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 ジャスパーが外から自室に入っていつも通り料理を済ませる。料理が完成したら外回りで作業場に戻って、ラルドとシヴァリーを人間用のリビングへ案内。その間にジェマが店仕舞いと称して作業場からジャスパーの部屋に移動して、料理を店に運ぶ。それを2人で人間用のリビングに運べば食事の準備が整う。



「これ、面倒だね」


「スレートの魔道具に気が付かれないためだ」



 苦笑いを浮かべたジェマにジャスパーも疲れた顔で答える。ひそひそと話していた2人も席に着いたら、4人という大所帯での食事が始まった。



「これ、美味しいですね」


「ありがとう」



 終始にこやかに笑いながら3人の様子を伺うシヴァリー。視線に気が付きながらも淡々と食事を勧めるジャスパー。ほわほわと幸せそうに食べるジェマ。ジェマの様子を見ながら人知れず頬を緩ませるラルド。きっと誰も相席したくないような食卓だ。


 けれどそんな時間も全ての料理が終われば終了する。



「ごちそうさまでした!」


「はい、お粗末様。ジェマ、お皿運ぶの手伝って」


「うん!」


「あ、私もやりますよ」


「俺もやるぞ」


「いや、お客人は待ってな」



 ジャスパーはシヴァリーとラルドを制すると、ジェマと2人で食器を運んだ。店からジャスパーの部屋に食器を運び終えると、ジャスパーに皿洗いを任せてジェマは先にリビングに戻った。



「あ、ジェマさん。ジャスパーさんは?」


「お皿洗いを引き受けてくれています」


「そうですか。あの、1つ買い物をしたいのですが、明日、よろしいですか?」



 眉を持ち上げたシヴァリーの急な提案に、ジェマは目を丸くした。ラルドも訝し気に目を細める。



「えっと、どういった品をお求めですか?」


「さっきお店で見たんです。強制目覚ましってポップが付いたものを」


「目覚まし……ああ。それなら今からお店に行きますか?」



 ジェマはすぐにどの商品のことか見当がついた。在庫も多く残っている商品で、使い方も難しいことはない。ジェマの提案に、シヴァリーは分かりやすく目を輝かせた。



「よろしいのですか?」


「ええ。構いません。ラルドさんはどうしますか?」


「行くに決まっている」



 ラルドがガタリと音を立てて立ち上がると、シヴァリーも静かに立ち上がった。



「では、こちらへどうぞ」



 ジェマは先頭に立って店に向かう。その後ろにシヴァリー、シヴァリーを見張るようにラルドが続いた。


 店に入ると、ジェマは棚に放置していたランタンの土台に埋め込まれた錬金魔石に少量の魔力を込めた。



「火よ、我が呼びかけに応え、具現化せよ」



 詠唱により魔石が反応すると、火がポッと灯った。



「よし、点いた」



 ジェマはガッツポーズをすると、それを手にお目当ての商品がある棚の方へ行こうとした。けれどその肩をラルドにガシッと掴まれて動くことができなくなった。



「ちょっと待て。それ、新商品?」


「これはまだ試作段階です。錬金魔石を使っているから量産はできないですけど、これならマッチが擦れない人でも灯りが点けられると思いまして」



 一般的に灯りの確保は暖炉の火を移したり、マッチを擦ったりして確保する。キッチンの火も、ジャスパーはスレートが作った魔石を埋め込んだコンロを使っているけれど、一般家庭では薪を使うことがほとんどだ。


 ジェマは技術的に、ジャスパーは蹄ではマッチが擦れない。今まではコンロの火をろうそくに移して灯りにしてきた。けれどそれなりに不便なそれをどうにかしたいと常々思っていたジェマ。それをついさっき、形にしてみたところだった。



「これは絶対に売れるぞ。マッチと薪の消費量の多さに比べて、今は独占的な商売のせいで値段が高くなっていてな。社会問題にもなっているんだ」


「騎士や冒険者にも夜の森を移動しなければいけないときや洞窟探索に重宝されそうだな」



 しげしげとランタンの観察をするシヴァリーとラルド。すっかり息が合っている2人にジェマはきょとんとしたけれど、すぐに消費者側の意見をメモに書き残した。



「これを完成させたら〈エメラルド商会〉に連絡をくれないか?」


「もちろんです。もうちょっと調整をしたいので、少し待っていてください。今はとりあえずシヴァリーさんが気になっている商品を見に行きましょう」



 ジェマは上手く話を切り上げてシヴァリーが気になっていた商品がある薬品コーナーへ向かう。淡々としているようで、ジェマは内心ガッツポーズをしていた。



『試作品をわざわざ使った甲斐があったな』



 ジェマの心の声が聞こえてしまったら、ジェマの商才まで露見してしまうところだった。ただでさえ技術力を見せつけている状態でそれはマズい。



「こちらでよろしいですか?」



 ジェマが棚から取り上げたのは【パワーアップクン】という真っ赤なパッケージが印象的な商品。



「カプシウムの成分を抽出して凝縮したタブレットです。特殊なコーティングをしているので24時間は口内に潜ませておいても問題ありません。美肌効果、疲労回復の他にも食欲増進と発汗作用、血行促進の効果があります。眠気については副産物のようなもので。カプシウムの凝縮された辛味で目が覚めます」



 ジェマがニコリと笑って商品説明をすると、シヴァリーの期待に満ちた瞳が不安げに揺らいだ。



「えっと、それって口の中に仕込ませて24時間経過すると、どうなりますか?」


「コーティングが溶けて猛烈な刺激に襲われます。辛い物がお好きな方にお勧めしたい1品です」



 なおもにこやかなジェマ。あまりにも楽しそうに話すものだから、シヴァリー、そしてラルドですら身体の奥底が凍り付くような恐怖を感じた。



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