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ペペロンチーーノ  作者: 白咲・名誉
第1章 【アンティパスト(前菜)】
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第5話【抗え、生き残れ。全面戦争 勃発】


 男の運転はアクセルを踏んで後続についてくる車と距離を離す。


束の間は離れたが追手も必死に着いてきた。


車同士が衝突し、車が横転した。


「ちぃぃ派手にやっちまったな・・・・・・・。生きてるか?おい」



 車の外からは運転していた男の声がした。霞む視界がクリアになるにつれて、血管を脈打つ激しい頭痛が襲ってくる。


 目の前にひび割れたフロントガラス。この先から重力が反転している。


 生えている木々にガードレール、コンクリートの道路、澄んだ青い空が上にあるはずなのに逆さまになっていた。


 衝突の反動で車体が横転したのだ。今さっきあったことを思い出した。男は急遽、車を逆走させ対向車と衝突させた。


 その際に射出されたエアバックの衝撃が顎に当たってから・・・・・・目の前が暗くなったんだった。


「気絶してましたね・・・・・・俺」


「あ?1分も経ってねーけど。さっさと出な」


 窓ガラスがあった位置から這い出る。アスファルトに肘を擦らせるから痛い。





 陽の眩しさに立ちくらみを起こす。辺りを見回して外と自分の変化を観察した。




 足元にスクラップになった車があった。あれは対向車だ。ガソリンオイルが垂れ流れて、チロチロと床を湿らせている。




乗車している人が近くにはいない。




 目を凝らして車内に視野を集中させる。頭蓋骨が割れて項垂れていた。脳みそを露出させて、四方八方に弧を描いて血が吹き出している。



 

 胃酸がせせり上がるのを喉の筋肉を引き締めて我慢した。高速道路だからか平地よりもぬるいが風が強く多く吹く。




「安い車乗ってるからそうなるんだよな」




「だからって特殊メイクじゃないんですよ!」




「あぁなりたくないんならこれでも使いな」




黒い塊を投げ渡される。タイミングよくキャッチする。




「え、ちょこれって」



 

手から伝わる鉄の冷たさや重量にこれが銃だと思わなかったので驚いた。




「護身用だよ。お前チャカの経験は?」




「や、ないです」




「ちぃっ!ハワイで経験しとけや。いいかこれはな」と銃の説明をされた。




 この銃はコルトという名前のリボルバー。実戦は的撃ちと違ってチンタラ構えてたら先に撃たれるから、銃口を向ければ即座に引き金を引けとのことだった。





「それは分かったんですけど、どうするんですか、こんな・・・・・・これ持ったって、もう逃げるしかないじゃないですか」





走るか、いや車を盗むか。2択しか思い付かない。でも周りに一台も車が走っていない。





「そんな暇あるか、目の前見てみろ」顎を前に振る。





さっき後続に付いてきた車から数人の男達が降りてきた。




「ご登場だな」





奴等は激しい感情で目の奥をギラギラ燃え盛らせている。





前列が4人が胸を張り背筋を伸ばす。片拳を引き締め、警棒を構える。闘う体勢だ。




 こいつらにはもう余念がない。後列の4人がマガジンに弾を込めている。ここでジタバタしてても後がないのか。




「的は8人か。めんどくせーな」




 後列は腕を伸ばしてトリガーを引く腕に頭を乗せた。照準を固定させている。風の吹く音を急に意識的に耳に入り込む。自分で選んでない事態。でも危機。




 このまま逃げられる想像が沸かない。戦っても獲物があるんじゃどうしようもない。銃を日本で使うなんてどんな状況なんだよ。




 処刑用か鉄砲玉役くらいしか所持を許されていない。なぜなら銃刀法違反で普段使いが不可能だからだ。撃ち合いなんてないし。




 生命たま取るのは相手の予期せぬタイミングで発砲する。それが鉄砲玉のやり口だ。





 赤旗の足が震え始める。喧嘩の経験はあるが、それはいつも思い返せば素人レベル同士の殴り合いくらいだった。だが、赤旗の横に立つ男はまだ、頭の中で勝つシュミレーションを行なっている。


 隊列を組んでいる輩の全ての人の目を観察する。全員が殺意を持っている。だから探す。目の奥にある念が違う人を。


 こうしている合間だって前列の人達が俺たちに向かってゆっくりと出方を伺いながら距離が詰まってくる。


男の口から出てきた言葉がこれだ。


「殺す・・・・・・。殺してやる」男は背筋を緩く曲げた。


 彼は敵に見えず、腰の位置から右手の人差し指と中指2本をくねくねさせる。


「え、なんて・・・・・?」


 俺には伝わらなかった。だが言いたいことは分かった。


薬指も追加して3のジェスチャー。2、1。



「行け」


 右手で右側に背中を押される。後列の銃の的を赤旗に絞り、撃ち始めた。前列が俺に突進する勢いで走り寄る。


刺鬼は左側に走って展開する。


 男を狙えば前列の組に弾を当ててしまう。銃を握る2人くらいは撃ち方に戸惑いがあって、発砲の間隔に乱れが生じる。


 赤旗はジグザグに走る。うまく避けているみたいだ。


 警棒を持つ男たち4人を相手に、ボクシングのステップらしき動きをして極小の身振りで攻撃を避けた。


「残念だったな素人」


 バシュバシュッ。サイレンサー付きのハンドガンが赤旗を追う。だが赤旗も必死に当たらないように常に大きい動作で動き続ける。 


 赤旗の頭の中はパニックになっているが興奮もしていた。


 彼の足元には吹き飛ばされた車のドアがあった。そこまで走り寄っていた。


 頭から伏せて転がり、落ちていたドアへ着地した。


 手すりを掴んで盾にする。前列に立つ警棒隊にすり寄る。


 弾丸が着弾した時に伝わる振動で手首がいかれだ。つい手を離しそうになる。


 やっとの思いで詰め寄ると、初めに思い切り振ってきた警棒の先端に合わせて躱す。


 そうやって動きに目が慣れるまで、警棒に当たらないよう気を付けた。


 そうして空振りとなる間合いで懐に潜り込んだ。そいつの左肘を掴むと、一本背負い。床に叩いた。


 瞳原に入職する際の必要な条件は、格闘技のライセンスの所持。こと戦闘に関して知識も経験もある。


しかし足が宙に浮けば誰もが赤子同然だ。



 刺鬼は身を屈んで全速力で走る。掌サイズのコンクリート片を拾うとそのまた投げた。1人に当たる。

 


「グワっ」


手に直撃すると汚い声で痛みに喘ぐ。


 同時に1発の発報。当たらない球が地面を擦った。


 弾丸はコンクリートを削って火花が散った。すると、さきほどの瞳原の何台目かの車から爆風が巻き上る。


瞬間的に陽の光より明るく光を放った。


 目の前の敵だけを倒すことを念頭に置いていたから音に身体が反応し縮こまる。


 鉄の破片が舞い、ガソリンの臭さが空気の流れに乗る。


 瞳原の何人かは運悪く炎の近くにいたようで、火だるまとなった。


 腹の底から金切り声をあげている。そしてすぐに琴切れた。


 女神は微笑まない。刺鬼さんも火事に巻き込まれた。


 ゴウゴウと燃え盛るとその周辺の空間が歪に曲がる。


「刺鬼さんっ!!」


 俺の激しい叫声は新千歳空港インターチェンジ道に反響した。



 直後、人間が腹からは出せない叫び声があがる。耳を塞ぎたくなるほどの軋む雄叫び。


 火の中から刺鬼は出てきた。上半身に身に纏う布からは火柱が立っている。


彼は服を破った。


 赤い門に足元が燃え盛る赤鬼の絵画もんもんが描かれていた。刺鬼と呼ばれる人間に一枚の写真もない。


 だが彼を見たことあるという人間が云うには豪豪と割れんばかりの羅刹の表情をしている、とだった。


 薄っすらとそんな人間もいるとも思うが、誰も彼もがそれは都市伝説だと信じていなかった。



「あんたは本当に刺鬼さしきだったのか・・・・・・?」


「んな名前、どうでもいいだろ」そう応えた目の光が曇った。



 自分たちの仲間が死に、敵は生還する。刺兄は突進し、1人の腕を掴む。腕を抜こうとしても握力が万力のように固く引っこ抜けられない。


警棒で背中を叩くが焦りか恐怖で威力はない。

 

 手を離さないまま足を払う。転ばせ、同じ動作で掴んだ腕を逆鯖折りでめた。


 割れた骨の先端部が肌を突き破る。鮮血が一本の水飛沫を吹いた。


 操作が効かなくなり、折れた前腕は宙ぶらりんとなる。


 自分の腕の異常さを理解するのにコンマ何秒かのラグ。


 昂る苦痛からせせり上げる悲鳴。周囲を囲う前列にいた刺客は1歩後ろへ引く。後列はあの男に発砲しようとした。


 戦闘時独特の臨場感があの男のバイオレンス格闘によって緩んだのを赤旗が見逃さなかった。弾に当たらないよう動きながらも距離を詰めていった。

 

 だから銃口マズルの側面を掴んで発射口の進行を変えられた。撃鉄が弾かれた時に射手の目が開かれる。しくじったとでも思ったんだろうがもう遅い。


弾の軌道の進路が後列にいた刺客の人中ブルズアイから頭蓋骨を貫通した。


「なんだお前やればできんじゃねぇか」


「あんたが死んだら俺が困るんです」


男は豪快に笑む。


 2人の勢いに歯止めが効かなくなった。反対に瞳原の小隊は一斉に勢いが衰えた。男の拳に当てられれば骨折し苦痛から動けなくなる。


両陣営はアドレナリンがドバドバと垂れ流れていた。動けるならまだ恐怖は脳に刻まれていない。


 刺鬼は足を狙って腕を振り動きを制す。後列の銃隊は弾が切れるまで執拗に射撃を繰り返す。1人が弾を撃ち切らした。マガジンを再装填しようとする。


 鼓動が速まり、血圧が昇る感覚に気持ちの悪い浮遊感が足元から感じられた。目の前の敵も竦んだがすぐに俺たちを狙う目に戻る。



 だが拳を固く握り直す。赤旗も激しい心拍を抑えようと激しく息を吸う。腹筋を張ってゆっくり吐いた。この動作を身体の強張りが静まるまで往復する。



 敵らからは戦意が消失しかけていた。一度切った火蓋を閉ざすことはできない。瞳原の連中は勢いが衰えても尚襲ってくる。


「これで、終わりですよね・・・・・・?」


「あぁ。でもまだやることが残っている」男は周りを見返し、意識がある人間を探す。


「あいつでいい。近いし」男が指差し、行くぞと促す。


ガードレールに背中を預け、足が逆向きに曲がっていたが意識がしっかりある。


「これはひどいっすね」


こんなことを言いつつ、人体が破壊されている場面で今日は何が食べられるかを考えた。


 脳みそが剥き出しの光景を目にした時より冷静でいられるのは赤旗自身も脳内麻薬がまだ滝のように排出されていたからだ。


「誰に命令された?」


「守秘義務だ・・・・・・ゴロツキに言うかよ」血の混じる唾をこの男の顔に吐き飛ばす。


 ノータイムで男は片手で爪を剥ぐ。フルーツの皮みたいにつるりと剥けた。グとヴの中間の声を発する。取れた爪を持ち主の口内に入れた。


「要点を言え、時間ねぇんだ」


血の出し過ぎで顔が青白くなる。瞳孔が弱まっている。


「め、目を覚ませ。いい加減起きろ。赤旗をこ、殺せっ。それが我らの国の宿願だ」


 俺たちの背後から物音がした。嫌というほど耳にした発砲音。問い詰めている最中だった男は肉の塊と化していた。



 振り返るとそいつは瞳原の刺客は、震えた手で銃を握りしめていた。そのまま口の中へ銃口を押し込む。


「やめろ」言いながら手を伸ばして走ろうとした。くぐもった炸裂音で脳漿が散った。


「ちぃなんだよそれ、本当に要点を得れてねぇな」


「あいつら本当に何者なんですか・・・・・・!?」


 俺は睨んだ。一瞬で湯が沸いたように怒りを俺に向ける。


「どういうことだってっ。えぇっ?知りてぇならくたばることになるがどうしたいんだ。あぁ」


俺の胸ぐらを掴み掛かる。


「ちっ・・・・・・・・めんどくせぇーなくそファッキンが」


 舌打ちをしたら唾を吐いて刺鬼さんは手の力を解く。


「どーにもこーにも組長の葬式には出向かないと行けねぇんだ。ついてこいよ」


「あ・・・・・・・」


 オービスの画角に俺たちは収められていた。そして、1番聴きたくない高音であるパトカーのサイレン音。


「にげなきゃ!!刺鬼さん!!早く!!」


 俺の視界はさっきは広がっていたはずが縮んでしまった。呼吸が速くなっているのが分かる。


 だが1秒経つのが遅くもあり、早くなる感覚がした。


 気絶した者から上着を脱がし、男は袖を通した。青いワイシャツは火の粉のすすで少し黒ずんでいた。


「おい赤旗名案があるがついて行くよな?」



 千歳空港行き残り数キロと表されている看板通りの道。刺鬼は真っ直ぐ歩いていく。


 のっそのっそと歩く姿。ワンサイズ小さいワイシャツなので大きい体格に合わず、ぱっつぱっつになっている。


大きい胸筋によってシワが伸ばされていた。


「あっはい」

 

 後に引けないしこれからどうして行ったらいいのかもわからない。だから刺鬼について行こうと、足が前に踏み出していた。


「あ〜腹減った。ペペロンチーノ食いてぇな」



俺と刺鬼さんは警察にお縄となった。

ワクワクする1話って作るのが難しいですな

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