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 しばらく机に向かっていたジェマは、ペンを置くとガタッと勢いよく立ち上がった。



「できた!」



 思わず出てしまった大きな声を気にすることなく身体をグイッと伸ばすと、ジェマは立ち上がったまま設計図をじっくりと眺めた。鞭を基本に、近距離からも遠距離からも攻撃ができる工夫が詰め込まれた渾身のひと品。



「ジェマ。昼ご飯できたぞ」


「うん。すぐ行く」



 ジェマの大声を待っていたかのように現れたジャスパーは、作業場に顔を出すとそれだけ言って去っていく。ジェマはジャスパーがいたところでクンクンと匂いを嗅ぐ。アリウムのパンチが効いた香り。そこに微かに混ざるトリティクムの香ばしい香り。ジェマはぱぁっと表情を明るくした。



「サンドイッチ!」



 サンドイッチが大好きなジェマはパタパタと足音を鳴らしてジャスパーの後を追う。そして飛び込むようにジャスパーの部屋に入ると、机の上に並べられたサンドイッチを見つけて目をキラキラと輝かせた。



「今日はなんのお肉?」


「今日はレポリナエのモモ肉だ。レポリナエのモモ肉の特徴といえば?」



 ジャスパーはジェマに手を洗わせるべく流しまで背中を押す。そのついでに問題を出すと、ジェマはむぅっと考え込んだ。



「えっと、レポリナエはジャンプ力が高いから、筋肉質で固いお肉、なんだっけ?」


「正解だ」



 レポリナエはその長い耳で敵の音を聞き分けると、力強い脚力で飛ぶように逃げる。そのためモモ肉は非常に筋肉質で、調理に気をつけなければ固くなってしまう。レポリナエの肉は全体的に柔らかいと言われるが、モモ肉は慎重に調理する必要がある。



「今日はアリウム炒めにして、食パンに挟んでみた」


「私が好きなやつ!」



 アリウムはジェマがスタミナをつけるような薬品によく使用するものだが、調理しても美味しい。というより、一般的な利用方法はそちらが正しい。



「いただきます!」



 満面の笑みで食事を始めたジェマを眺めながら、ジャスパーもサンドイッチにかぶりつく。アリウムらしいパンチが効いた、食欲をそそる味。



「それで? 設計図ができたのか?」


「うん。必要な素材だけ集めたら、すぐに作り始められるよ」


「分かった。それじゃあ午後は店を閉めて採取に行くか」


「うん、よろしくね」



 ジェマはニコリと笑いかけると、すぐにまたサンドイッチに意識が向く。ジャスパーはその様子を呆れながら見ていたけれど、ついつい笑ってしまう。


 2人で食事を終えると、ジャスパーは片付けを始める。ジェマは出発の準備をしながら、採取に必要なものを籠に詰め込む。そして最後に設計図をくるくると巻いて籠に差し込んだ。



「ジェマ、行ける?」


「うん。行けるよ」



 今回は自分で鍔の広い麦わら帽子を被って、【クレンズキャンティーン】も持ったジェマ。そして戦闘に備えて低位の風属性魔法が付与された【マジックペンダント】とこちらも低位の、しかしこちらは水属性魔法が付与された【マジックリング】も身に着けていた。



「ジャスパーも今回は火気厳禁でお願いね」


「……まさか」



 ジャスパーはジェマの言葉で今回の狙いに気が付いて頬を引き攣らせた。ジェマはコクリと頷くと、森の方をピシッと指差した。



「今日はホールアラクネの糸と、インフェルナリスの外骨格、オブシディアンを狙うつもり」



 ホールアラクネは吐き出す糸の中が空洞になっていて、人間の身長の3倍ほどの大きさの昆虫型魔獣。インフェルナリスは(やじり)も通さない固い外骨格を持つ昆虫で、よく防具や鈍器の素材として使われる。しかし1匹ずつの大きさが親指サイズと小さいため大量に捕獲する必要がある。


 このホールアラクネとインフェルナリスはどちらも火に弱い。普通に倒すならば火が有効だが、素材採取となると話は別だ。何はなくとも傷が少ない方が好まれる。


 因みにオブシディアンは鉱石の1種だ。真っ黒で削ることでナイフとしても使用できる原始の時代から重宝されてきた鉱石だ。拾うだけで良いと言えば採取が簡単だが、ホールアラクネを始めとするアラクネ種の魔獣たちが、うようよと生息している地帯でしか入手できない現状にある。



「大丈夫! オブシディアンを採取しながらインフェルナリスを探して、襲ってくるホールアラクネを狩れば良いんだから!」



 あくまで楽観的なジェマ。ジャスパーは言い知れない不安を抱えながらも、その自信たっぷりな表情を前に止めることもできず頷いた。



「分かった。ジェマのことは我が守ろう」


「ありがとう。ジャスパーのことには私が守るからね!」



 拳を握り締めたジェマはその拳をそのまま天に突き上げた。そしてそのまま作業場を出ていく。ジャスパーも腹を括ってその後ろからふよふよと飛んでいく。



「インフェルナリスの身は貰って良いか?」


「もちろん!」



 インフェルナリスの身は見た目そのままにかなり少ない。昆虫型という点も食欲を減退させることがある。それでも栄養価は豊富で、味も悪くない。スレートが素材採取のときに捕まえたものは無駄なくいただく、というスタンスだったためにジェマにとっては食べ慣れた味だった。



「楽しみだなぁ」



 呑気さを支える重装備。ジャスパーは苦笑いを浮かべると、キュッと表情を引き締めて家を出た。



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