表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/107


 シュレッドの苦し気な表情。ジェマは言いようのない不安に襲われた。



「暗殺者は特定の人物以外に暗殺者であることが知られたら、その相手を暗殺しなければならない。暗殺に失敗したら、自決しなければならない。それが掟。だから私はジェマちゃんを殺しにきた。だけど失敗したから私は死ぬ。そう思ったのに」



 シュレッドは自らの手をジッと見つめた。そしてその小節をぎゅっと握り締める。



「私は弱かった。ジェマちゃんには勝てないわ」



 困ったように笑ったシュレッドは、ジェマに手を差し出した。ジャスパーとジェットは威嚇したけれど、ジェマはその手を取った。



「無防備ね」



 その瞬間にシュレッドから再度殺意が溢れる。ジャスパーが壁を出そうと、ジェットが糸を吐こうとした。けれどジェマは微笑んで殺意を受け入れる。


 シュレッドの手はジェマの首に届く直前に止められた。シュレッドは泣き崩れた。



「どうして? どうして逃げないの?」


「だって、シュレッドさん、私を殺すつもりなんてないでしょう?」



 ジェマが余裕たっぷりに笑うと、ジャスパーとジェットはようやく脚を下ろした。



「ジェマ、どうしてそう思ったの?」



 シヴァリーが静かに聞くと、ジェマはニコリと笑った。



「本当に殺すつもりだったら、あんなに早く殺意なんて出さないですよ。シュレッドさん、殺意を隠すのがお上手ですし」



 あっけらかんと言ったジェマ。1度戦ってしまえば敵のくせは読み取れる。ジェマは自分でも気が付いていないけれど、戦闘において天才的な才能を持っていた。それはもう、現国王のような。



「それに、私は死ぬことはできませんよ。大事な家族を残していくなんて、そんなことはできません」



 ジェマが笑いながら腕を広げると、ジャスパーとジェットがそこに飛び込んでいった。ジェマと2匹が幸せそうに微笑むと、シュレッドもシヴァリーも毒気を抜かれたように笑った。



「なあ、ところでジェマ」



 突然口を開いたラルド。その目は少年らしくキラキラと輝いている。



「シュレッドさんの武器ってどれだ?」


「私の武器はこれよ。重たいから持つのは危険よ」



 シュレッドはトレー型の鈍器をラルドに見せた。ラルドはしげしげと武器を見る。それから眼鏡型のルーペも使って観察したラルドは全面を見て頷いた。



「一般的なフリスビーに重みを足したものですか。トレーはフロアスタッフのシュレッドさんには最適なカモフラージュですね」



 満足気に笑ったラルドは期待した目をジェマに向けた。



「それで? ラルドはどんな改良をしてくれるんだ?」



 ラルドの視線を受けて、ジェマも楽しげにニヤリと笑った。道具の話になると目の色が変わる2人。ジェマの腕から飛び上がったジャスパーはシヴァリーと顔を見合わせると苦笑いを浮かべた。



「ふっふっふっ。何を隠そう! アラクネ種の糸を織り交ぜて、【マカロン】のように歩かずに回収できるようにしようかと」



 ジェマはそう言うと、伺うようにシュレッドを見た。



「シュレッドさんは回収のときが1番無防備になりますから。その隙をつかれないための策略です」



 ニヤリと自信満々に笑ったジェマに、シュレッドは両手を上げてやれやれと呆れてみせた。



「そのn発想力には降参するしかないわ。まあ、そもそも私が1撃目を外すこと自体珍しいことなんだけどね?」



 苦笑いを浮かべたシュレッドに、ジェマは首を傾げた。



「戦闘の基本は1撃目を躱されたあと、追撃の精度をどれだけ高く保つことができるかだと習ったのですが」


「誰に?」


「お父さんです」



 シヴァリーの問い掛けに、ジェマはぐいっと胸を張った。


 スレートは武具の生産を嫌い、戦争への加担も拒否してきた。けれどジェマには戦闘について知識だけは教えていた。



「契約者はジェマに戦闘訓練もさせるつもりでいた。そのために必要な道具や指導方法の準備までしていたんだ」



 ジャスパーはシヴァリーだけに聞こえるように呟いた。シヴァリーはその言葉でスレートがまだ死ぬ予定ではなかったのだと、その心中を察した。



「スレートさんはどこまでジェマの素性を知っていたんでしょうか」


「さあ。契約者は1人でなんでもできる人間だったからな。1人で抱え込む天才でもあった」


「ああ、仕事はできるけどやり方があっているとは思えない上司みたいですね」



 シヴァリーは苦笑いを浮かべた。ジャスパーはそれに首を傾げた。



「驚いたな。騎士にもそんな人がいるのか」


「いますよ。騎士としての誇りが高い人、特に騎士爵の人とかですかね。休日でも出勤してきて、自分は忙しいとアピールしてくるんです。時間内に仕事が終わらない非効率さを嘆く方が良いと思うんですけどね」



 ぼやくように言ったシヴァリーに、ジャスパーはふっと笑った。シヴァリーが不思議そうに顔を覗き込むと、ジャスパーは蹄を振った。



「いやなに。シヴァリーも最近の若者なのだなと思ってな」


「いや、まだ10代ですからね?」


「それもそうだな。まだまだ、若い」



 ジャスパーの笑い声に、ふとシヴァリーは疑問をぶつけてみることにした。



「ところで、ジャスパーさんっておいくつですか?」


「精霊は宿主の誕生とともにあるものだぞ? 我の宿主は、さて、何だったかな?」



 意味ありげに笑いながら、ジャスパーは店に入って行くジェマたちを追う。シヴァリーはポカンとしたけれど、ハッとしてその背中を追いかけた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ