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 ジェマがケーキを堪能していると、ダンス曲が流れ始めた。貴族たちだけでなく、騎士たちも踊り出す。とはいえ、このパーティーに参加しているのは大半が男性。数少ない女性と踊ろうと至る所で躍起になっている男たちがいる。



「ジェマさんは踊りたいですか?


「私、ダンスとかやったことないです」


「分かりました。私から離れないでいてください。そうすれば、安全ですから」



 社交ダンスなんて見たこともやったこともない、という状態のジェマはとりあえずお菓子をせしめてハナナの隣をキープする。その周囲を第8小隊の面々が囲めば鉄壁のガードの完成だ。



「お嬢さん、私と踊ってくださいませんか」


「いえ、それなら私と!」



 一方、第8小隊の面々から少し離れていたユウは、何人もの男性から声を掛けられて困惑してしまう。本当ならば輪の中でジェマと一緒にいたいところ。けれど先ほど頷いてしまったからにはチャロがやってくるのを待つしかない、と考えて1人で立っていた。



「ユウさん、とても綺麗だから目を引きますね」


「そうですね。あの髪色も短い髪も珍しいでしょうし、なにより姿勢が騎士仕込みの美しさです」



 ハナナはそう言って微笑む。ジェマはなるほど、と頷きながらマカロンを口にした。



「おいひ」


「ふふ、良かったですね」



 ハナナが蕩けたようなパープルの瞳でジェマを見つめる。ジェマは大きく頷くと、ハナナにピンクのマカロンを1つ差し出した。



「ハナナさんも、良ければどうぞ」


「ありがとうございます。いただきますね」



 大事そうに受け取られたマカロン。ハナナはゆっくり、噛み締めるように味わった。



「とても美味しいですね」


「ですよね」



 ジェマはふわふわと微笑んで、もう1つマカロンを口に放り込む。今日はジェマのお菓子への欲求を止めてくれる保護者はいない。ジェットもジェマの隣でカップケーキに舌鼓を打っていた。



「ユウさん。よろしければ私と踊っていただけませんか?」



 ジェットが9つ目のカップケーキを食べ終わったとき、ユウの前にチャロが跪いた。ユウを見つめる頬はほんのりと染まり、周囲の人々はひそひそと噂した。



「あの子、騎士らしいぞ」


「てことは貴族か」


「ああ、でも俺前に会ったことあるけど、准男爵家のご令嬢だ」


「准男爵? それじゃあ、辺境伯家に嫁いだらとんでもない玉の輿じゃねぇか」



 シヴァリーは声の主たちをギロリと睨みつけた。声の主であった兵士たちはビクッと肩を跳ねさせてそそくさとその場を立ち去った。



「おい、あそこにいる騎士って、第8小隊だよな?」


「あの底辺騎士たちか」


「ふっ、あんな底辺なくせに、よくこんな盛大な祝勝会に顔を出せたものだよな」



 この声に反応したのは、今度はチャロの方だった。チャロは俯くユウにこそっと耳打ちした。



「少々目立たせてしまうことになりますが、ご容赦を」



 ユウが聞き返すよりも先に、チャロは大振りに腕を広げた。



「これはこれは、ユウ・フォルビア様。第8小隊の騎士として最前線の防衛線にて奮闘していただいただけでなく、我が弟、アイトをお救いいただいたご恩、一生忘れません。今宵、貴女のような勇敢な方と踊ることができるなど、私は幸せでございます」



 優雅に一礼してから手を差し出すチャロに、ユウは一瞬呆然とした。けれどすぐにハッとすると、小さく膝を曲げるようにして一礼した。



「こちらこそ、このような素敵な場へお迎えいただき感謝いたしております。この度のお誘い、謹んでお受けいたします」



 ユウがチャロの手を取ると、それを待っていたかのようにダンス曲が始まった。くるり、ひらりと舞うユウは、剣を持って魔物たちの前を舞う姿とはまた違ったエレガントな美しさがあった。



「綺麗……」



 ジェマはそう呟いて、マカロンを食べる手が止まった。貴族のダンスを見る機会もなかった上に、ユウもチャロもダンススキルが高い。誰も彼も2人のダンスに視線が釘付けになり、そこだけ薔薇の花びらが舞っているかのように錯覚してしまう者すらいた。


 ユウはチャロのリードに身を委ね、チャロは正確にユウを導いていく。2人の寄り添うようなダンスは初めてとは思えないほど息がぴったり合っていた。



「美しいわね」


「ええ。それにあのチャロ様の表情をご覧になって」



 ご令嬢たちの視線を集めたのは、間近にユウの顔を見ることになったチャロの赤くなった頬と照れ臭そうに落とされた視線だった。



「これは、もしかすると、もしかするかもしれませんね」


「……ああ、そうだな」



 ハナナが小さく微笑むと、シヴァリーは嬉しそうに口角を持ち上げながらも迷うように言葉を詰まらせた。



「これからも、ユウが騎士であり続けることができれば良いんだがな」


「そうですね」



 2人はまるで親であるかのようにユウを見つめた。ユウは5歳差だが、シヴァリーは1つしか変わらない。それでも娘を嫁に出す父親のような表情でユウをジッと見つめるのは、騎士たちの心の距離の近さに由来するものだ。



「ユウが幸せであれば良いな」


「はい、そうですね」



 シヴァリーの言葉にハナナが頷いたとき、曲が止まってチャロとユウのダンスへ会場中から賛辞の拍手が起こった。



2024.12.12は作者疲労につき休載します。

また来週!

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