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 インフェルナリスとオブシディアンがかなり集まってきたころ。ジェマは近くの茂みが小さく揺れたのを見逃さなかった。



「ジャスパー」


「ああ」



 ジャスパーがジェマの傍に近づいて蹄に魔力を集中させた。



「準備完了だ」


「はぁい」



 ジェマはニッと笑うと、茂みが揺れた辺りに向かって足下に転がっていた小石を茂みの方へ投げつけた。茂みの中でコツンと軽い音がした瞬間。茂みの中から4体のアラクネ種が姿を見せた。



「黄色がサンダー、紫がポイズン、赤がブラッディ」


「ポイズンアラクネが2体いるのが厄介だな」


「大丈夫大丈夫。糸に捕まらなければなんてことないよ」



 ジェマはそう言うと弄るように【マジックペンダント】に触れた。その瞬間、アラクネたちがジェマとジャスパーに向かって行動し始めた。



「ジャスパー!」


「アースホール!」



 ジェマの合図で手を振りかざしたジャスパーが詠唱する。魔石を使用する魔法とは異なるいわゆる純粋な魔法。分かりやすい違いがこの詠唱だ。純粋な魔法には祈るような詠唱はいらない。必要なのはイメージと魔力だけ。


 ジャスパーの魔法によって大地が揺れて綺麗な円形の大穴が開いた。その上に立っていたアラクネたちは穴に落下する。けれどその直後に糸を吐いて大穴の底に叩きつけられることは回避した。



「ごめんね」



 ジェマは呟くと、手を前に翳した。



「風よ、我が呼びかけに応え、具現化せよ。水よ、我が呼びかけに応え、具現化せよ」



 ジェマが【マジックペンダント】と【マジックリング】に大量の魔力を込めて魔法を発動させると、大穴に滝のように水が流れ込んだ。その打撃を食らってもなお這い上がろうとするアラクネ。しかし水面に顔を出そうとするアラクネは水から出ることを許されずにその場で藻掻いた。


 水面には風が凝固して蓋をしていた。当然ジェマの魔法だが、風属性魔法をこんな使い方をするのは人間だけでなく全生物の中でもジェマくらいなものだ。


 水中で藻掻くアラクネたち。サンダーアラクネがパニックのままに放った糸から電流が流れて、サンダーアラクネ以外が麻痺状態になる。その反動で糸を放ってしまった2体のポイズンアラクネ。その糸からは致死量の毒が漏れ出る。唯一麻痺状態ではなかったサンダーアラクネもこれには動きを止めた。


 結果としては、サンダーアラクネとブラッディアラクネが毒死。2体のポイズンアラクネが溺死した。ジェマが魔法を解除したことで大穴の底に叩きつけられた4体の遺体。ジェマはそれを不満げに覗き込んだ。



「まったくもう。サンダーアラクネのせいで外骨格が焦げちゃった。とはいえ、良い収穫だったね」


「まったく。末恐ろしい」



 ジャスパーはその背中にぼやかずにはいられなかった。腕力に自信がないジェマは、自分では戦闘には役に立たないと言う。しかしその実、高いアイデア力で作り出す魔法の罠で、傷をつけずに素材を採取する術を持っていた。



「スレートも流石にこれは予想できなかっただろうけどな」


「ジャスパー! 回収しよ!」


「はいはい」



 急かすジェマにジャスパーは苦笑いを浮かべながら、再び魔力を集中させた。



「アースタワー」



 今度は大穴を塞ぐように土がせり上がる。一緒に持ち上げられたアラクネたちはジェマが手早く解体して籠に放り込んだ。



「流石に籠がいっぱいだな」


「そうだね。ちょっと重い。でももう少しオブシディアンとインフェルナリスも採取したいし、ホールアラクネも採取しないと」


「どれだけの量でもかさばらずに重くもならない籠があれば良いのにな」


「あ、今度作れないか試してみる?」



 ジェマはケラケラと笑いながら最後のブラッディアラクネの解体を終えた。アラクネ種はそれぞれの特徴を持つ糸はそのまま素材に、肉は加工食品に、外骨格は安価な防具の素材となる。肉と外骨格はジェマは使わない。けれど精肉店や道具師ギルドに買い取ってもらえば小遣い稼ぎ程度にはなる。



「さてと。ホールアラクネが来るまでオブシディアンを採取しようか」


「ああ」



 ジャスパーが頷いた瞬間、ハッと目を見開いたジェマがジャスパーを手のひらで突き飛ばした。その反動のまま自分も後ろに飛び退くと、ジャスパーがいた場所に勢いよく何かが伸びてきた。ターゲットを失った糸がするすると戻っていった先。木の上の茂みの中から鋭い足先が覗いている。



「ジャスパー! 大丈夫?」


「ああ。助かった」



 どうにか地面に叩きつけられることを回避したジャスパーは、ふらりと飛び上る。それを見てジェマが1歩前に踏み出して魔力に集中した。けれどジェマが魔法を発動させる前に敵の方から木の上から飛び降りてきた。


 さっきの群れの中で1番大きかったブラッディアラクネよりも大きい真っ白な身体。ジェマは目をキラキラと輝かせた。



「ホールアラクネ」


「大きすぎるだろ」



 目を輝かせるジェマと頬を引き攣らせるジャスパー。その目の前に立ち塞がる普通ではありえないサイズのホールアラクネ。両者はジッと睨み合った。



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