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ペペロンチーーノ  作者: 白咲・名誉
第2章オードヴル 【プリモ・ピアット】
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第7話【何かが始まる予感がして 心が鳴った】


  羽田空港にて飛行機の出入り口を通過する。蛇腹状の通路は寒い風が吹いている。


 俺と刺鬼さんの背中に着いてくる鋭い眼をした警官たち。


「簡単だっただろ」


 笑って俺の肩を押す。力が強くて前屈みに転びそうになった。


「警察沙汰はこれで勘弁してください」


 警察からのプレッシャーは恐ろしかった。何度ちびるのを堪えたことか。


 警察官の恨みを買うことを言わないでほしい。ただでさえ容疑がかかっているのに捕まえられなくて苛立ってるんだから。


俺は青色の息を吐く。


 それなりに大移動をさせられてこっぴどく疲れていた。表情筋が思うように動いてくれない。俺は相当げっそりした表情をしていると思う。


どうして後ろに警察が出てきたのか。


 それは奴等を撃退後、俺たち2人は道警どうけいに自首をすることにしたからだ。


 わざわざ捕まったのは不安な要素を消す為。どうやら人混みが多い場所の暗殺は容易だと、そう刺鬼さんが言っていた。


 俺には理解ができないが暴力と殺しの達人が説得してくるから信じることにした。


 敵の正体も規模も不明。警察組織を手足にできる連中なのはヤクザのおれだからうっすらと察っした。


 スムーズに司法取引ということで道警から東京県警へ引き渡しへとなった。


 どうせ刺鬼さんが賄賂か恐喝をしたんだと思う。こんな簡単に東京県警からお咎めなく空港を出れて釈放になるんだから。


 寄り道をせず最寄りの出入り口からタクシーに身を押し込んだ。


 車内こ鼻がひん曲がりそうになるほど漂うカビ臭さとタバコのにおい。最悪だ。


 運転席に取り付けられている灰皿が満杯になっている。はみ出すタバコの吸い殻の山が邪魔して口を閉められずにいた。


 しかもまだ煙が立っている。きっと急いで消したんだ。


 助手席は助手席で酷い。マイル6のタバコの箱で散らかってて乱雑にバインダーとペンが数本転がっていた。自分で片付けておけよ、と言わなくても分かっていて欲しい事態だ。


 人として終わっている感じがしてて注意をする気力が萎む。


 だから俺は運転席側の後部に手を伸ばそうとした。苦情を書く用の葉書が棚が設置されている。


 しかし1枚も無い。何処にあるか探すとバックミラー越しで目が合った。


「お客さんにいつも文句言われるんで取り除きました」


 運転する人の名前の表紙を確認する。後日、会社に連絡してやる。


 何処で組長を弔うのか知らないのに刺鬼さんはとある町の葬式会場を指定した。


 そこは埼玉寄りの郊外。第二の西成と呼ばれている貧民の町。


 なぜ見当をつけられたかはわからないが、きっと警察からのタレコミだろう。


 運転手は、「はい分かりました」と言う。元気があるわけでも嫌な感じを出すわけでもなく飄々と応答した。


 空港から走る一般道には車が多くて滞る。進んではブレーキの繰り返しで腹が立つ。


 高速道路からはスムーズに車が進行しイライラが減った。


 この先の身の振り方も定まっていないのに振り回されるストレスもある。そのせいでこうも自分を短気にさせている。


眼が蕩けそうなくらい眠たくなっていた。


 ヘッドレストに設けられた小さなモニターを窓辺に頬杖を突けて眺める。


 放送されるのはこのタクシー会社の広告映像のループ。


 つまらない話題を広げるラジオを聴いているより、動きのある映像の方が苦痛には感じられなかった。



刺鬼さんは腕組みのまま目を閉じ静止していた。


 だが一度だけ目を開くことがあった。何かに急かされるようにいきなり声を発した。一息で聞こえるようはっきりと言う。


「おいラジオつけろ、FM802.566」


 ニュース番組だった。札幌で回していたチャンネルと同じリポーターが読み上げている。それは憲法の改正についてをまとめた世論調査だ。


 長々と訳の分からない説明するが興味のない俺はあくびが出た。


 起きていたのか寝ていたのか分からない曖昧な意識のまま、緩やかに車が減速した。


「着いたか?」


「いえ、まだですけど」


「あ?ならなんで停まるんだよ」


「この町は日本人が目の敵にされるんですよ」


「それがなんだってんだよ」


 意味ありありに言う運転手を相手に俺は突っかかった。寝起きなのも合って気分が良くない。


「たかだか車のエンジン音ごときでモメたくないんです。なのでもう降りてもらえませんか?」


「んなもん無理だ、行け」


「間も無く目的地ですから迎えの電話はよこさないでください!」


「なんだってんだよ!なんでそこまでしておめぇが嫌がんだよ」


「いや、なんというかお客様方が行かれる町、最近はc国人が集まっててスラムになってるんです。以前から物騒でしたが今は法のない町ですよ。あんなとこ」


「俺に言ってもしょうがないだろ。話しかけてくんな、行け」


「こっちはあんたらの身の心配してんだぞ」


「余計なお世話だバカやろう」


運転席をノックする音がした。


 車内で全員が振り返る。そこには笑顔と真顔を繰り返すヒョロ長い男が1人立っていた。黒い鞄を片手で掴んでいる。


「は、はい?」


 窓を開けた運転手が気を揉んでこんにちわと言う。俺たちより恐ろしいのか最初の態度が真逆だった。


「你是日本人吗?」


「あ?なんだって?」


「别侵犯我的领地」


 何を言ってるのかさっぱりだった。理解か出来なくてイライラしてきた。


「や、ちょっと分かんないっすね」


 困った顔で笑っている。対応が難しいと表情から伝わる。


 すると運転席に身をよじり、運転手は胸ぐらを掴まれた。


「你对医学感兴趣吗?」


立て続けに外人が言う。


「不买就死吧」


「るっせえなぁ、ごちゃごちゃ言ってんじゃねえぞ」


 刺鬼さんは怒号を吠え、身を乗り入れてくる奴を殴った。


 物が吹っ飛ぶ音の後、外人は車内から外で尻餅をつく。



「うげっ」


俺は悲鳴のような驚き方をした。


 そいつは左瞼が青紫に変色していた。更にキモい事に奴は緑色した血らしき液体を鼻からぼたぼたと垂らしていた。


 体に悪そうなライトグリーン。最初は宇宙人か何かかと自分を疑う。しかしそいつの出す色の血はやはり赤くはなかった。


 刺鬼さんも運転手もそうだった。興味がある訳ではなく、現実にこんな奴いるのかを受け止めたくてジロジロと見てしまっていた。


 奴は手に持っていた手提げ鞄から銃を向けた。よろけながら標準を絞った。


 言葉の通じない相手。殴られた衝撃でそいつの目はギラギラと燃えていた。


 オモチャじゃないと分かる迫力。あいつは無闇に撃つことが可能な奴だ。


すぐに俺は指をまっすぐに向けた。


「行け行け行けっ。行け!!!!!」


運転手は目を瞑ってアクセルをベタ踏みした。


 バキュウンと火薬が弾ける撃鉄が3度、そのあと2度放たれた。


 身を低くして頭に手を当てる。俺は目を見開いてヒヤヒヤしていた。


やべー町に来ていたと、ここで俺は後悔した。

ヘッドレスト→車の頭をつける部分。

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