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 お昼ご飯を食べてから、ジェマとジェットは森に出発した。家から離れすぎず、周りに何もない開けた場所。スレートもかつて実験のために使っていた未開拓の無人の炭鉱。ジェマはジャスパーが用意した地図を手に、ジェットを肩に乗せて森を進んだ。



「ピピッ」


「本当? じゃあ、こっちから回ろうかな」



 魔獣であるジェットが他の魔獣の居場所を感知して、なるべく遭遇を避けて歩く。【マジックリング】と【マジックペンダント】だけでなく、今日は【マジックステッキ】も持ってきた。それでも魔獣を避けられるならそれに越したことはない。


 ジェマとジェットは森の中を危なげなく進むと木々が開けて空が見える場所、未開拓の炭鉱まで到着した。この場所が未開拓のまま放置されているのも、開拓中や移動中、そして開拓後の作業中に魔獣と遭遇する危険性が高いと判断されたからだった。



「本当に魔獣と会わずに着いちゃった」


「ピピッ!」


「うん! 本当に凄いよ! ありがとう、ジェット」



 ムンッと胸を張ったジェットの頭を撫でて、ジェマは炭鉱に近づいていく。炭鉱の入り口として少し掘られた洞窟。その近くには他にも大穴が開いていた。



「ピッ?」


「これはね、私のお父さんが実験をしたときに開けた穴なんだって」



 薬品や爆発する可能性がある道具を使用するには人気がなく、魔獣や動物も寄りつかないところである必要がある。ここは開拓停止以降人が寄りつくことがなくなった。そして開拓時代の名残りで大勢の人間を避ける本能がある魔獣や動物も寄りつかない。さらには炭鉱の周りには木が生えていないから、万が一爆発しても引火の心配がない。



「川まで行くのが確実なんだけど、日が沈むまでには帰らないといけないでしょ? 魔獣や動物がいない場所を探していたら実験をする時間が無くなっちゃうし」



 ジェマは不満げに零しながら、ジェット作の袋から鞭と起爆剤を取り出した。


 日が沈むまでに帰るというのはジャスパーとの約束だった。夜の森では魔獣も動物も活発になる。ジェマとジェットだけで野営をするのは危険すぎると判断された。



「【バイバイ】シリーズ使えば全然大丈夫なんだけどな」



 ジェマが改良を続けている【バイバイ】シリーズ。魔獣避けの【マジュ―バイバイ】、動物除けの【アニマルマルバイバイ】、虫除けの【ムッシーバイバイ】。周囲に振りまけば屋外であれば1週間、屋内では1カ月効果が持続する。



「ピピ?」


「ううん。やらないよ。分かってるもん。ジャスパーが心配してるのが魔獣や動物なんかじゃないって」



 ジェマの鞭を握る手に力が籠る。スレートは盗賊に殺された。1番怖いのは、忌避剤が効かない人間。ジャスパーが盗賊や悪意を持つ人間からジェマを守ろうとしていることは、ジェマにも分かっていた。



「あのね。私のお父さんは本当に強い人だったんだ」


「ピ?」


「うん。ジャスパーより強くて、私よりずうっと凄い職人だったの。あの日も、1人だからって重装備で出掛けてた。この辺りに出る普通の盗賊なら、お父さんの魔道具であっという間に倒せちゃうはずだったんだよ」



 スレートの防犯用の道具はどれも冒険者や商人からも人気だった。スレートの道具を見れば盗賊の方から逃げ出していくほど、スレートの道具は相手を無力化させることに長けていた。意識を奪い、その間に捕縛できると騎士の中にもスレートの道具を求める人がいた。殺さないけど逃がさない。それがスレートの信条で、それを具現化したものがスレートの道具たちだった。


 そんな道具も、使わなければ意味がない。


 冒険者が見つけたスレートの遺体からは財布だけが抜き取られていた。それを見て盗賊に襲われたと判断された。しかし価値の高い道具は1つも盗まれていなかった。それどころか、スレートがその道具を使用した痕跡もなかった。



「本当に、盗賊に襲われたのかな」


「ピピッ?」



 ジェマがぼそりと呟くと、ジェットはくりんと首を傾げた。それに気が付くことなくぼんやりとしているジェマ。その首にジェットが擦り寄ると、ようやくハッとして眉を下げて笑った。



「ごめんね。ボーッとしちゃった。さあ、やろっか!」



 鞭を持ち直したジェマは、気合いを入れるように鞭で地面を軽くパシンッと叩く。そこにできたクレーター。



「よし」



 ジェマはその場にしゃがむと、ジェット作の袋から【クレンズキャンティーン】を取り出した。そこに入れて来ていた普通の水を、鞭の柄に括りつけたホールアラクネの糸に注ぎ込む。それからさらに起爆剤を空気に触れないように気を付けて同じ糸に流し込めば完成。


 束になった糸の内、中央の1本だけには薄められた起爆剤が注ぎ込まれている状態。ジェマはふぅっと息を吐くと、肩の上のジェットの頭を指先で撫でた。



「ジェット、危ないから少し離れていてね」


「ピッ!」



 ジェットがその場に降り立つと、ジェマは5歩前に進み出た。そして近くにあった岩に向けてひと振り。


 パシッパチッパチパチッ


 鞭が当たった岩は鞭によって抉られる。さらに糸に空いた小さな穴から空気中にばら撒かれた起爆剤が爆ぜることによって小さな爆発が起こり、岩は粉々になった。


 ホールアラクネの糸には中央の管状の穴以外にも細かな無数の穴が開いている。それは糸が振り回されることで中に入れた液体をばら撒くためのもの。そして起爆剤は空気に触れることで爆発を起こす種類の薬品を選んだ。


 お互いが持つ本来の性質を利用して作られた武具。ジェマは粉々になった岩を見下ろしてガッツポーズをすると、肩の上で拍手をしていたジェットとハイタッチを交わした。



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