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 ジェマはラルドとの仕事の話が終わると、早速作業場に向かった。ラルドはその間にジェマから依頼を受けて適正価格の鑑定作業に移った。ジェマが適正価格から大幅な値引きをしないこと。それは街で同じ商品を扱うこともあるラルドにとっても重要なことだった。



「こんにちは」



 鑑定に集中していたラルドに、部屋から出てきたシヴァリーが声を掛けた。ラルドは顔を上げると、軽く会釈をしてまた作業に戻る。シヴァリーは話をする気がないことを見て取ると、好きに店内を見て回ることにした。



「なんだ、これ」



 シヴァリーが手に取ったのは、ローストが買って行った【カーブフィットピーラー】だった。うねうねと動く刃に顔を歪めると、すぐに元あった場所にそれを戻した。


 ふらふらと店内を見て回って、気になれば手に取る。特に冒険者向けのコーナーはシヴァリーにも興味深いものが多かった。



「ここら辺は薬の類か」



 シヴァリーが手に取ったのは魔獣避けのポーション。その名も【マジュ―バイバイ】。アリウムという食べればスタミナが付く代わりに口臭がきつくなる植物を主成分とした魔獣向け忌避剤。天然由来で食べることもできるから、嫌いな相手に迫られたときに自分の口に吹きかければ相手が去っていく効果も期待できる。



「変な使い道だな」



 シヴァリーは苦笑いを浮かべながら【マジュ―バイバイ】を棚に戻した。そして隣にあった次のバイバイシリーズの小瓶を手に取った。


 【ムッシーバイバイ】はその名の通り虫全般に効果のある忌避剤。スーッとした清涼感がある匂いが特徴のハッカノー、樹脂の香りのショウノー、酸っぱい爽やかな香りのレグノ―を掛け合わせている。


 これも天然由来だから、忌避剤でありながら部屋の芳香剤として活躍する。さらには自分に吹きかければ虫よけと香水の代用となるという優れものだ。



「優れて、はいるが。これに香水を重ね掛けはできないだろうな」



 その通り、香水にこだわりがない人向けだ。


 シヴァリーは次の小瓶を手に取る。こちらもバイバイシリーズの【アニマルマルバイバイ】だ。動物全般に効果のあるカプシウムを原材料とした忌避剤。


 カプシウムは目に入ると激痛に襲われ、食べればピリリとした辛味が特徴的な赤い植物だ。これは暴漢に襲われたときに相手に吹きかければ、目くらまし程度に相手をのた打ち回らせることができる防犯グッズとしても利用できる。



「目くらまし程度とは?」



 シヴァリーは説明書きを見ながらおぞましそうにそれらを棚に戻した。天然由来成分にこだわることで他の利用方法も提示できる点は他にない。けれどその使い道が絶妙に微妙な点が否めない。


 シヴァリーは次に武具のコーナーに向かった。防具には王道の鎧や甲冑、小手、盾が並ぶ。解説を見ればおかしなものばかりだが、シヴァリーはそれを見逃した。剣や弓矢、槍、刀、魔石を使ったマジックの名を持つ商品も並ぶ中、シヴァリーは見慣れないものを手に取った。



「これは?」



 逆手持ちを想定した斧。棘だらけのボールを頭に付けたモーニングスター。刀身が炎のようにうねった剣。三日月型の鎌。鉄線と棘で作られた鞭。異常な重さのメイス。鋭い刃に返しが付いたチャクラム。投擲用のナイフやクナイ。手裏剣やマカロンと呼ばれる、同じ名前のお菓子そっくりの形をした糸付き投擲武器。


 実に多様かつ見たことのない武具とも言い切れない商品たち。シヴァリーは見ているうちに頭がクラクラしてきた。



「面白いだろ、この店は」



 ラルドが声を掛けると、シヴァリーは頷いた。



「ええ。おかしなものばかりだと思います」


「これだけ商品が充実しているのに客足はほとんどないんだ」



 シヴァリーは言われて見れば、と店内を見回す。店内にはラルドとシヴァリーだけ。街の道具屋といえばひっきりなしに客が押し寄せているものだ。これだけ客がいないとなると、相当腕が悪い以外に考えられない。



「スレートさんが店主だったときは行列もできるほどだったのだが」


「ラルドさんがこの店を気に掛ける理由はなんですか?」


「ラルドで良い。それに敬語も不要だ。まあ、そうだな」



 ラルドは手にしていた指輪を照明に照らしながら考える。幼き日の記憶。それを思い返すと、いつになく柔らかな笑みを浮かべた。



「幼馴染だから、だな」


「それだけ?」


「ああ。いや、それ以外にもないことにはないが。それを聞くのは野暮ってものだ」



 ラルドが悪戯っぽく笑うと、シヴァリーは意外そうに目を見開いた。そして少し考えると、シヴァリーも意地の悪い笑みを浮かべた。



「商人としてはどうだ? 商売人として、ジェマさんをどう見ている?」


「商人として、か」



 ラルドは欺くためには嘘も必要だろうかと悩む。けれどその切れる頭はラルドが思う以上に優秀だった。



「これからの成長に期待をしている」


「なるほど?」



 これは嘘ではない。現状のジェマの能力に恐れ戦きながらも、ジェマの成長が楽しみでもあった。スレートを凌ぐほどの所有者固定魔道具師になることも夢ではない。そう信じさせてくれる力がジェマにはあった。



「面白い」


「お夕飯ができましたよ」



 シヴァリーがぼそりと呟いたとき、ジャスパーが作業場の方から2人を呼びに来た。シヴァリーは案内されるままに人間用のリビングへ向かう。その途中、薬の中に面白いものを見つけた。



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