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 ジェマはジェットと話をしているのか、楽し気に笑っている。ジャスパーはその姿を見て軽く唇を噛んだ。



「ジェマの髪飾り、分かるか?」


「髪飾りですか? あの雫型の?」


「ああ。それだ。あれはジェマが生まれたときに我が契約者がプレゼントした所有者固定魔道具だ」



 ジャスパーの言葉に、シヴァリーはパッとジェマの方を見た。ジェマは棚の高いところにある商品を並べ直している。


 スレートの所有者固定魔道具といえば現在では国宝とも言われている代物だ。見つけ次第国が、というより王妃が管理下に置いてしまう。スレートから買ったものを奪われまいと、国民はその存在を隠している。



「それは、機密事項ですよね?」


「ああ。頼む」



 ジャスパーが頷くと、シヴァリーも力強く頷く。ジャスパーはその頼もしい顔つきに肩の力が抜けた。



「あの所有者固定魔道具の機能は、隠蔽だ」


「隠蔽?」



 シヴァリーは驚きながら聞き返す。所有者固定魔道具の機能について話すことは、存在を明かすこと以上にあり得ないことだ。それでもそこに信頼があると証明することもできる。


 シヴァリーは出会ったばかりのジャスパーがどうしてそこまで信頼してくれているのかは分からなかったけれど、信頼に応えたい気持ちは大きい。全ては大切な国民のため。シヴァリーは王族に仕える騎士団員でありながら、王妃の独裁的な態度から国民を守ることを信条として掲げていた。



「ジェマの本当の髪は、絹のような白髪だ。そして瞳はルビーとひすいのオッドアイなんだ」


「それって」



 シヴァリーは所有者固定魔道具の機能について明かされたこと以上の驚きを前に口をポカンと開けた。そして目をぱちくりさせると、ハッとした。それからジッと考え込む。



「それから、ジェマの出生紋はフルール・ド・リスなんだ」


「それは、もう、ジェマに王族の血が入っていることは確定じゃないですか」


「やっぱり、そうなんだよな」



 ジャスパーは博識だが、人間の事情に詳しいわけではない。スレートもジェマを人間の事情から離していたから、ジェマも詳しくない。ラルドと話していてもギャップが生まれることが多い。


 ジェマとジャスパーが頼れるのはエメドとラルドだけ。しかし2人にはジャスパーが見えない。ジャスパーが誰も頼れないなか、現れたのがシヴァリーだった。


 ジャスパーのことを見えていることはもちろん、王族に仕える騎士でありながら騎士道精神を貫く姿勢も好ましかった。そしてラルドが信頼している。ラルドの目利きは商品だけに留まらない。ジェマに邪な目を向けるところは嫌いだが、ジェマの商品を信じ、それを扱う客を見極める腕を信じない手はなかった。



「ジェマのお母さんが王族なんでしょうか」


「分からない。契約者はそのことについて何も話してはくれなかったからな」


「そうですか」



 シヴァリーはジッと考え込む。そして空を睨んだ。現時点では分からないことが多すぎる。けれどジェマのことを知るためには国家機密に触れる必要がある。



「ジェマの年齢から考えて、その当時妊娠していた王族について調べれば何か分かる可能性はあります。こちらで王宮図書室で調べてみますね」


「頼む。だが、無理はするな。王妃の目は国中の端々に届いている。自分を騎士として信じてくれている人たちのことを大切にしてくれ。それにジェマにとってシヴァリーは大切な客だからな」



 ジャスパーがニヤリと笑うと、シヴァリーは小さく吹き出した。それからコクリと、少年のように頷いた。



「ありがとうございます。私もどうにか頑張りますね」


「ああ」



 ジャスパーはふわりと飛び上る。シヴァリーもすくっと立ち上がると、兜を手にぺこりと一礼した。



「それじゃあ、また来週来ます」


「ああ。待っているぞ」



 ジャスパーは背筋を伸ばして立ち去るシヴァリーの背中を見送った。シヴァリーの姿が見えなくなると、〈チェリシュ〉の中に戻る。



「あ、ジャスパー、おかえり」


「ピッ!」


「ああ。ただいま」



 ジャスパーはふよふよと飛んでカウンターに向かうと、ジェマの肩にちょこんと座った。そしてその黒い髪を撫でる。



「シヴァリーさんとのお話は楽しかった?」


「ああ。やっぱり彼は良い人だと思う」


「うん。私もそう思う。凄く格好良い人だよね」



 ジェマの純粋な笑みに、ジャスパーは苦々しく笑うことしかできなかった。ジェマがスレート以外に対して初めて言った格好良いという言葉。それがなんだか、無性にムッとした。



「シヴァリーは悪い奴じゃない。でもなぁ。あいつかぁ」



 頭を抱えてぼやくジャスパーに、ジェマとジェットは揃って首を傾げた。



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