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 ジェマは早速風属性魔法、ウインドシールドが付与された【マジックペンダント】を構える。ジャスパーも蹄をスクロファ(イノシシ)に向ける。ジェットはパッとスクロファの群れに向かって駆け出した。



「アースウォール!」



 ジャスパーの魔法でジェットの足元がせり上がる。スクロファたちは土壁の中に飛び込められて、それを囲む壁の上でジェットがピョンピョンと飛び跳ねている。



「ジェット、お願い!」


「ピッ!」



 ジェットは糸を吐いてジェマに糸を絡める。ジャスパーの浮遊魔法と合わせて土壁の上に飛び上ると、ジェマは【マジックペンダント】を翳した。



「風よ、我が呼びかけに応え、具現化せよ」



 ジェマが詠唱をした途端、土壁の内部で風が吹き荒れる。本来ウインドシールドという風を強化する魔法が付与された魔石付与魔道具だが、ジェマはそこに膨大な魔力を流し込むことで風の防壁をカッターのように自在に操作している。


 カッターとなった風は土壁の中で暴れまわるとスクロファの頭を胴体から綺麗に切り離す。血飛沫が散るが、土壁の上にいるジェマたちには届かない。



「ジャスパー、他にスクロファは?」


「外に漏らしたのがいたが、シヴァリーたちが対処してくれている。降りて問題ないだろう」


「了解。ジェット、降りるの手伝ってくれる?」


「ピピッ!」



 ジェットが2本の脚を挙げて返事をすると、ジェマは再び【マジックペンダント】を翳す。そこにさっきよりは少ない魔力を流し込む。



「風よ、我が呼びかけに応え、具現化せよ」



 詠唱とともに風の板が出現する。ジェマがそこに飛び乗るとジェットが糸を吐いて命綱を作る。ジェマたちがシヴァリーの目の前に着地した瞬間、ジャスパーは魔法を解除した。土壁が崩壊して地中に戻ると、その中心部から血濡れたスクロファが現れた。



「な、んだ、これ……」



 シヴァリーや騎士たちが絶句する中、ジェマは腰に下げていたナイフを手にスクロファの遺体に近づいた。そして皮と肉の間にナイフを突き刺した。



「ジャスパー」


「はいよ」



 ジェマがナイフを動かすと、ジャスパーが浮遊魔法で補助をする。その隣の個体、ジェットは糸を吐いて板を作ると見よう見まねで板を刺す。糸製の板の周りは次元が歪み、力を入れずともスッと切れていく。周辺がブラックホールに飲み込まれるような切れ味はダークアラクネの糸特有のものだった。



「じぇ、ジェマ、これは一体……」



 ようやく動き出したシヴァリーが聞くと、ジェマは血に濡れた顔で振り向いた。



「頭と首のここを切り落とすと1番多く素材採取ができるんです。切り出した素材はジェットの次元袋に入れて、残った肉は食材にします」



 ジェマは説明しながらもジャスパーとジェットと共に解体作業を進める。シヴァリーはそれを手伝おうとしたが、手順も何も分からなかった。それを見たジャスパーは素材を採取し終えた肉塊から皮を剥ぎ取った。



「騎士たちでこの肉を解体してくれ。肉の部位の見分けはできるだろ?」


「あ、ああ。それくらいなら……」



 肉塊2つをいきなり受け渡されたシヴァリーは他の騎士たちを集めて肉の解体を始める。その間にジェマたちは残りのスクロファの解体を進める。



「ジェット、袋の量産をお願いできる?」


「ピッ!」



 1体解体を終えたジェットはシュルシュルと糸を吐いて大きな袋を編む。それをポイッと置くと、シヴァリーがそれを拾ってその中に解体した肉を詰めていく。



「この肉はこの道中の食事にするの?」


「はい。売ればそれなりの値が付きますけど、今は道中の食事の心配をする方が先決です。私たちだけでは食べきれないので、皆さんも食べてください」


「良いのか?」


「はい。次元袋に入れておけば時間も停止するので余れば売りますけど、他にも素材を採取することを考えると食べてしまわないと荷物の量がとんでもないことになります」



 ジェマが苦笑いを浮かべると、シヴァリーは神妙な表情で頷いた。



「感謝する。有難くご相伴に預かろう。その代わり、調理や解体の手伝いはさせてくれ。討伐は我々の力は必要なさそうだからな」


「いえ、どうしても狩り漏らしが出てしまうのでお手伝いをお願いします」


「分かった」



 シヴァリーは頷くとまた作業に戻る。ジェマが再び解体を始めると、隣にユウが寄ってきた。



「ジェマさん! ワンドマスターでもあるの? 華麗で強力な魔法だったよ!」



 目を輝かせるユウはジェマにグイッと顔を近づけた。ジェマはそれに全く動じることなくニコリと微笑んだ。営業スマイルだが、警戒はしていない。



「私はただの道具師です。魔石付与魔道具の扱いには慣れている、それだけの話です」


「凄いね! 自分は剣だけしか使えないから」



 ユウは悲し気に言うとジェマの【マジックペンダント】を羨ましそうに見つめた。ジェマはそれに首を傾げた。



「魔石付与魔道具であれば魔力がなくても使用できますよね?」


「うん。でもコントロールが得意じゃなくて」


「なるほど」



 ジェマはジッと考える。そしてニコリと笑った。困っている人がいる。それは職人としての心に火をつける。



「少し考えてみますね」


「え?」



 ポカンとしているユウをよそに、ジェマはニコニコと笑ってスクロファの解体を進めながら新作の魔石付与魔道具について考え始めた。



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