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道具師ジェマ


 ジェマが目を覚ますと、目の前にピンクのフリル付きエプロンを着たジャスパーが立っていた。室内には温かくて優しい小麦の香りが漂っている。



「全く。起きてきたかと思えば準備中に寝やがって。朝食、できたぞ」



 ジャスパーが差し出した右前足を握ってジェマは身体を起こした。立ち上がるとジェマとジャスパーの身長は並ぶ。ジャスパーは目の前のジェマの寝癖を蹄でツンツンとつつくと、ふわふわと飛んで椅子に座った。


 この部屋を彩るのは全てジェマが作った道具と家具。ジャスパーのために作られた、木目調と白を基調にした森の懐かしさと清潔感を掛け合わせた安らぎの空間。


 パンとスープ、そしてサラダとスクランブルエッグ。ジャスパーが用意してくれた調理が並ぶダイニングテーブルと、それに合わせて作ったベンチ型のダイニングチェア。ジャスパーと向かい合わせで座ったジェマは、胸のロケットペンダントをそっと撫でた。



「どうした?」


「ううん。いただきます」



 フォークを握ったジェマは、サラダから食べ始める。ジェマの様子をジッと見ていたジャスパーは、ふんっと白い鼻を鳴らした。



「今日の予定は?」


「えっと、午後に〈エメラルド商会〉のエメドさんが来てくれるって」


「分かった。午前は作業場に籠るのか?」


「うん。店に並べる商品を補充しないと」



 ジェマは10歳の誕生日を迎える直前、スレートが亡くなった。森に素材採集に行って、盗賊に殺された。たまたまその場を通りかかった冒険者が遺体を見つけ、冒険者ギルドへ報告したことで発覚した。


 それから2ヵ月、ジェマはこの家でジャスパーと2人で暮らしていた。スレートが遺した本や教えてもらった技術。ジェマは唯一持っていたそれを糧に、成人を迎えた10歳の誕生日にスレートと同じ所有者固定魔道具師になる道を辿り始め、スレートが開いた店〈チェリッシュ〉も引き継いだ。


 まずは道具師ギルドに所属して道具師として小物や家具を作り、そこに魔術を書き込む訓練をする。そしてその技術を極めることで最難関である所有者固定魔道具用の魔術の付与ができるようになる。作った商品を道具師ギルドに提出することで所有者固定魔道具師として認められる。


 道具師、魔道具師そして目標である所有者固定魔道具師。その道の第一歩である道具師として承認を受けたジェマは、道具を売りながらスレートとの思い出が詰まったこの家で暮らしている。



「ごちそうさまでした」


「はい。お粗末様。片付けたら店開けるから。ヘアピン付けとけよ?」


「分かってる。ありがとう」



 ジェマは店番をジャスパーに任せていた。けれど普通、精霊は人間の目には見えない。だから客が来ればジャスパーが作業場まで知らせに行く。知らせを受けたジェマは作業場から出て対応をすると、すぐに作業場に戻る。作業に没頭できる生活には満足しながらも、乏しい客足には頭を悩ませていた。


 ジェマたちの家兼店は街はずれの森の入り口に位置していて、わざわざ新米の道具師の元へ行くくらいなら街中の道具師の元へ行く人ばかり。客は今のところ近所の人か商人のエメドを介した相手しかいないため、収入は少ない。そのおかげで自ら森へ素材採集に行くことも多い。


 しかし素材採集にも危険がつきものだ。魔物や動物に襲われる危険や、間違って森の民の自治領に足を踏み入れてしまったり盗賊と出会って命を狙われることもある。だから冒険者ギルドに依頼をして護衛をつけるのが鉄則と道具師ギルドからも言われている。


 けれどどうしてもお金が足りない。仕方がなく、店が休みの日にジャスパーと連れ立って森へ入る。短足ながら戦闘能力も高いジャスパーがいれば、大抵のことは大丈夫だった。


 スレートが作った雫型のオーナメントが付いたヘアピンで右の前髪を止める。目と髪の色が変わったことを確認してからドアを開けると、【スケールパイプ】を通ってジャスパーの部屋を出た。すっかり元のサイズに戻ったジェマは、ドアを閉めるとドアが隠れるようにカーテンを閉めた。


 ジェマはスレートが作った【スケールパイプ】を通って、ジェマが作ったジャスパーサイズの部屋とスレートと暮らした家を行き来している。あの件以来、スレートはジャスパー用の【スケールパイプ】を作ることはなかった。


 しかしジェマは家事ができない。スレートが亡くなった今、ジャスパーが家事をしやすい部屋へジェマが入ることで生活を成り立たせていた。


 店の裏手の作業場。瞳と同じサファイア色のエプロンを着てから机に座ったジェマは、やりかけだった宝石細工に取り掛かる。冒険者用の剣や防具を作ったり、大きな家具を作ったり。なんでも作れるのが道具師だ。その中でもジェマは、宝石細工や精霊用の家具や道具を作ることが得意だった。



「こんなもんかな」



 キラリと太陽の光を反射して輝く指輪。【マジックリング】と呼ばれるものだ。はめ込まれた緑色の石は、ジェマが本来持つ右のヒスイ色の瞳と同じ色をしている。しかしこれはヒスイではなく、魔石。


 魔術を付与した魔道具では使用者の魔力によってその作用が変化するが、元々魔力を持っている魔石を利用した魔道具は誰が使っても同じ作用を得られる。しかし魔石の加工には平均よりもかなり多い魔力量が必要になる。指折りの道具師、魔道具師にしか扱えない代物だ。


 ちなみに魔石を用いた魔道具を生産できても、魔術を付与した魔道具を生産できなければ道具師ギルドは魔道具師として承認しない。あくまでも才能よりも技術や経験を重視するスタンスだ。


 ジェマは一般的な人間が保有する魔力を優に超え、四天王クラスの魔獣と同等の魔力量を有していた。そのため魔石を用いた製品の加工も行っていた。



「売れたことはないけど、あれば困らないでしょ」



 何せ客がいない。小さくため息を吐いたジェマは、次のペンダントの制作に取り掛かった。



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