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 シヴァリーはじっくりと部屋を見回すと腕まくりをした。



「ジェマ、私が回収するから1つずつ確認して。それなら少しは楽だろ?」


「はい、ありがとうございます」


「我もやるぞ」



 シヴァリーとジャスパーが素材や道具を集めて、ジェマが使えるもの、部分的に使えるもの、使い物にならないものに分別した。部分的に使えるものと使い物にならないものが大半を占める。その状況にジェマは肩を落とさずにはいられなかった。



「ジェマ、大丈夫、じゃないよな」


「はい。でもお父さんの道具は全部無事でした。【カタスギ7】に入れておいて正解でした」


「【カタスギ7】?」



 スレートの道具は全て【魔力阻害ボックス】の上からさらに【カタスギ7】に収納されている。【魔力阻害ボックス】はその名の通り魔力を遮断する魔法陣が付与された魔道具の1つ。今のところ全てスレートの遺産だ。


 【カタスギ7】は強化魔法が付与された錬金魔石を使用した魔石付与魔道具。改良に改良を重ねたもので、【カタスギ5】まではスレートが、【カタスギ6】からはジェマが引き継いだ。現在最高硬度を更新中の代物だ。



「凄いな。あのシュレッドさんの攻撃すら防ぐとは」


「ふふん。まあ、元々お父さんのアイデアだから当然ですよ」



 自慢げに言ったジェマは少し寂し気に笑う。そして【カタスギ7】を愛おしそうに撫でる。その中に守られるスレートの所有者固定魔道具たち。国にとって喉から手が出る国宝。ジェマにとってはただ、父親の姿を思い出すための遺品。



「ジェマが作っていた道具たちは?」


「ほとんど全滅です。幸い部品ごとに見ればまだ使えるものもあったので、それを再利用しながら新しく作ろうと思います」


「そっか。あ、それ、ランタン?」


「の、なれの果てです」



 ジェマは苦笑してランタンだったものを拾い上げた。頑丈な魔石は無事だったが、他の部品はズタボロ。シュレッドの攻撃を直撃してしまった。



「私はなるべく安く素材を入手しているのでそれなりな被害で済みましたけど、また採取に行くと考えると、途方もないですね」


「そうだな」



 ジェマはランタンだったものを撫でる。お金がないから時間を掛けてでも採取に向かうこともあるが、その実その素材を余すところなく使うために自ら採取し解体している一面もある。ジェマとジャスパーはこれまでに掛けた時間を考えてはぁっとため息を漏らした。



「ひと月くらいは閉店するかもしれません」


「逆にひと月で良いの?」


「はい。1週間で店を改装するので、後の3週間は素材採取の旅に出ます」


「旅? それは、どこまで?」


「国内だけですけど、全ての街を回ることにはなりますね。まあ、元々素材が終わりかけていたものもあったので、ちょうど良い機会です。販売分はとりあえず〈エメラルド商会〉に卸しているものと無事だったもので繋いで、後は採取が終わってからですね」



 採取が終わってから制作に掛かる期間を考えれば通常営業までの道のりは遠い。ジェマが店を継いだときとはわけが違う。ジェマはそれを分かっていた。分かっていたからこそ明るく言った。



「ジェマ、旅のお供はジャスパーさんとジェットさんか?」


「はい。2人がいれば心強いですから」


「そっか」



 ジャスパーは照れ臭そうにふんっと鼻を鳴らしてふよふよ飛んでいくとがれきの撤去を始めた。シヴァリーはジッと考え込む。そして1つ頷くとジェマの頭を撫でた。



「いつ出発するか教えてくれよ?」


「はい」



 ジェマはニコリと笑うと無事だったものたちを棚に移動させた。部分的に無事なものも端に寄せるとジャスパーに倣ってがれきの撤去に取り掛かる。



「んっしょ、んんー」



 ジェマは早速がれきを持ち上げようとしたけれど、ビクともしない。



「ああ、ジェマ、重たいがれきは私が運ぶから、ジェマは掃き掃除をしてくれる?」


「分かりました。よろしくお願いします」



 ジェマは掃き掃除をしながらがれきを外に放り投げるシヴァリーの姿を見つめた。どこかスレートを思わせる穏やかさと気遣い。スレートよりもガタイも良くて少年らしさもあるシヴァリー。けれどジェマは姿を重ねずにはいられなかった。



「お父さん。私、頑張るからね」



 ジェマが呟く。シヴァリーはそれを聞いていた。そしてグッと拳を握ると勢いよくがれきを放り投げた。その表情には決意が浮かんでいる。



「シヴァリー、手が止まってるぞ」



 浮遊魔法でポンポンがれきを放り投げるジャスパーが声を掛けると、シヴァリーはハッとした。そしてジャスパーが放り投げ続けるがれきの山を見て苦笑した。



「これ、私はここにいなくても良さそうですね」


「そうでもないぞ」



 シヴァリーの自嘲にジャスパーはしれっと言葉を返す。けれどシヴァリーがその答えの意味を問おうとするとそっぽを向いてがれきを放り投げる速度を上げた。



「分からないけど、私も頑張らなくちゃね」



 シヴァリーは再度気合いを入れて腕まくりをするとがれきを放り投げる。ジェマはジャスパーとシヴァリーの仲良さげな様子を見つめて微笑ましそうに笑っていた。



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