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 氷がパリンッと割れると、シュレッドが中から出て来た。すっかり力尽きて、息も絶え絶えな様子にジェマは慌てた。



「ジャスパー! 【回復ポーション】取って来て!」


「は? なんでだ?」


「良いから早く!」



 ジャスパーは渋々店内に戻って【回復ポーション】の小瓶を取ってきた。ヒールコットンの花をすり潰して煮詰めたもの。味はマズいが効果は即効性はある。



「ジェマ、持ってきたぞ」


「ありがとう」



 ジェマはシュレッドを抱き上げると、手早くその口に【回復ポーション】を流し込んだ。シュレッドがゆっくりと嚥下する。その瞬間、シュレッドはハッと目を覚ました。



「私っ」


「良かった。無事ですね」



 ジェマがニコリと笑いかけると、シュレッドは即座にポケットからナイフを取り出して首筋に当てた。



「暗殺者であると知られたからには、この命……」


「ダメです!」



 ジェマは咄嗟にナイフを掴んだ。ジェマの手のひらから血がぽたぽたと垂れる。



「ジェマ!」



 ジャスパーが叫ぶけれど、ジェマは顔を歪ませながら手で制した。



「今、【回復ポーション】飲ませたんですから。それを無駄にはさせませんよ」



 苦し気にニッと笑ったジェマは、手に力を入れてナイフを取り上げた。さらに刃が食い込んで痛みが走る。けれどジェマは笑顔を絶やさない。接客は笑顔命。スレートの教えだ。



「あ、お支払いもしてもらいますからね。あと、あの武器。私に改良させてください」


「ジェマちゃん、私を許すの?」



 シュレッドが目を見開いて聞くと、ジェマは首を傾げた。



「暗殺者が道具師に生産を依頼するときに身分を明かすことはよくあることですよね?」



 悪戯っぽく笑ってみせれば、シュレッドは呆れたように笑って肩の力を抜いた。



「そう、ね。ジェマちゃん、ありがとう」



 シュレッドの瞳から涙がポロポロと零れ落ちる。ジェマは笑いながらそれを見つめていた。



「ジェマ、これ飲め」



 ジャスパーがふよふよと飛んできて、もう1本【回復ポーション】を持ってきた。ジェマはそれを受け取ったけれど渋い顔をした。



「でもほら、これ、商品だし。手当てすればすぐ良くなるから、ね?」


「治るまで道具作りしなくて良いなら良いけど」


「うっ」



 ジェマは言葉に詰まると、ジッと小瓶を見つめた。眉を顰めてジッとそれと対峙する。それからはぁっと長く息を吐くと、一気に薬を飲み干した。



「うえっ、にがぁい」



 渋い顔をするジェマからジャスパーが小瓶を受け取る。ジェットは心配そうにジェマの頭を撫でて宥める。



「全く、薬嫌いはどうにかしてくれ」


「んん。あ、美味しい薬でも作ろうか」


「やめとけ。飲み過ぎる人間の管理までできないだろ?」


「それもそっか。うーん。じゃあ、私用だけ作る」


「まあ、良いんじゃないか?」



 ジャスパーは苦笑いを浮かべる。ジェマは次にやりたいことが見つかって嬉しそうに笑う。その姿を見ていたラルドはホッと息を吐いた。



「全く、心配させるな」


「ごめんなさい、ラルドさん。でも、死者に【回復ポーション】は効かないので。これがベストかと」


「自分のことを大切にしろと言っているんだけどな」



 ラルドはジェマの手を取ると、ナイフで切った場所を撫でた。



「痛いの痛いの飛んでいけ」


「……ラルドさん、【回復ポーション】で痛みも消えていますよ?」


「気持ちの問題だよ」



 やれやれと苦笑いを浮かべたラルドはジェマからシヴァリーに視線を移す。剣を持った腕をだらりと垂らしたシヴァリーに向けて、ラルドが【マジックステッキ】を向けた。



「ラルドさん!」



 ジェマが叫ぶと、シヴァリーはラルドの行動に気が付いた。そして慌てて剣を持ち直した。



「ラルド? どういうつもりだ?」


「それはこっちのセリフだ。お前、ジェマのことを1番に守ろうとしなかっただろ」



 ラルドの鋭い言葉がシヴァリーに向けられる。確かにシュレッドの氷塊が壊れても、しばらくシヴァリーは身動きを取らなかった。シュレッドが自殺しようとしたときも、シヴァリーはただ見ているだけだった。



「お前、ジェマもシュレッドさんも死ねば良いとでも思っていたのか?」



 ラルドがジッと力強く睨みつけると、シヴァリーはひゅっと息を飲んだ。そして小さく首を降る。



「違う。どちらも守るべき存在で、だから、どちらに味方をするべきか分からなかった。暗殺者のルールも知っていたから、シュレッドが死を選ぶべきだと判断したのであれば止めるべきではないと判断した。申し訳ない」



 シヴァリーは剣を鞘に納めると頭を地面に擦りつける勢いで頭を下げた。ラルドとシュレッドはそれをジッと見下ろしていたけれど、ジェマはオロオロとしてしまった。ジェットもジェマにつられてじたばたと動くものだから、ジャスパーが宙に浮かせて動きを封じた。



「シヴァリーさん、顔を上げてください。誰も死んでませんから、大丈夫です」



 ジェマがそういうと、シュレッドは深くため息を吐いた。そして自分の手のひらを見つめた。



「それが問題なんだけどね」



 シュレッドの言葉にジェマが首を傾げると、ラルドも眉を顰めた。



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