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 重量も質量も軽減されたアラクネ糸の袋によって全ての素材を無事に持ち帰ることができたジェマは、早速作業場に籠ることにした。



「我はジェットに家を案内しよう」


「ピッ!」



 脚を挙げて返事をしたジェットが付いてきやすいように低空飛行するジャスパー。面倒見の良い背中を見送ったジェマは、心置きなく作業に集中しようと気合いを入れた。


 作業場に入ってサファイア色のエプロンをつける。袋から素材を取り出して、使う素材を作業台に引っ張り出した。



「それにしてもこの袋、凄いなぁ」



 ジェマは改めて袋を確認すると、手近にあったメモを手繰り寄せて乱雑な字を残した。『財布・素材袋』と書かれたメモはヒラッと飛ばされて、他にもたくさんのアイデアが記されたメモたちの傍に落ちた。ここもジャスパーが整理整頓しているのだが、ジェマがアイデアを思いついたり新たな作業に取り掛かったりする度に綺麗さが失われる。



「今は依頼をこなさないとね!」



 ジェマはホールアラクネの脚と糸、インフェルナリスの外骨格とオブシディアンの他に、素材棚から以前仕入れておいたワイヤー、アイロンとスチールの塊を引っ張り出してきた。



「まずはナイフ!」



 鞭の柄に忍ばせる予定のナイフ。本当は吹き矢も取り付けようかと思ったが、相手は暗殺者。証拠を残すようなものは好まないだろうと組み合わせることは止めた。


 まずは作業場の外の火床(ほど)に火を焚く。土製の囲いの中に冷水を入れて、鉄打ち用の台を引っ張り出してくる。ここからは熱さと集中力の戦い。


 ジェマはアイロンとスチールの塊を熱して叩く。その2つを溶接しながら、叩き伸ばす。形を作ってからは火の温度を下げて、強度を高めるために叩き続ける。それから砥石で削って、更に削る。焼き入れをして、更に削る。


 手慣れているとはいえ、時間がかかる作業だ。焼き入れを行う前に、夕食の時間になった。



「ジェマ。夕食ができたぞ」


「うん。ありがとう」



 ジェマは一旦作業の手を止めた。グイッと伸びをして手を洗ってからジャスパーの部屋に入ると、ジェットが既にテーブルの上に乗っていた。



「そういえば、ジェットって何を食べるの?」


「基本は肉食だな。魔獣や動物の肉だけじゃなくて虫も食べる種族だから、素材採取をしていればジェットのご飯に困ることはない」


「そっか。それなら良かった」



 ジェマがホッと息を吐きながら席に着くと、ジェマとジャスパーの前にはケタのムニエル、ジェットの前にはインフェルナリスの肉の山が並べられた。



「うわぁお」


「まあ、こんな感じだ」



 ジェマが引き攣った顔でジェットの皿を見ると、ジャスパーは視線も寄越さないまま息を吐いた。ジェットは匂いを嗅いで嬉しそうにくるくるとその場で回った。



「ま、まあ、ジェットが嬉しいならいっか!」


「ピッ!」


「とにかく食べるぞ」


「うん。いただきます」



 人数が増えた食卓。ジェマはその状況ごと楽しみながらムニエルを食べた。いつもよりずっと美味しく感じられて、スレートと食事をしていたころのことを思い出させた。



「なんか、懐かしいかも」


「そうだな」



 ジャスパーはそれに同意をすると、ニッと笑ってみせた。ジェットは首を傾げたけれど、すぐに目の前の肉に夢中になってガツガツと食べ進めた。



「ごちそうさまでした」



 しっかりと堪能しながらもあっという間に食べ終わったジェマは、早速作業場に戻ろうとした。



「ジェマ。今日はまだやるのか?」


「うん。ナイフだけでも完成させちゃいたい」


「そうか。分かった」



 引き留めたジャスパーも、すぐに完食する。ジェットも同じくらいのタイミングで完食すると、ころりと転がって大きくなったお腹を擦った。



「ジェットの食事はもう少し少なめで良いな」



 ジャスパーの言葉に目を見開いたジェットが抗議するように脚をばたつかせた。その平和な様子に頬を緩ませたジェマは、ジャスパーの部屋を後にした。


 ジェマは作業場に戻るとエプロンを付け直して、また外に出ると作業に戻った。焼き入れの作業を始めてすぐ、ジェマは吹き出した汗を袖で拭った。それを冷水に突っ込んだら、火を消す。


 ここからはひたすら刃を研ぐ時間。ジェマは無心になってナイフを研いだ。薄く。けれど欠けないように頑丈に。絶妙なラインを見極めながら、柄に忍ばせるナイフとして最適なものを作ることに執心した。



「ピピッ?」


「ジェマは作業中だ。邪魔をしてはダメだ」


「ピィ」



 ジャスパーの部屋から様子を覗き見ていたジャスパーとジェット。ジェマの傍に行きたいジェットを宥めたジャスパーは、ジェットを窓から引き離した。



「ジェット、1つ聞いて良いか?」


「ピ?」


「ジェット、お前はダークアラクネだよな?」


「ピピッ!」



 ジャスパーの質問に、ジェットは誇らしさを表すように高らかに脚を上げた。対してジャスパーは、その返事に頭を抱えた。



「ピピ?」



 ジェットが不安げにジャスパーの顔を覗くと、ジャスパーは首を横に振った。



「なんでもない。気になっただけだ。さ、ジェットの部屋の掃除を済ませてしまおう」


「ピッ!」



 ジャスパーはそれ以上は何も聞かず、ジェットの部屋にする予定の空き部屋へとふよふよと飛んでいく。ジェットは少し首を傾げたけれど、すぐにぴょんっと窓枠から飛び降りてジャスパーを追いかけた。



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