右に避ける。ジェマは慌てて【マジックリング】を翳した。



「水よ、我が呼びかけに応え、具現化せよ」



 上位魔法のウォーターキャノンにジェマは下級魔法ウォーターボールをぶつける。普通なら塵のように吹き飛ばされるか飲み込まれるものだが、ジェマのウォーターボールは魔力量のおかげでサイズと勢いが違う。


 あっさりウォーターキャノンを打ち滅ぼすと、ジェマはジェットと共にアイロブラウノの元に駆け寄った。その身体は本来の薄茶色の毛並みが露になっている。ジェマは必死に手で土の壁を指し示した。



「アイロブラウノさん! ここに入って!」


「ピピッ!」



 ジェマの呼びかけは無視したアイロブラウノが、ジェットの呼びかけには反応した。そして土壁を見ると疑わしそうな目で、けれど素直に中にのそのそと4足歩行で入った。騎士たちは目を丸くしている。



「風よ、我が呼びかけに応え、具現化せよ!」



 ジェマが【マジックペンダント】を翳すと土壁に屋根と入口が風の板で塞がれる。ジェットも糸を吐きながら同時に布を織っていくと、風の板の上に織り上げた布を載せていく。その途中、ポツポツと雨が降り出した。



「ジェット! ジェットも雨を避けて!」



 ジェットは水が苦手。慌てて自分が織った布の下に身を隠して布を織り続ける。



「第8小隊、退避!」



 シヴァリーさんの声に第8小隊の面々も馬車に乗り込む。けれど途中でカポックの足が止まった。



「隊長! 遠くで雷鳴が鳴っています」


「不味いな。ひとまず洞窟に退避!」


「了解!」



 騎士たちが洞窟に向かう中、ジェマも逃げようとして足が止まった。アイロブラウノとジェットを雷雨の中でこんなところに置いてはおけない。



「ジェット! アイロブラウノさんとこっちに!」



 ジェマがそう叫ぶと、ジェットは土壁の中に潜り込んだ。風の壁の向こう、説得しているジェットと拒否しているらしく首を横に振るアイロブラウノの姿が見える。雨が次第にバケツをひっくり返したかのように酷くなる。気が付けば雷鳴はすぐそこまで迫っていた。


 ジェットの必死の説得にアイロブラウノは首を横に振る。ジェマが両手を組んで祈ると、ジェットが壁の向こうで脚を振る。ジェマもそれで少し気が楽になった。


 けれど次の瞬間、落雷がジェットとアイロブラウノがいる土壁のすぐ近くの木に落ちた。落雷にへし折られた木が土壁の方に倒れ込む。ジェマは咄嗟にポケットに忍ばせていた長距離型の【マカロン】を投げた。



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