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 ラルドとジェマの表情を見て、シヴァリーは困ったように眉を下げた。



「そんな顔をしなくて大丈夫だよ。こんなことはよくあることなんだ。だから私も慣れている。今回の一件は、私の注意不足が招いた結果だ」


「そんな」



 ジェマは言葉を失った。けれどラルドは鋭い視線をシヴァリーに向けた。



「そんなもの、慣れる必要はないだろ。それにシヴァリーの部下たちは大丈夫なのか?」


「部下?」


「部下が狙われたり、もしくは部下に狙われたり。な」



 ラルドの言葉にシヴァリーの右眉がピクリと持ち上がった。そしてゆっくりと視線をラルドに向ける。その瞳は寂し気で、ラルドはグッと奥歯を噛んだ。



「部下たちも奇襲には常に備えている。申し訳ないけどね。それから、今の部下たちに狙われることはないと思うよ」


「今の?」



 気になる言い回しにジェマが聞き返すと、シヴァリーはこくりと頷いた。そして遠くを見ると眉を顰めた。



「今の小隊は改編されたメンバーなんだ。最初に私が現在の第8小隊を任されたときは既存のメンバーを率いるという形だった」


「何かあったんですか?」



 ジェマの問い掛けにシヴァリーは背筋を伸ばして胸を張った。



「部下に奇襲を受けた。だけど私はそれを全て返り討ちにして小隊を壊滅させた。メンバーがいなくなった小隊にメンバーを補充するとき、私は信頼できる15人に声を掛けた。どこよりも小さな小隊になってしまったけど、どこよりも強い信頼と力を持っている小隊だ」



 シヴァリーはさらに肩を後ろに引いた。



「メンバーは平民出身の者が2名と上位貴族に反感を持つ下級貴族ばかりなんだ。だから他の小隊からは余計に侮辱される。だけどそれを実力で黙らせた。まあ、それで秘密裏に狙われることが増えたんだけど」



 シヴァリーはそう言いながらあっけらかんと笑う。余裕に満ちたその様子に、ジェマの不安は小さくなった。ラルドはまた不満げだったが、呆れたように笑った。



「全く。何か困れば頼れよ? 俺は力はないが情報はある。助けになれるかもしれない」


「ありがとう。頼らせてもらうよ。情報をくれる相手は1人でも多い方が良いからね」


「お待たせしました。今大丈夫?」



 突然音もなく近づいてきたシュレッド。気配に気が付かなかったラルドとジェマはビクッと肩を跳ねさせた。シュレッドはそれにクスクスと笑いながらトレーに乗せて来たカロタケーキとインフェルナリスの刺身、マカロンを置いて立ち去った。


 ジェマの手が小刻みに震えるのを見て、ジャスパーはそっとその手の上に蹄を重ねた。



「驚いたな」


「そうだね」


「いや、シヴァリーは全然驚いていなかっただろ」



 不満げなラルドに、シヴァリーはケラケラと笑う。



「ほら、食べないの?」



 シヴァリーは、はいはいとジェットとジャスパー、ジェマの前に皿を並べた。これ以上話を進める気がないらしいシヴァリーに、ラルドは仏頂面で頬杖をついた。一方のジェマはポカンとした顔で目の前に置かれたマカロンを見下ろした。



「あの、これラルドさんのですよね」


「いや、ジェマのだよ。な? ラルド?」


「ああ」



 ラルドはびくりと肩を跳ねさせると、耳を赤くして頷いた。チラチラとジェマの様子を窺う姿に、ジェマは首を傾げた。



「くれるんですか?」


「ああ」



 ぶっきらぼうな返事を返すラルドにジェマはキョトンとしながらもペコリと頭を下げる。



「ありがとうございます。えっと、それじゃあ、いただきます?」



 困惑したまま、ピンクのマカロンを1つ食べてみる。



「ん。おいひ」



 ジェマの顔がとろけると、ラルドはホッと息を吐いた。そしてそれを見ていたシヴァリーは両眉を持ち上げて右の口角を上げた。



「ふぅん?」


「なんだよ」



 ぶすっとした顔でそっぽを向いたラルド。シヴァリーはクスクスと笑った。そして小さく深呼吸をすると今度はマカロンをほわほわした表情で堪能するジェマを見つめた。



「幸せそうに食べるね」



 次のマカロンを口に入れたばかりだったジェマはコクコクと何度も頷く。その頬をぷっくりと膨らませた姿はクリスタスのようだ。クリスタスは手のひらサイズの小動物だ。両頬に食べ物を詰め込む姿の愛らしさから愛玩用として契約する人もいる。


 ジェマはゴクリとマカロンを飲み込むと、ニコニコと幸せそうな顔で微笑んだ。



「本当に美味しいです。ラルドさんとシヴァリーさんもどうぞ。一緒に食べましょう!」


「いや、それは……」


「良いじゃん。ジェマがこう言ってくれてるんだし。ジェマ。ありがとう」



 ラルドは口籠もったが、シヴァリーは躊躇なくマカロンを口の中に放り込んだ。



「うん。美味しい」


「ったく。ジェマ。もらう」


「はい! って、ラルドさんからいただいたんですから、遠慮しないで食べてください」



 ラルドがマカロンを口に放り込んだとき、ジェマが照れたように笑った。ラルドはその表情を見た瞬間に思わず息を飲んだ。そして咽た。



「ラルドさん! 大丈夫ですか!」


「ほら、ラルド。水飲んで」



 慌てるジェマと介抱するシヴァリー。水を飲んで落ち着いたラルドは気恥ずかしそうに頬を掻いた。



「なんか、悪いな」


「いえ。大丈夫なら良かったです」


「そうそう。まあ、少し落ち着いてね?」


「ああ」



 柔らかく微笑んだラルドはジェマに向かってフッと笑った。それを見ていたジャスパーはジッとラルドを睨んでいた。



「ピピッ!」


「美味しい? 良かった」



 一方のジェットはインフェルナリスの刺身のおかわりをこれでもかというほど堪能していた。その食べる姿の愛らしさにジェマはほっこりと笑った。



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