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 話をしていると、料理を乗せたワゴンを両手で押したシュレッドがやってきた。



「お待たせ! ジェマちゃんのスクロフォの生姜焼き定食と、シヴァリーのレポリナエの香草焼き。で、ラルドのケタのムニエル。これが精霊さんのボス丼、魔獣さんのインフェルナリスの刺身ね。精霊さんのはどこに置けば良い?」


「ここにお願いします」


「分かった。ごめんね、見えなくて」


「いえ。ジャスパーとジェットの入店を許してくれてありがとうございます」


「流石に一見さんはお断わりしてるわよ? でもジェマちゃんが契約してる子なら良い子だろうしね」



 シュレッドは精霊が見えない。魔獣を食材の形以外で見ることもない。それでも受け入れたのはジェマへの信頼以外に理由はない。



「それじゃあ、ゆっくりしていってね」



 シュレッドさんが他のテーブルに向かうと、各々ご飯を食べ始める。黙々と食べ進める面々。1番に食べ終わったのはジェットだった。



「ピィ」


「えぇ? 足りないの?」



 ジェットの悲し気な声にジェマは眉を下げた。自分用に作った【伸縮財布】を開いて覗き込む。次元拡張された空間の中をふわふわと漂うお金を数えて、キュッと唇を引き結んだ。



「シュレッドさん!」



 ジェマはピシッと手を挙げた。シュレッドさんはジェマに気が付くとコクリと頷いた。それから手に持っていたお皿を1度キッチンに片付けに向かった。



「あ、おい」


「大丈夫。【伸縮財布】の売上で少し余裕があるし、今回はジェットのおかげで商品が量産できたから。お礼も兼ねてね。ジャスパーはデザート何食べる?」


「いや、我は……」



 ジャスパーが遠慮するとジェマはむぅっと頬を膨らませた。けれどすぐに俯いてしゅんと肩を竦める。



「お礼はしたいけど、押し付けたら意味ないし。どうしよ」



 完全に肩を落としてしまったジェマに、ジャスパーは目を見開いてキョドキョドと視線を彷徨わせた。いつも元気なジェマにしゅんとされるとジャスパーは困ってしまう。



「じゃ、じゃあ、カロタケーキとか、食べて良いか?」



 ジャスパーがおずおずと言うと、ジェマはパッと表情を明るくした。けれどすぐに眉を下げるとジャスパーを伺い見た。



「本当に食べたい? 無理してない?」


「無理はしていない。自分ではなかなか作らないから、1度食べてみたいんだ」


「そっか。分かった!」



 やっといつもの笑顔を取り戻したジェマにジャスパーがホッとしていると、ふふっと笑い声が零れた。いつの間にかジェマの後ろに立っていたシュレッド。ジェマは驚きのあまりポカンと口を開いてしまった。



「あら、ごめんね。精霊さんがカロタケーキよね。他に注文は?」



 シュレッドに聞かれても、ジェマは心臓ごと停止しているのかと不安になるほど無反応。完全にフリーズしてしまっていた。



「シュレッドさん、インフェルナリスの刺身をお願いします」


「他にある?」


「あー、マカロンあります?」



 ラルドが聞くと、シュレッドは目を見開いた。そしてチラリとジェマを見ると、ニマニマと笑いながら頷いた。



「もちろんあるわよ。他にある?」


「以上です」


「了解。ちょっと待っててね」



 ラルドはシュレッドの反応に唇を尖らせてそっぽを向いた。その反応にラルドの気持ちを見抜いたシヴァリーは微笑ましそうにラルドを見つめた。



「ラルド、明日授業はある?」


「ああ、1限だけだが」


「少し一緒に買い物に行かないか?」



 シヴァリーの突然の誘いにラルドは眉を顰めた。シヴァリーは人畜無害な笑みを浮かべているが、ラルドからすれば誘われる理由がない。ググッと睨みつけていると、シヴァリーの笑みが苦笑いに変わった。



「ただ友人として出かけたいだけだ。まあ、仕事関係の買い物がしたくてな。目利きといえばラルドだろ?」


「そういうことか」



 ラルドはなるほどと頷くと、一瞬難しい顔をした。けれどすぐにニヤリと何かを企む笑みを浮かべた。



「明日は授業終わりに店に行くんだ。ジェマの新商品の発売もあるからな。ということで、うちの店で買い物をしていかないか? うちの店なら武具も防具も薬品も。雑貨からアクセサリーまでなんでも揃う」



 ラルドはシヴァリーに向かって顎を持ち上げた。可笑しそうに笑ったシヴァリーはうんうんと頷く。



「分かった。それじゃあ、昼前に〈エメラルド商会〉へ行くよ」


「ああ。待ってる」



 2人が約束するのを黙って聞いていたジェマは、ついにうずうずを抑えきれなくなった。ジャスパーはそれに気が付いて止めようとしたが、すぐに無理だと諦めた。



「あの、シヴァリーさんは何を買うんですか?」



 ジェマの瞳は興味深々にらんらんと揺れていた。シヴァリーはこちらにも呆れたような目を向けるけれど、2人の無邪気さに心を浄化されたような気分になっていた。



「剣を新調したくてね。この間森で魔獣と1戦交えたときに後ろから奇襲を掛けられて折れたんだ」


「奇襲?」



 ラルドが眉を顰めると、シヴァリーは肩を竦めてへらりと笑ってみせた。



「他の小隊の連中が僻んでるんだよ。まあ、よくある話だ」



 シヴァリーが何でもない顔で最後の1口を食べるのを見て、ラルドとジェマは悔しそうに顔を歪めた。



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