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ペペロンチーーノ  作者: 白咲・名誉
第1章 【アンティパスト(前菜)】
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第3話【何があっても生き抜け】

登場人物 


男 片方の太ももに大きい傷を負っている 一人称は「オレ」


赤旗 一人称「俺」



仕立て屋 語尾がカタコト


 陽の光がレース越しから透き通る薄闇の居室には生活感を見出せる家具がない。


 だが床の上には実銃の薬莢がばら撒かれていた。フラッシュグレーネードらしきものまで転がってあった。


見慣れない空間に寒気が立つ。


 目の前に立つ男は威圧感を放ったまま大盛りのパスタを食らう。


 一息で啜ったら肘くらい高い木製のテーブルに大食器を置いた。


 ただそれを見させられる俺は訳がわからないで椅子に座らされ、縄で体を固定させられていた。


目の前の彼は脚を交差させてモデル立ちをする。


 湯気が昇るパスタをまた男は咀嚼して味わう。呑み込むと嬉しそうに白い息を吐き出した。


 パスタを噛み締めている最中は俺を一切視界に入れない。自分1人の世界に浸っている。


 喉を鳴らして呑んだら黒目だけを下げ、俺に焦点を合わせて口を開いた。


「東京で俺を知る人は少ない。若頭でさえ俺の行方を追えないのになぜ俺のアジトに潜入した?」


問答に応じようと身体を前のめりになる。


「それは・・・・・・・」


「答えろぉ赤旗っ!どうして組のバッジを持っていやがったんだ。あれは幹部候補じゃないと持てねぇんだぞ。あぁっ」


 財布の中にある身分証は確認済みだよな。またあいつはフォークでパスタをくるくる巻いて口へ運ぶ。


「金無しの裏稼業が通うには分不相応だ。お前を通したセキュリティの教育不足ってのもあったが。だがそれはそれだ。あの店にお前は何をしにきた。そしてお前は何者なんだ?」


矢継ぎ早に捲し立ててくる。


 そりゃそうだ。あそこにいた客でテレビやネットに映る政治家や社長たちを散見した。


 こいつは皿をテーブルに置いて自身の額に左手を押し当てる。少し黙った。何かを考えている様子。


「活動の場がどこであっても写真なんて撮らせなかった。それは札幌にいても、だ。ススキノで存在を気取られたこともねぇのにテメェが現れた途端に警察スケが摘発にやってきた。辻褄が合うんだよ。てめぇは警察スケの密偵だろ」


 ノーモーションで股の間にフォークを突き刺された。ゴギンと鉄に鉄を打ちつけられた鈍い音が鳴った。


「さっさと認めれば痛い思いはしないで済むぞ」


耳打ちしてくる。


「俺が何者でどこの組にいるのかをお前はわざわざ突き止めてやってきた」


「っあんたの事情なんて知らないんだよ!本当だ」


 俺は間髪を入れずにこいつに食いつく。何度も頭を上下させてかぶりを振ると目から涙が滲む。


 この人もヤクザなら本気で俺が犬だと思い込んでいる。それを拷問を行う事で‘俺が認めた’ということにさせたいのだ。


「頼みます殺さないでくれ。警察の追い込みに俺は関与してないんです」


驚くほど情けない声が出てしまった。


「無理だ。俺を知る人間はいねぇようにしてるのにお前が俺を知っているっていう事実があるとおかしくなる。これがお前を生かせておけない理由になるんだよ」


  張り詰めた空気を作った張本人は喋った後、皿に盛った具材をスプーンで集めていた。


「食べた後に痛めつけるのはだるいからよ、口は縛ってないんだから俺が質問することに早く答えろよ」


 この人を連れてくるという理由をこの人に隠す理由なんてないんだ。


 “恐ろしい相手“っていうのは自分こっちの意見を聞き入れてもらおうとしてもその要求を飲み込んでくれないやつだ。


 そういう奴と会い対すると気力が衰えていき、すぐに諦めてしまいたくなる。


「俺は組長に・・・・・・・あなたを連れてこいと命令され、ここまでやってきました」


「どこの?」


 この人は無愛想に返答をする。つまらない話を聞かされている素振りで冷たく言葉を吐き出される。


 いつ殺されてもおかしくない赤旗は慎重に言葉を選んでいる。噛まないように丁寧に言葉を出力しようする。


 しかし口内が乾いてしまっていた。水気が失われて両頬の肉が舌にくっついてしまっている。


 言葉の合間合間に舌打ちのような乾いた音がならないよう、細心の注意を払う。


「日本全域指定暴力組織・本部、鏡泉きょうせん組、・・・・・・・・・・天道朗郎てんどうろうろう組長より、です」


 俺が言い切ったらこの人は大きめの舌打ちを鳴らした。


 男の顔からはうねうねと太い血管が浮かれて目尻にシワが寄る。


大きい声を出す溜めをつくる。


「クソっ“働き蟻“を遣いに寄越したのか!気にイラねぇなぁ。何か意図があったっところで笑えなんだよ」


蟻 メッセンジャーの隠語。


 口の中からパセリやら噛み切られたパスタ麺などが降ってきた。


 男は突然おれを縛っている椅子の背もたれを片手で掴んで投げ飛ばす。背中から壁にぶつかり頭に強い痛みが走った。


───何かが窓ガラスを割って入り込む。コロコロ転がって床に弾む黒い球体。


強烈な熱と光と音で視界が飛ぶ。


「おぃっ、おいっ!」


 咳き込んでいるあいつの声が遠くから聞こえた。何か言っているんだろうけれど何を言っているのかが分からない。


「な、なんですか?」


 耳の中でジェット機が飛んでいる。舞う粉塵が鼻や口、目の中に入り込んでいておれもむせる。


 目を擦りたいが両手が縛られているので目に力を入れて閉じることしかできない。


「死ぬな!最後まで言い切ってから死ね」


 胸ぐらを掴まれて首がもげそうになるくらい揺さぶられる。


「な、なんとかっ生きてます!!」


 耳鳴りは止まないのでどれくらいの音量がいいのか分からず、腹に力を込めてしまう。


「声がでけえ」


痛痒さが鎮まるとゆっくり目を開く。


 カーテンは入り込む突風でゆらゆら揺れ部屋に灰が舞い、蒸し暑かった部屋の湿度が一気に下がる。


起きた事態に飲み込めず理解が追いつかない。


「なんだ、これ、何が起きたんだ」


 俺は心に浮かぶ言葉をありのまま口からつい出てしまっていた。


「当然お前が描いた絵図だったらアホな面しねもんな。バカでもこんな危険を犯さねぇなら・・・・・・」


 俺に目を合わせてきたと思えば、またそっぽを向く。


 パスタが置かれていた卓の裏側からリボルバーを引き抜いた。


 同じ机の引き出しを開け、ゴソゴソとポケットに物を入れていた。


 なにをしているのかはわからないがせわしなく動いてこの事態に対応をしようとしている。


 だがリボルバーのマガジンに弾を込める時だけ悠長に口笛を吹いていた。


銃の扱いには慣れている様子だ。


「黙っとけよ」


 俺の口元を手で覆わて塞がれる。刺激の強いニンニクの匂いが指から漂う。鼻の粘膜に棘を刺される。

 

 外から足音がすることでこの行動の真意に気がつく。俺より先に多数の人間が近くで待機している気配に気づいたんだ。


ピンポーンと甲高いチャイムが室内に響く。


「近隣マンションの警備です。近くで爆破があり、こちらへ参りました。怪我をしている人はいませんか?」


 耳鳴りのボリュームが小さくなってきた。ハキハキとした言い方をする女性の声が聞こえる。


俺は安堵から肩が下がってしまい深く呼吸をする。


「ン。ファォファフヘレクヘ」


 助けてくれと叫んでも口を押さえられているのでどの言葉もバス楽器の吹く音色になる。


「黙ってろ。それなら会社名を教えてくれ」


 こいつはドアに向かって質問を投げる。片方の手で握っている銃を服の中に入れた。


瞳原がんばらです。すぐに安全かどうかをお教えください」


 もういいから開けてくれよ。俺は必死に叫ぶが無理やり口を閉ざされていたため懇願が届かない。


「めんどくせぇのが来やがったなぁあ」


 突如、部屋のドアを蹴破られ4、5人の男が入ってきた。ターコイズブルーのツナギを着て、胸の刺繍には会社名が縫われている。


 声の主の女は野郎の束の中から現れた。厚手のブーツを履いた、青と黒のバラの刺繍が施されているこげ緑色のジャケットを着ている。


 ぱっと見では華奢そうな指。しかし仕上がったゲンコツが浮き出ておりアンバラスな手だった。


 女はガラス片を砕きながら俺たちに詰め寄る。呆れた表情を作り、手をひらひらさせながら口を開く。


「あんたらを殺そうとしているのに対話なんて馬鹿らしいや。やめやめ」


女が握り拳の中から人差し指、中指だけを伸ばす。


 旗揚げの要領で俺たちを指し示すと一斉に男達は構えをとって、胸ポケットからリボルバーを抜かれた。


 偶然や神かが助けの使者が現れたと思った。だが地獄がもっと地獄に変わったってだけだった。


「眼原が何しにきたんだよ」


 この男は争う姿勢を取る。敵意をダイレクトに女へ照射する。


「あんたじゃ役不足なのよ、勿論、私らに簡単に足払われるって意味のね。だから速やかに渡してくれれば痛い目に遭わせない。約束する」


「人ン家にグレーネードを放り投げてくる奴が言うことかよ」


「発砲許可は私の気分次第で今ここで下せれる。蜂の巣になりたいなら勝手にしなさい」


「怖がらせる相手を間違えてなければ、言う通りにもなったんだろうな」


「イエス以外に答える余地ないの。さっさと渡しなさい」


 もう一度人差し指、中指を立てる。サインの意味は《ファイア》。


拳銃の引き金を引かれた。


「分かった、分かった。面倒ごとはかけられたくねぇし渡してやる」


突如、拘束していた縄が解かれた。


「ほらよ、やる」俺の背中が押される。


 真っ直ぐに足を伸ばせずフラフラした。時間をかけて前のめりで進む。


 だがしかし、後ろにいるこいつに両手を掴まれた。振り返って顔を確認すると意地の悪い笑い方をしていた。


「なーんてな」


 耳元から風切り音がした。何かが投げられ、それが天井に当たって床に落ちる。あいつは俺の両手を掴む手を服の襟に移動させた。


 俺の首下からあいつはもう片方の手を伸ばす。目の前にいるあいつらに中指を突き立てていた。


 目を凝視する女とその取り巻き。なぜなら中指の第二関節あたりに銀の輪っかがハメられていたのだ。


 俺を掴んだままあいつは身体を回旋させる。回転中、俺の身体は勝手に危険と判断して目を瞑った。


 俺たちは窓があった場所に飛び込んだ。ほんの数秒間の無音の後、ずしんと重たい衝撃が身体に走る。


「人の住処を壊した挙句に俺を値踏みだって?甘く見積もったのが誤算だバーカ」


 やり返してやる、そういう意気込みで部屋の中にいる奴らに睨みを効かす。


 外。閑静なマンションが並び、小さな道路の二車線の間に木が植えられている。外気の澄んだ空気を肺に膨らませる。


 目の前の男の視線に釣られてベランダを振り返ったら2、3人の男が俺たちを指差していた。


「もういいだろ」いきなり、掴む手を開いて俺を離した」


「ぎよぇっ」


ついカエルを踏むと鳴る音が腹から出てしまった。


「助けて下さった感じですかね・・・・・・?」


「ああそうなるな」


「あ、ありがとうございます」


「ペペロンチーノを残させた分を取り立ててやる」


 頭を下げるとこの男の膝に太いガラス片が突き刺さっていたのが目に入った。


 自分の血が一斉に引いていく感覚がした。家が爆発したのも驚きだったが、なんだかんだフィクションのように手足が浮いている感覚があった。


 しかし目の前で血がボタボタ流れている様から改めて、未だ危機感から解放されないことを思い知らされる。


「落ち着ける暇なんてないぞ。開けた場所まで走れ。アイツらなら必ず追ってくる」


「えっ」


「しらねぇのか、ヤクザ顔負けの徹底ぶりで追い込んでくる奴を敵に回してんだからな。お前が何したのか分からねぇけど厄介に巻き込んだのはお前だろ。後で説明はしろよ」


俺が答えられずいた。


「こりゃアメ公を相手にしてる方がまだ動きやすいな」


「おらいくぞ」肩を叩かれる。


 こいつの指示された道のりを辿る。いつも通る道なのか、人の通りが少ない、入り組んだ路地を何度も曲がった。


 裸足で歩くので小石が足背に食い込んで痛い。監禁された所は大通りからかなり離れていたアパート街だった。


 そこから人が歩けるだけの余裕しかない角を曲がってすぐにら開けた道を抜ける。


 車通りの多い開けた道に出られた。西11丁目と表記された看板を目に入った。


 ガラスを抜いている暇を与えられないまま数分は歩いたんだ。この人の出血はまだ止まらない。


 側にはコンビニがあったのでそこで電話を借りようとした時、道路脇にタクシーが停車した。


「タクシーあります。行く宛とかあれば乗りましょう」


 乗り込む寸前、厳つい表情をこちらに見せ、溜め息を吐かれた。


「お兄さん方筋モンだよね?方針でダメなんだわ、降りて、降りて」


細かく息を吐きながら隣の男が舌打ちを鳴らす。


 強引に後部座席は押し込まれる。続いて刺鬼さんも座る。


「ちょっと何してんの。運転できないって言ってるじゃん」


突然、窓ガラスを破った。


「な、何するんですか!」


「アクセルを踏み込め」


「え?」


運転席を2度蹴る。


「早くしろ」


 ガラスが刺さっていた部位の辺りを手で覆う。怪我している膝に熱い痛みが響いたんだろう。


 腹に仕込んであったリボルバーを取り出した。自身で割った窓から身を乗り出して空へ撃鉄を叩かれた。


 1発の雷を裂いた音と共に車内にはツンとする火薬の臭いでいっぱいになる。


 そうなるよなって思って、俺は耳に指を突っ込んでいた。だが運転手の瞳孔は開いており、口はアングリとしている。


空砲の影響で前後の車体は急停止した。


「どーでもいいし、俺たちは見てくれ通りのヤクザだ。この銃もオモチャじゃないってもう分かるよな」


 運転手は自身の身に起きた事が現実だと受け止めきれてない面持ちで口から涎を垂らしていた。


 俺は後部座席で自分の裸着を破り、膝の関節部を固く縛る。ごくごく簡易的だが圧迫止血の要点は抑えていた。


「あの・・・・・・そのビルには何があるんですか?」


「仕立て屋がいるんだよ。札幌ではそいつが麻薬以外を取り仕切る、言えば偽造でさえ簡単にやってくれる」


「な、なるほど、道具屋みたいなモノですか」


「そういうことだな。やってる事は似てるようだがそいつは自分を仕立て屋と名乗る変わった奴だ」



 

赤旗臨あかはたのぞむ


産まれは東京 15歳で博多に引越し、その町の暴走族に参入する。


2年在籍したが、天下流布を果たそうとした亞留照滅疾アルティメットという族に壊滅させられ東京へ出戻る。


その際に泉鏡組参下のヤクザに組み入りし、見習いとしてこき使われる。


たまに債務者が支払わないで逃げ出さないように脅迫と誘拐をする仕事がある。



酒も煙草もやっていた時はあるが、ホステスの従業員から、「一気飲みとかヤニクラもそうだけど人前で自分が酔ってる姿を晒すのカッコいいとかおもってるんでしょ」と図星を突かれ、どちらも口にしなくなった。


ヤクザとして上を目指したいとは思ってはいるが、今の生活になんとなく居心地の良さを見出しており、そのままでもいいかと考えてもいる。


好きな食べ物は揚げ物。

嫌いな食べ物は塩ラーメン(食べた時の期待を上回らない:本人談)


喧嘩は10対Iは無理だが、素人同然の相手で素手同士なら3対1は頑張っても勝率は五分くらい。


兄が1人。家族とはヤクザになってから縁を切られた。



最近の悩みは住み込みの生活のため、自慰行為が出来ないでいること。


東京に流れてきた時に、ヤクザに絡まれ、カッとして灰皿で殴り、慰謝料としてヤクザに組み入りした。



特殊詐欺の受け子のお金の回収をするのが日課。

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