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 オブシディアンの採掘場及びインフェルナリスとアラクネ種の生息地に到着すると、ジェマは右腕で汗を拭いながら左手に持ったケタの串焼きにかぶりついた。



「まったく。さっさと食べな」


「うん。いや、これもジャスパーが調理用に火魔法の【マジックステッキ】を持って来てくれたおかげだね」



 途中で喉の渇きを癒すために立ち寄った川。そこでケタの大群に遭遇したジェマは、【マジックリング】に付与された水属性魔法で包み込むようにケタを数匹狩った。その内の1匹はその場でジャスパーが解体して串焼きにした。



「どうしてこれを我慢できないんだか」


「えへへ」



 ジェマはニコニコと笑いながらケタを食べ進めた。そしてそれをすっかり食べ終わると、頭と骨だけが残ったケタを串で地面に突き立てた。



「これでよし。ジャスパー、オブシディアンの採取を始めよう」


「ああ。それは良いが、なんでケタを地面に刺したんだ。自殺行為だぞ?」



 ジャスパーが言う通り、ケタのような魚や肉をその場に放置しておくと、匂いに釣られて肉食の動物や魔獣が集まってくる。森の中を移動するときには誘導のために置くことはあっても、作業するすぐ傍に置いておくことはあり得ない。



「だからだよ。臭いでおびき寄せるの。これなら私たちがオブシディアンを採取している間にインフェルナリスもホールアラクネも来てくれるでしょ?」



 ジェマはそう言いながらオブシディアンを拾い集める。ジャスパーもため息を吐きながら土魔法で掘り起こしたオブシディアンを浮遊魔法で籠に放り込んでいく。



「やっぱり魔法が使えるって良いな」


「この世界で人間だけが魔法を使えないからな。魔力はあるのに、不思議な話だ」



 2人は会話をしながらお互いの距離を測る。そうしながら周囲にも意識を向けることは難しいけれど、ジェマは昔から生物の反応を察知することに長けていた。名前が付くことはない特技だ。



「人間は誰も魔法が使えないの?」


「いや、聞いた話じゃ、王族は使えるんだと」


「へぇ」


「この世界の基本魔法は土、火、水、風の4属性と特異の光と闇の合わせて6種類。そのうち王族は光と闇が発現するんだと」


「光と闇って、魔石にはないよね?」


「ああ。4属性と組み合わせるように存在しているものしかないと言われている。錬金魔石は別だがな」



 この世界の魔法は不可解だ。基本魔法以外にも魔法が存在し、それらは無属性魔法と呼ばれる。無属性魔法はジャスパーが使う浮遊魔法が最も有名だが、精霊たちはこの無属性魔法を何かしら1つ、基本魔法以外に持っている。



「つまり、光と闇の魔法が使えるのは人間だけなの?」


「いや、使うこと自体は魔獣や動物、精霊でもできる。ただ、それが魔石に反映されないって話だ」


「ふぅん。なんだか、変な話だね。魔石の話も、人間の話も」


「ああ、そうだな」



 人間の中にも精霊や魔獣を凌ぐほどの魔力を持つ者もいる。それでも人間が魔法を使うことはできない。これは学者たちも長年研究している課題であるが、その謎は未だ解明されていない。


 そして魔法を使えない人間がその代わりとして生み出したものが魔術だった。しかしそれも修練の末に体得できるもの。誰もが使えるものとは言えない。



「まあ、今はオブシディアンを採取する方が先……って、あっ! ジャスパー! ケタのところ!」



 ジェマが静かながらも慌ただしく動くと、黒いアホ毛がぴょこんと揺れた。ジャスパーがジェマが指差す方を見ると、ジェマが地面に突き刺したケタに、大量のインフェルナリスが群がっていた。その見た目は、何とも言い難い。



「キモいな」



 ジャスパーの言う通り。わらわらと集まっている姿は、見る人によっては吐き気を催すだろう。



「ま、一気に狩りやすくて良いじゃん!」



 ジェマはそう言うと、【マジックリング】に魔力を込めた。



「水よ、我が呼びかけに応え、具現化せよ」



 詠唱が終わると、大きな水球がケタとインフェルナリスの上に現れた。この【マジックリング】は水球を作り出す初歩的な魔石が埋め込まれている。魔石は通常そこに記憶された魔法を規定された大きさで使うものだ。しかし何事も例外がある。


 ジェマはその膨大な魔力で魔石が持つ魔力に干渉し、大きさを操作する。これだけなら高位の魔力量保持者には余裕でできることだ。しかしジェマはさらにその先を行く。想像した通りに魔法の形を操ってしまう。それは自身の魔力を使って魔法を操る魔獣や動物、精霊のようだった。


 水球が落下して、ケタごとインフェルナリスたちを包み込む。呼吸ができずに藻掻くインフェルナリスたち。どうにか水球から這い出したインフェルナリスはジャスパーが浮遊魔法で中に押し戻す。ひたすらそれを続けてしばらくしたころ。水の中のインフェルナリスの動きが止まった。



「これで終わり?」


「いや、念のためもう少しな」



 ジャスパーが警戒した通り、それからもう1度インフェルナリスたちが大暴れした。これをジャスパーの浮遊魔法で抑えていると、ジェマが【マジックリング】から意識を逸らして【マジックペンダント】を握った。それでも【マジックリング】が発する魔法の大きさは変わらない。



「風よ、我が呼びかけに応え、具現化せよ」



 ジェマは風魔法を同時発動させてジャスパーの手伝いに回る。それからしばらく同じ作業を続けていると、ようやく水球の中が無音になった。



「これで、オーケーだ」


「よし。それじゃあ、もっともっと集めようか!」


「お、おう……」



 ジャスパーは籠の中でぎゅうぎゅうに詰められたインフェルナリスを見て、げんなりとため息を吐いた。



2024.07.13の更新はお休みします。

皆様も体調にお気をつけください。

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